今年の経済界大賞ダイバーシティ賞に輝いたLOIVEの前川彩香さん。社員の約99%が女性という稀有な組織で上場を果たした歩みに、同じく子育てと経営に向き合ってきた身として強く胸を打たれました。専業主婦の挫折や危機を越え、人生を切り拓く彼女の言葉は、現代の働く女性を勇気づけるはずです。構成=佐藤元樹 Photo=田中和弘(雑誌『経済界』2026年7月号より)

前川彩香 LOIVEのプロフィール

前川彩香
LOIVE社長 前川彩香
まえかわ・あやか 1978年北海道生まれ。専業主婦を経て2006年にホットヨガスタジオを札幌で開業。女性の美と健康を支える事業を多角的に展開。社員約1千人の99%が女性という組織を率い、25年4月に東証グロースへ上場。

専業主婦の挫折をバネに女性が輝く居場所を創出

佐藤 ダイバーシティ賞の受賞、おめでとうございます。社員の大半が女性という環境で上場を達成された手腕は見事です。前川さんは専業主婦や接客業の経験もお持ちですが、起業の原点をお伺いできますか。

前川 15歳、高校1年生の時にはすでに起業の決意を固めていました。誰かの指示で働くのは自分には向いていないと感じ、社長になるしかないと思い至ったのです。高校を中退後、さまざまな業界で経験を積み、経営の本質を学びました。

佐藤 しかし、その後ご結婚されて専業主婦になられましたね。

前川 23歳で結婚した際、パートナーから「子どもが3歳になるまでは家にいてほしい」と懇願され、起業の夢を封印しました。しかし、これが私には不向きでした。毎日献立のことばかり考える生活に悩み、体重が38キロまで落ちてしまったのです。2年半ほど耐え忍びましたが限界でした。

佐藤 辛い時期でしたね。そこからどう起業へと舵を切られたのでしょう。

前川 子どもが3歳になる頃、周囲には、結婚を機に自分らしさを見失ったり、仕事がうまくいかず職を転々としたりする女性が多くいました。彼女たちが活力に満ちて輝ける場所をつくりたいと願ったのが出発点です。当時、東京で流行し始めていたホットヨガが札幌にはなく、インストラクター1人に対して30人のお客さまへサービス提供ができるビジネスモデルに魅力を感じました。

佐藤 前川さんはヨガ未経験とお聞きしています。

前川 体験のために東京へ向かう日の朝、激しい腰痛に見舞われました。這いつくばるように飛行機に乗りレッスンを受けたところ、終わる頃には痛みが大きく改善していたのです。この驚きを北海道で誰よりも早く届けたいと考え、半年間という急ピッチで第1号店をオープンさせました。出店を急ぐため、自分らしさを見失っていた友人たちを集めて一から育成したのですが、彼女たちがホットヨガの効果で目に見えて健康的になり、内面からも輝き始めました。その姿を見たお客さまも元気になり、感謝の言葉を頂戴する。この好循環が組織のカルチャーとなりました。

佐藤 その後、会社設立10年で上場を決意されました。

前川 エージェントの紹介で優秀な社外取締役と巡り会い、経営の土台を固めるとともに、CFOの採用へと動きました。ただ、現場の女性社員にとっては、上場といった資本政策よりも、「自分を愛し輝く女性を創る」という私たちの理念を全国へ届けることのほうがはるかに重要な動機付けになっていましたね。

前川彩香

長期化する育休への危惧 子の宝物となる母の背中

佐藤 講演される機会も増えたそうですが、反応はいかがですか。

前川 女性は給与や出世よりも、「誰の役に立っているか」という貢献意識を重視して働く傾向があるとお伝えしているのに、「では評価設計はどうしていますか」と問われることが多いです。制度を整えることばかりに目が向き、働き手のマインドに寄り添い切れていない現状を感じます。

佐藤 現在の女性活躍や働き方の制度について、どのような課題を感じますか。

前川 日本の育休制度は最長2年など手厚いですが、これがかえって女性の管理職比率を低迷させている一因ではないかと危惧しています。長期間現場を離れることで本人の自信が喪失し、企業側もキャリアを描きにくくなります。育休制度がない国の方が、管理職の女性比率は高いのです。「預けてまで働くなんてかわいそう」と言われるなど、制度の手厚さが逆に「母親は家で子どもを育てるべき」という母性神話を助長しているように感じます。

佐藤 期間を短縮し予算を別の支援に回すべきだと。

前川 支給期間の長さに限らず、社会全体として子育て支援の資源をどう最適配分するか、例えば0歳児保育の受け皿拡充や保育士の待遇改善に投資することも検討されるべきだと思います。女性にとって不可欠なのは、長く休むことではなく、働き続けられる環境と、人生の選択肢を広げる「経済的自立」です。

佐藤 一方で、多忙な経営と子育ての両立は容易じゃありません。ご自身はどのように工夫されてきたのですか。

前川 出張は月10日、子どもが高校生になってからは月15日までとルールを設け、緻密なタイムマネジメントを徹底しました。そして何より、子どもには自分の仕事をしっかりと話し合い、理解してもらうよう努めました。

佐藤 お母さまが最前線で戦う背中を、お子さまたちは見つめて育っていらっしゃるのですね。

前川 上場記念の社内イベントで私の娘が手紙を読んでくれました。「子どもに寂しい思いをさせているか不安な皆さんも、安心してください。全力で夢に挑むお母さんの姿こそ、子どもにとって最大の教科書であり、宝物です」と。今思い出しても泣きそうになってしまうのですが(笑)、これを聞いて、参加していたお母さん社員たちも涙を流していました。働く母親の姿は、子どもにとってマイナスにはなりません。

 むしろ、自己肯定感を高める最良の教育になるのだと実感しています。

佐藤 私自身も女手一つで子育てと経営に向き合ってきた身として、そのお言葉に深く胸を打たれました。前川さんのようなリーダーが道を切り拓くことで、後に続く女性たちは強く背中を押されるはずです。

前川彩香