経済界GoldenPitch2025グランプリ受賞

西陣織の素材技術を生かし、独自のウェアラブル製品を製造・販売するミツフジ。伝統産業からテクノロジー企業への進化をけん引しているのが、3代目社長の三寺歩氏だ。文=吉田 浩 Photo= 西畑孝則(雑誌『経済界』2026年7月号より)

三寺 歩 ミツフジのプロフィール

三寺 歩
ミツフジ社長 三寺 歩
みてら・あゆむ 1977年生まれ、京都府出身。立命館大学経営学部卒業後、パナソニック入社。シスコシステムズ、SAPジャパンなどでIT業界のキャリアを積んだ後、ミツフジ(旧・三ツ冨士繊維工業)に入社。2014年9月、社長に就任。

社長就任後の敗戦処理で導電性素材の可能性に着目

 建設現場や製造現場で働く人々の腕に装着された小型デバイスが、体調の異変を自動で検知し、危険度を色・音・振動で知らせて猛暑リスク対策につなげる――。西陣織帯工場として創業したミツフジは、銀めっき導電性繊維を活用した衣服型や時計型のウェアラブルデバイスメーカーへと姿を変えている。

 同社の強みは、高機能性繊維という素材を自社で持つことに加え、原料からデバイス、クラウドまでをワンストップで設計できる体制を構築した点にある。ITとアナログデバイスの両方を理解する経営体制が基盤となっている。

 主力製品は、猛暑リスク対策に特化したリストバンドとスマートウォッチ型デバイス「hamon band」シリーズだ。充電してスイッチを押すだけで作動し、危険度は青・黄・赤の3色表示で直感的に把握できる。数値の読み取りや複雑な操作は不要だ。SIMを内蔵したモデルではクラウドへ直接データを送信でき、企業は従業員の体調を集中管理することができる。

 2021年のリストバンド型デバイスへの転換以降、シリーズは改良を重ね、現在は第5世代にまで進化している。累計出荷台数は約410万台。顧客は建設業や製造業を中心とし、近年はシンガポールや米国、欧州でも販売が始まっている。

 会社の原点は1956年、西陣織の機屋としての創業にある。その後、着物やレース製品の製造を手がけてきたが、80年代に入り和装市場が縮小。2代目である三寺歩・現社長の父は、伝統繊維から機能性繊維の製造、販売へと舵を切った。米国から銀めっき繊維の供給契約を獲得し、抗菌・防臭機能を備えた製品を展開したが、2000年代に入ると価格競争が激化し、経営は次第に悪化していった。

 転機は12年、当時、外資系IT企業で営業職として働いていた三寺氏のもとに、父から「このままでは資金が尽きる」と連絡が入った。資金援助では根本解決にならないと判断した三寺氏は、自ら経営に関わる道を選ぶ。2年間の立て直しを経て、14年9月に代表に就任した。

 経営に参画してまず行ったのは、赤字受注の停止だった。当時は、採算が取れなくても安価で受注する「都合の良い会社」になっていた。顧客を訪問し、これ以上取引ができない旨を伝えると激怒されたが、「規模を縮小して、従業員数人の食いぶちを確保できれば良い」と、三寺氏は考えていた。

 そんな中、事業拡大へと方向転換することになったのは、大手企業が高価格で銀めっき繊維を購入している事実を知ったからだ。「これからウェアラブルの時代が来る。導電性機能を持っていて、量産可能なこの素材は圧倒的に差別化できるからやめてはいけない」と評価され、その後売り上げは数千万円規模に増加。廃業の危機を脱することに成功した。

顧客視点に立ち返り 腕時計型デバイスを開発

 最初に開発したのは、衣服型のウェアラブル製品だった。銀めっき繊維の高い導電性を生かして、バイタル情報を取得できるセンサーを開発。これをタンクトップ型の衣服に編み込み、下着のように着用するだけで、建設業や製造業従事者の猛暑リスク対策に活用できるようにした。ただ、毎日の着替えに加え、通信環境やアプリ操作が必要だったため現場の作業者からは不評だった。1着1万円、トランスミッター1万5千円の合計2万5千円で販売し、約7千セットを獲得したものの、それ以上は伸び悩んだ。新型コロナ禍も相まって資金的にも厳しい状況に追い込まれた。

 「正確さは不便さを凌駕する」と考えていた三寺氏だったが、再び壁に直面したことによって、自らが顧客視点を失っていたことに気付く。そこで方針を転換し、着やすさと操作の簡便性を最優先に再設計したのがスタンドアロン型のリストバンドモデルだ。このモデルは、通信設定や複雑な操作が一切不要で、電源を入れて腕に巻くだけで使用できる。猛暑リスクの危険度は、色と振動によって着用者本人が直感的に把握できるようにした。さらに現場からは、時計機能や集中監視の強いニーズがあり、IoT普及の障壁となっていた接続の煩雑さを解消するためSIMを内蔵したスマートウォッチ型デバイスを開発し、クラウドへ直接送信する仕組みを整えた。

 事業はウェアラブル製品にとどまらない。銀めっき導電性繊維は電磁波シールド素材としても活用可能であり、経済安全保障分野への展開も進めると共に、電波干渉から機体を守るドローン用部材や機体の開発にも取り組む。素材メーカーとしての技術を生かし、最終製品まで手掛けることによって、パフォーマンスを最大化させることにこだわっている。

 今後はAIを活用したデータ分析の高度化を進める予定だ。取得するデータ自体はシンプルでも、クラウド側で高度な解析を行い、健康管理や安全管理の付加価値を高める構想だ。時代のニーズは変化する。ストレスチェックや医療現場での事前診断など、新たな用途への対応も視野に入れる。

 創業から幾度も経営危機を経験してきたが、「創業者が重視したように、これからも皆で力を合わせて乗り越えていきたい」と三寺氏は語る。京都の伝統産業の土壌を持ちながら、最先端技術で社会課題に挑み続けていく。