都心の駅近一等地にオフィスビルをつくり続けてきたヒューリック。20年連続で増益を果たし、今や時価総額は1兆円を超え、不動産業界では4番手に位置している。ところが先日発表した中長期経営計画では、不動産以外の業務を拡大することを明らかにした。なぜ業績が好調なのに新規事業に力を入れるのか。西浦三郎会長に聞いた。聞き手=関 慎夫 Photo=山内信也(雑誌『経済界』2026年6月号より)

西浦三郎 ヒューリックのプロフィール

西浦三郎 ヒューリック
ヒューリック会長 西浦三郎
にしうら・さぶろう 1948年東京生まれ。71年早稲田大学第一政経学部卒業後、旧富士銀行入行。2004年4月みずほ銀行取締役副頭取を経て、06年3月から日本橋興業(現ヒューリック)社長を務め、16年から会長。

労働人口1千万人減で既存の開発では儲からない

―― 西浦会長の持論は「経営者は10年先を見ろ」というものです。この2月、ヒューリックは10年後の2036年度を最終年度とする中長期計画を発表しました。そこには「不動産事業をベースとしながらも、多様な成長事業を取り込むためにM&Aを積極的に活用する」ことが謳われています。10年後をどのように読んだ結果なのですか。

西浦 10年後を考えた場合、2つの大きなファクターがあります。一つは人口問題。そしてもう一つは建築費等の値上がりです。

 40年には、今より労働人口が1150万人から1300万人減るといわれています。150万人の差があるのは、移民をどう受け入れるかによるものです。それにしても大きく減ることは間違いない。労働人口が減るということは、オフィスで働く人がいなくなるということです。

 ヒューリックはこれまで、銀座、渋谷・青山、新宿東口、浅草など都心部で、駅近の敷地面積300坪以下のオフィスビルを中心に開発することで成長してきました。商況は非常に好調で、これが20年間、増益を続けてきた原動力です。

 ところがその一方で地価は過去20年間上がり続けています。しかも建築費はどんどん上がっている。20年前の坪当たり建築費は約70万円。それが今では300万円ですから4倍以上です。だからといって賃料が4倍になったかというとそうではありません。ですから今後、新しくビルを開発しても、利益が出るのは1階にブランドショップを誘致できる銀座か青山ぐらいです。本当にビル開発は儲からないビジネスになってきました。

 環境が変わればそれに対応するのは当たり前のこと。数年前からオフィスビル比率を半分以下にすると言ってきましたが、それを今度の経営計画ではより明確にしています。

―― 10年ほど前にインタビューした時には、今後は3K、高齢者、観光、環境に力を入れると言っていました。実際、世の中はその通りに動いてきました。3Kは今後も変わりませんか。

西浦 ヒューリックの高齢者施設は5千室にまで増えました。でもこれ以上は増やしません。今後も高齢者の数は増えていきます。ところがそれを介護する人がいない。われわれは施設を持つだけで、運営はすべて外部にお願いしているのですが、彼らは人を確保するためにどんどん給料を上げています。でもそうすると利益が減る。そのためこちらが賃料を上げたいといっても、なかなか応じてはもらえないので、金利等を考えると、これ以上つくるのは意味がない。だからもうやらないことを決めました。

不動産の商社化に向けM&A戦略を積極化

―― では不動産業は今後どうやって成長していけばいいのでしょうか。

西浦 本当に不動産業は何をするのか、という話です。今言ったように開発は儲かるビジネスではなくなってきています。ですから、中野サンプラザのように開発計画を発表しても、途中でストップするものも出てくる。こういう例は今後も増えてくると思います。

―― デベロッパーの中には物流センターとデータセンターに活路を見いだそうとしているところもあります。

西浦 物流センターも、人が減れば運ぶ荷物も減っていきます。データセンターは今後も需要は増えるでしょう。ただ問題は電力です。膨大な電力を使用するため、発電所や変電所が必要になってくるけれどそれが追いつかない。だから今計画してもできるのは10年後、ということになってしまう。これでは難しい。

―― それに対するヒューリック流の解答は何ですか。

西浦 私は「不動産の商社化」を目指すと言っています。不動産を事業の中核に据えながらも、周辺領域を拡大していく。つまりコングロマリットです。そのために必要なら積極的にM&Aをやっていきます。

 すでに24年にはリソー教育(現リソー教育グループ)を買収、子ども向けの教育・サービスを1カ所に集めたワンストップ型のサービス拠点となる「こどもでぱーと」を開発しましたが、すごい人気となっています。あちこちの百貨店やショッピングセンターからも出店してほしいとの要請が相次いでいます。昨年はクックデリを買収しました。これは調理済みの食事を提供する会社ですが、高齢者施設や病院と提携することで売り上げを伸ばしていく。

 JALと一緒に開発し、29年の稼働を目指している成田の国際物流拠点「WING NRT」もあります。これは単なる物流センターではありません。成田空港では現在第三滑走路の建設が進んでいます。完成すれば貨物便が大きく増えることになります。そこで通関業務や検疫業務などをワンストップで行える施設をつくります。そういう特徴ある施設をつくることで新たな需要を創出していきます。

―― 変化を捉え、知恵を絞る。なかなか大変なことですね。

西浦 なぜ考えなければならないかというと、この会社を10年先の後輩たちに残したいからです。そのためには収益を度外視する必要もあります。

 例えばヒューリックのオフィスビルは、南海トラフ地震や首都直下地震がきても大丈夫なように、震度7に耐えられるよう改修を進めてきました。もちろん費用はかかります。でも仮に地震で建物が使えなくなったら、家賃は発生しませんし、建て替えるにも先ほど言ったように収益を上げるのは難しい。ところが震度7に耐えることができれば、そのまま家賃をもらい続けることができる。

 あるいは富士山の噴火にも備えなければなりません。噴火で怖いのは火山灰です。電気系統は水害対策としてビルの上層階に配置されていることが多いので、ここに火山灰が入ると電気が止まってしまう。これを防ぐフィルターを付ける必要がありますが、火山灰は熱を持っているため、通常のフィルターでは役に立ちません。そういう開発などに毎年300億円を投じています。もちろん収益はゼロです。でも未来を見据えてリスク管理を行わなければなりません。

西浦三郎 ヒューリック

20年連続増益は毎年毎年の積み重ね

―― 10年先を読むには何が必要でしょう。

西浦 ひとつにはデータです。先ほど言った労働人口統計など、今生まれた子どもが成人するまでの約20年後の世界を明確に示しています。ですから20年前にヒューリックに転じた時から、人口を元に未来を想定していました。

 その一方で金利などはさまざまな要因で大きく変わるため読みきれないところがある。それでも将来を見通すためには勉強するしかありません。私は今でも年間200冊は本を読んでいます。それからいろんな人と話をする。そういうものの積み上げの中から、自分なりの全体観をつくり、未来を構想し手を打っていく。今では実務は社長に任せているので、考えることが私の仕事です。だから秘書からしたら「何もしないでぼけーっとしている」と見えるかもしれませんが、実はいろんなことを考えている(笑)。

 AIは過去の事例の中からものを探してくれるかもしれませんが、未来は人間が一生懸命考えなければならないのです。

―― では10年後のヒューリックはどんな会社になっていますか。中長期計画では営業利益3800億円といった数値目標が掲げられていますが、それ以外の、例えば現在は大手3社(三菱地所、三井不動産、住友不動産)に次ぐ不動産業界4位の位置から、さらに上を目指すとか。

西浦 よく大手3社の背中が見える4位という言い方をしていますが、彼らは上場して70年もたっている。引き換えわれわれはまだ20年もたっていません。ストックがまるで違います。そう考えると3社の中に入るのは現実的ではありません。それよりも、現在上場企業の3850社の中で100位ぐらいの営業利益、経常利益を着実に伸ばしていく。幸い私が入ってからの20年はずっと増益で増配も続いている。その継続に意味があると考えています。

―― それを実現するために一番心を砕いていることはなんですか。あるいはここはまだ物足りないという分野はありますか。

西浦 あらゆることを一歩一歩伸ばしていくということだと思います。幸い、今ヒューリックには若い優秀な社員が入ってくれています。新卒採用は10人程度ですが、応募は数千人にものぼります。この中から選りすぐりの優秀な人材を採用する。

 そのためにも働く環境を整える必要があります。今ヒューリックの平均年収は全上場企業の中でもトップレベルです。さらに福利厚生としては、朝食、昼食はすべて無料、飲み物も無料です。独身寮もタダですし、住宅ローンも1%以上の金利は会社負担です。また、社内に保育所を設置しているので出産後も安心して働くことができる。

 ガバナンスにしても取締役会では社内役員より社外役員が多く、3分の1が女性です。監査役の女性比率は40%。こういうことをコツコツとやってきました。でもこれがベストかというとそうではない。これからもいくらでもやることがある。それを少しずつ積み重ねていく。経営とはそういうものだと思います。

―― 言うのは簡単ですが、それを継続することはなかなか簡単ではありません。何か特別なことをやっているのではないですか。

西浦 普通のことを普通にやっているだけです。ただし猛烈に考えてはいます。考えて考えて考え抜いて決断を下す。そして決めたことに対して責任を持つ。それが経営者というものです。