DX推進が加速する中、ITエンジニアの不足は重大な社会課題となっている。この課題に対し、IT・Web・ゲーム業界に特化した人材紹介事業を展開し、人材の流動化を促進することで急成長を遂げている企業がある。2026年2月に東証スタンダード市場への上場を果たしたギークリーの歩みと展望に迫る。文=佐藤元樹 Photo=田中和弘(雑誌『経済界』2026年7月号より)

奥山貴広 ギークリーのプロフィール

奥山貴広
ギークリー社長 奥山貴広
おくやま・たかひろ 成城大学経済学部卒業。大学卒業後、2000年に総合人材会社の立ち上げに参画し、取締役として人材紹介事業の拡大に尽力する。その後、IT・Web・ゲーム業界に特化した人材ビジネスを展開すべく、11年8月にギークリーを設立し、社長に就任した。

IT人材領域への特化と原点

 あらゆる産業でデジタル化が急務となる中、企業間のITエンジニア獲得競争は激しさを増している。この激戦区において、IT・Web・ゲーム業界という専門領域に的を絞り、確かな実績を上げているのがギークリーだ。

 社長の奥山貴広は大学卒業後に入社したVC企業を経て、総合人材会社の創業メンバーとして参画し、人材紹介事業の立ち上げを経験した。与えられたミッションは「最短でIPOせよ」。「コンプライアンスも何もなく、とにかく利益を出してこいと、ひたすら走っていた時代だった」と振り返る。

 しかし、2009年のリーマン・ショックで人材業界が打撃を受けた際、既存のビジネスモデルに限界を感じるようになった。あらゆる業種を網羅する大手が市場を占める中、企業が生き残るには顧客から明確に選ばれる理由が必要だった。そこで着目したのが、IT領域に絞った特化型エージェントである。

 このアイデアを自らの資金でやるしかないと決意し、11年に同僚4人と共にギークリーを創業した。

 奥山の実家は小さな事業を営んでおり、人を雇い定着させる難しさを日常的に耳にしていた。その経験も現在の人材事業に向き合う原点となっている。利益至上主義だった過去の反省と相まって、ギークリーでは顧客の課題解決に真摯に向き合った。「顧客から『ありがとう』と言われたのが初めてだった。最初の1、2年は本当に仕事が楽しかった」と奥山は語る。

 創業当時は、いわゆるガラケーからスマートフォン向けアプリへの移行期であり、ソーシャルゲームの隆盛という強力な追い風が吹いていた。彼らは早朝から深夜までデータベースに張り付き、エンジニアの登録があれば真っ先にスカウトメールを送るという泥臭い人海戦術で求職者一人一人と向き合った。その結果、創業3カ月目には4千万円の売り上げを達成し、事業を素早く軌道に乗せた。

ギークリー
上場の鐘を鳴らす奥山
写真提供:ギークリー

システム化による属人性排除と上場

 創業以来、黒字経営を継続してきた同社にとって、最大の転機は20年からのコロナ禍だった。移動が制限される中、社会全体で非対面化とDXへの対応が急務となり、エンジニア需要は一般企業のシステム部門にまで拡大。この需要を捉え、売り上げは2年連続で150%成長という飛躍を遂げた。市場の拡大に伴い、自身が手がける事業がメジャー市場になったと確信し、上場準備を本格化させた。

 同社の強みの一つが、徹底した属人性排除だ。人材紹介業が抱える個人の直感や記憶への依存という課題に対し、同社は明確な仕組みで挑んだ。まず、集客と面談設定を担うマーケティング部門、求職者と向き合うキャリアアドバイザー、企業対応を行うリクルーティングアドバイザーという分業制を敷き、担当者の業務範囲を限定して専門性を純化させた。並行して1300件以上のクラウドマニュアルを整備し、社内プラットフォーム「Geek Labo」で成功事例を共有することで、個人の暗黙知を組織の形式知へと変えている。さらに、業務フローを統制する自社開発の基幹システム「OLG」が中核を担う。面談で得た求職者情報を構造化して蓄積し、独自アルゴリズムが過去の成約実績と照合して推薦求人を提案する仕組みだ。これにより、誰が担当してもブレのない、客観的で精緻なマッチングを可能にした。

 「担当者によってサービスのクオリティにばらつきが出るのは、顧客不満の最大の要因。誰が担当しても一定の成果を出せる仕組みを整えることは、求職者に対する誠実さの担保でもある」

 この徹底した仕組み化により、業界平均の約3倍という高いマッチング決定率と、約40日での内定獲得という圧倒的な実績を叩き出している。高リピート率によるストックビジネス化を実現して企業体質を強固なものとし、今年2月に東証スタンダード市場への上場を果たした。

ギークリー
上場セレモニーでの集合写真
写真提供:ギークリー
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創業5周年パーティーにおける奥山とギークリー創業メンバーの写真
写真提供:ギークリー

ハイクラス市場への展望と事業の核

 近年、生成AIの急速な普及により、エンジニアの需要が減少するのではないかという懸念が市場の一部にあるが、奥山は「AIによってプログラミングなどの定型業務の生産性が上がることで、各社はこれまで手付かずだった、より複雑で高度なシステム開発に着手するようになります。今後はより技術に精通したハイクラス人材のニーズが強まるでしょう」と分析する。

 AIがマッチング精度を向上させるツールとして普及しても、人材紹介ビジネスの根幹は揺るがないという。「最終的な意思決定の場面では、人に相談し、背中を押してもらいたいというニーズは必ず残ります。われわれの介在価値は、求職者の想いや企業の文脈を丁寧にフォローし、結びつける部分にあるのです」。

 過去の組織での苦い経験を経て、奥山は事業の意義をこう語る。「やはりビジネスは、誰かの何かを解決するものだと思うのです」。

 一つの会社に留まることが美徳とされた時代は終わり、転職を通じて複数の企業文化を経験することが、プロフェッショナルを育てる土壌となっている。同社はAI時代の到来を淘汰ではなく高度化の好機と捉え、高単価なハイクラス市場へリソースを傾斜させる。今後もIT人材のキャリア形成を力強く支援し、労働人口が減少する日本において最適な人材配置を促す役割を担っていく方針だ。(文中敬称略)

奥山貴広
「ビジネスは誰かの何かを解決するもの」
――奥山貴広が語る、ギークリーの原点

会社概要:ギークリー
2011年8月設立。IT・Web・ゲーム業界に特化した人材紹介事業を展開する。独自開発の基幹システムで業務を標準化し、属人性を排除することで、精度の高いマッチングと早期内定を実現。26年2月に東証スタンダード市場へ上場。