経済界GoldenPitch2025審査員特別賞受賞
ゲームの要素をさまざまな分野で応用することによって社会課題の解決を目指すDigital Entertainment Asset(DEA)。同社の事業戦略と将来の展開について、山田耕三社長に聞いた。文=吉田 浩 Photo= 西畑孝則(雑誌『経済界』2026年6月号より)
山田耕三 Digital Entertainment Assetのプロフィール
やまだ・こうぞう 1977年生まれ。東京大学法学部卒業後、テレビ東京入社。音楽・バラエティ番組を中心に制作を手掛ける。2018年退職後、シンガポールでDEAを設立。ゲーミフィケーション事業開発を主導する他、自社トークンエコノミクスの構築を手掛ける。
顧客が抱える課題をゲームで解決する発想
「電柱の写真を撮影するだけで報酬がもらえる」――これは、冗談でも詐欺でもなく現実の話だ。DEAが東京電力と共同事業として展開するインフラ点検陣取りゲーム「ピクトレ」は、リリースから約1年半で10万ダウンロードを記録した。ゲームの内容は、ユーザーが対象地域にある電柱をスマートフォンで複数の角度から撮影してチームの電柱として獲得、同じくチームメンバーが撮影で獲得した電柱と線でつないで、その長さを他チームと競うというものだ。電柱1本の撮影につき得られるポイントは、Amazonギフト券やDEAの独自暗号資産「DEP」などと交換でき、中には数十万円ぶんを稼いだ強者もいるという。
事業がスタートした背景には、電力会社の作業員不足と点検にかかるコストの問題がある。東京電力の所管区域にある電柱600万本を点検する費用は、人件費だけで年間約30億円に上る。ピクトレはそのコストを半減させることを目標に開発され、一般ユーザーがゲームに没頭すればするほど課題解決に貢献できる仕組みとなっている。電柱だけでなく、さまざまなインフラの保守点検需要は、約5兆円になるとDEAは見積もっている。
ゴミ分別をテーマにした「エコキャッチャーバトル」も同様に、廃棄物処理の労働力不足という社会課題とゲームを結び付ける発想から生まれた。タッチパネル画面上のクレーン型マシンを操作して、資源ごみを正しく分別してチームで得点を競い合う。海外など遠隔地からの参戦も可能であるため、いつ、どこからでもSDGsに貢献できるというわけだ。この他、障害者のバーチャル就労支援、地域活性化、高齢者のQOL工場など、さまざまな分野で取り組みを進めている。
「ゲーミフィケーションであらゆる課題を解決する会社」を謳うDEAは、これまで3社を上場させた実績がある連続起業家の吉田直人氏と、テレビ東京でプロデューサーを15年間務めた山田耕三氏が2018年に設立した。ゲームやアニメにつながる事業を模索し、暗号資産の発行が可能なシンガポールで会社を立ち上げた。
最初に作ったのはブロックチェーン技術による非代替性トークン(NFT)を導入したカードバトルゲーム「ジョブトライブス」。販売は順調に伸び、ピーク時には280万人が登録するまでになったが、NFTブームの終焉と共に縮小していった。そこで浮かんだのが「お金を稼げるゲームで遊ぶことが社会的価値につながれば、一過性で終わらないのではないか」という発想だ。方向性を大きく転換し、最初に実現したのが東京電力の案件だった。
「東京電力さんが話に乗ってきたのは社内でも驚きでした」と山田氏が振り返るように、当初はいくつかの企業に話を持ち掛けてもあまり理解されず、反応はいまひとつだったという。ラッキーだったのは山田氏と同時期にシンガポールに出向していた東京電力の担当者が非常に熱心だったことで、同社との実績が出来て以降は、スムーズに営業できるようになったと語る。ゲームの開発は自社の企画ありきでなく、まずは顧客が抱える課題を聞いて、どんなゲームが作れるか模索していくスタイルだ。
AI時代に不可欠なブロックチェーン技術
DEAが「社会課題の解決」とは別に、もう1つの柱として構想しているのが「ブロックチェーントークンの活用」だ。ゲームの報酬に暗号資産を絡めているという独自性の他、注目しているのがそこから得られるデータ活用の領域である。
「2026年問題とも言われていますが、急激に成長するAI産業でボトルネックになりうるのが学習データの不足です。AIが世界を学習し尽くして、実際に人間が行う作業などのお手本が足りなくなると、フェイクムービーやフェイク写真なども含めた合成データからもAIが学習するようになる危険性があります。ゲームは基本的に人間が行うものなので、そこで得られる情報とAIを繋ぎ合わせることが出来れば、非常に大きな価値を生むと考えています」と山田氏は言う。
現在、世界のデジタル広告市場は約100兆円といわれているが、その2割がAIなど人間以外の視聴によるもので、インプレッションを水増しする詐欺も横行しているという。そこで、ゲームから得られた情報が人間由来であるという証明をブロックチェーン技術で記録する仕組みを作れば、デジタル広告業界から大きな需要が見込める。ゲームの利用者が増えれば増えるほど、こちらの領域でも成長が加速するとみている。
2026年1月からは本拠地を日本に移し、国内での取り組みを本格化する体制を整えた。まずは東証で上場を果たして足元を固めた後、グローバル展開を加速させていく考えだ。
「デジタルとエンターテインメントを活用して、社会のさまざまな課題を楽しく解決していくと共に、将来的にはブロックチェーン、トークンの長所を活用して、巨大な経済圏を作るのが目標です」と、山田氏は語る。