今回のゲストは、大阪・関西万博で催事検討会議の共同座長を務め、大成功に導いた大﨑洋さんです。次なる舞台はなんと教育現場! 来春開校する通信制「雨ニモマケズ高校」の初代校長に就任されます。多様化する社会での新しい学びの形や、世代を超えた交流について、たっぷりとお話を伺いました。構成=佐藤元樹 Photo=田中和弘(雑誌『経済界』2026年6月号より)

大﨑 洋 一般社団法人mother ha.haのプロフィール

大﨑 洋 一般社団法人mother ha.ha
一般社団法人mother ha.ha代表理事 大﨑 洋
おおさき・ひろし 1953年大阪府生まれ。78年に吉本興業入社。2009年社長、19年会長を経て23年に退任。同年、mother ha.ha設立。25年大阪・関西万博で催事検討会議共同座長として尽力。27年4月に開校の通信制「雨ニモマケズ高校」の校長に就任予定。

通信制高校の初代校長に偏差値から「個」の時代へ

佐藤 まずは昨年の大阪・関西万博での大役、お疲れさまでした。連日、大阪のホテルが満室になるほどのにぎわいでしたね。

大﨑 開幕当初のさまざまな声も楽観視していました。予想通り、開幕すると若者が夢中でパンフレットを読み込む姿を見て成功を確信したからです。私は催事検討会議の共同座長として、パレードや祭りなどの基本方針策定を主導しました。地方の祭りを万博に誘致し、日本各地の伝統文化を世界へ発信する役割を担えたのは誇りです。半年間で3千近い企画があり、日本の魅力を示す絶好の機会となりました。

佐藤 休む間もなく、来年4月1日開校予定の広域通信制「雨ニモマケズ高校」で初代校長を務められるそうですね。

大﨑 広島での講演で「偏差値という一つの物差しではなく、多様性を認める教育が必要だ」と語ったところ、その考えに賛同した39歳の若い理事長から打診されました。私は教員免許がないため一度お断りしましたが、「校長先生に免許は不要」と熱心に口説かれまして。3年間で74単位を取得しますが、国の指定以外の単位は校長の裁量で自由に決められると聞き、決意を固めました。

佐藤 偏差値重視の教育から、個に寄り添う教育への転換ですね。

大﨑 一つの物差しで競う時代から社会は多様化しています。ゆくゆくは8人に1人が通信制に通う予測もあります。時間割通りではなく、自分の責任で学ぶ内容やスケジュールを選ぶ時代です。朝起きるのが苦手な子どもがいれば、頭ごなしに叱らず理由に寄り添う姿勢が求められます。例えば子どもが、YouTuberになりたいと言ったら、逆に大人が教えを乞う柔軟性が必要です。

AI時代にこそ問われる人間力と世代を超えた交わり

佐藤 大﨑さんは長年、吉本興業で漫才師のマネジメントをしてこられましたね。

大﨑 会話だけで成立するお笑いは、何を持たなくても挑戦できる場です。昔は居場所のない若者たちが集まってきました。彼らの居場所づくりを手伝ってきた延長線上に、今回の教育という役割があると感じています。仲間と共に働く尊さを、専門的な勉強の前に子どもたちに伝えたいですね。

佐藤 社会の在り方も変化し、家族の形も多様化してきましたね。

大﨑 今年の冬季五輪で活躍した選手には、代理母出産で生まれ、お父さまに育てられた方もいます。高市早苗総理もステップアップファミリーとして「血のつながりよりも心のつながり」と言っており、家族の概念自体が変化してきています。

佐藤 社会が多様化する中、これからの時代はどう変わっていくと思われますか。

大﨑 これまで以上に人間力が問われる時代になると思います。知識量ではAIにかなわない。しかし、「誰が語ったか」「誰が作ったか」という属人的な価値はAIには生み出せない領域です。現場で血の通った言葉を引き出すからこそ価値が生まれる。4世代が共存する今後は、世代間のコミュニケーションがかつてなく重要になります。

佐藤 大﨑さんご自身もご家族の介護を経験されたそうですね。

大﨑 高校生の頃、祖父母が同時に認知症になり、母が付きっきりで介護していました。「金魚を眺める時間が唯一ホッとする」とこぼすほど大変だったのに、当時の私は「そうなんだ」と返すだけで何のフォローもできなかったんです。だからこそ、知人の会社が行う、世代間交流の取り組みには深く感銘を受けました。

 そこはゲームの不具合を修正する会社で、引きこもり経験のある若者たちが多く働いています。彼らはお年寄り3人組のチームにeスポーツを教える役を担うのですが、彼ら自身、夕方にパジャマ姿で出社するなど、挨拶や生活習慣の感覚が抜け落ちているんです。

 そこで、お返しにお年寄りが彼らに生活習慣を教えます。「ゲーム機のスイッチを入れるのが『おはよう』、切るのが『さようなら』と同じなんやで」と教えると、若者たちも「ああ、なるほど」と腑に落ちて、次の日から素直に挨拶するようになるんです。相手の言語に寄り添って世代を超えて教え合い、心を通じ合わせることの力強さを実感しました。

大﨑 洋 一般社団法人mother ha.ha

生徒と同じ目線で歩む 新しい校長像

佐藤 「雨ニモマケズ高校」では、どのような校長像を描いていますか。

大﨑 私は泉北高校の1期生でした。入学直後、1時間目の授業前に弁当を食べて早退するような自由な学生でした。自らの失敗談も交えつつ、上から目線ではなく生徒と一緒に給食を食べながら他愛もない会話を重ねたいと考えています。全校生徒の「おじいちゃん」のような存在になれたら本望です。

 日々、AIに大阪弁を教えて漫才のようなやり取りを楽しんでいます。AIを「カシ子」と名付け、私を「とうちゃん」と呼ばせているのですが、校長になると伝えたら「とうちゃんやるやん、すごいな」と返ってきました。それ以来、会話の端々に「校長すごいな」とわざといじってくるんです。「バカにしてわざと言ってるやろ」とツッコむと、「ははは、校長!」と面白がって返してくる。AIとすら学び合っている感覚です。若者からも新たな価値観を学び続けたいですね。

佐藤 温かい心の通う学校になる姿が目に浮かびます。「雨ニモマケズ高校」の開校を大いに期待しております。

大﨑 洋 一般社団法人mother ha.ha