地域の動物病院では、人材確保や働き方、承継の課題が重くなっている。現場の負担が増し、ペット医療の高度化も進む中、地域医療と専門医療をつなぐMiraiVets Partnersは、動物医療をどう持続可能にしようとしているのか。Photo=田中和弘(雑誌『経済界』2026年8月号より)

MiraiVets Partners
Japan Animal Care Holdings取締役 長谷宜勇
MiraiVets Partners代表取締役 早瀬真紀子
ANCHORS取締役会長/獣医師 上地正実

地域医療と専門医療をつなぐ 新たな動物医療グループ

―― まず、MiraiVets Partners(みらい)とはどのような組織なのでしょうか。Japan Animal Care Holdings(JPAC)とANCHORS(アンカーズ)の関係も含めて教えてください。

早瀬 みらいは、地域医療を担うJPACと、高度専門医療を担うアンカーズという2つの動物病院グループを束ねる持ち株会社です。

 JPACは、茨城、兵庫、宮城など各地の動物病院グループを中心に、地域に根差した一次診療を担ってきました。一方のアンカーズは、専門医が中心となって高度専門医療を提供する動物病院グループです。

 2つの組織を一つの会社に吸収するのではなく、それぞれの歴史や個性を残したまま連携できる形にする。そのために設立したのがみらいです。経営支援や人材育成、ノウハウの共有を進めながら、地域医療と専門医療をつなぐ基盤をつくろうとしています。

―― JPACはどのような課題意識から生まれたのでしょうか。

長谷 動物病院業界では近年、グループ化の動きが進んでいます。地域の病院がこれからも良い医療を提供し続けるには、採用や教育、設備投資、経営基盤をどう整えるかが大きな課題になります。

 特に地方では、飼い主から信頼されている病院であっても、若い獣医師を確保できなければ、いずれ現場が疲弊してしまう恐れがあります。そうした危機感から、現場の医療を理解する私たち自身が受け皿となり、地域の動物医療を次の世代につなぐ仕組みをつくりたいと考えました。

―― アンカーズは高度専門医療を担うグループです。

上地 私は大学教員を経て、循環器などの専門医療に特化した動物病院を横浜に立ち上げました。心臓外科を中心に診療件数が増える中で、循環器だけでは対応しきれない症例も多く、内科、外科、腫瘍科などを含む総合動物病院へと広げていきました。

 一方で、心臓病の子を横浜まで連れて来るのが難しい飼い主もいます。そこで札幌や奈良など、各地で専門医療を受けられる体制を広げてきました。ただ、拠点が増えれば、獣医師や動物看護師の確保、育成、労務管理も大きな課題になります。専門医療を持続的に提供するためにも、組織として支える仕組みが必要だと感じていました。

―― 地域の一次診療と専門医療がつながることに意味があるわけですね。

上地 そうです。一次診療の病院から紹介を受けてわれわれが治療し、その後の経過をまた一次診療の先生にお願いする。この連携はこれまでも行ってきました。ただ、同じグループ内で多様な病院がつながることで、より率直に情報交換ができ、互いの知見を共有しやすくなります。

早瀬 われわれは、M&A後の統合プロセスであるPMIなどを後方から支えています。ただ、それぞれの病院には長年築いてきた誇りや独自のオペレーションがあります。

 急に一つのやり方を押し付けることはしません。互いの良い取り組みを学び合いながら、時間をかけて強い組織にしていきたいです。

働き方と人材育成を組織で支える時代へ

―― みらいは本部機能として、採用やDXの支援も行うと聞きました。

早瀬 採用活動の支援や、バックオフィス業務の集約はすでに進めています。目的は、現場の獣医師や動物看護師が本来の診療に集中できる環境をつくることです。

 一方で、カルテの電子化などのDXは、現場の状況を見極めながら慎重に進める必要があります。

 紙のカルテに慣れた獣医師が急に電子カルテに移行すると、端末の操作に追われ、動物や飼い主と向き合う時間が減ってしまうこともあります。現場の声を拾いながら、最適な環境を整えていきたいです。

―― 動物病院の現場では、働き方も変わっていますか。

上地 大きく変わっています。私たちの世代は、動物を救う使命感から、自己犠牲を伴う働き方を当然のように受け止めていました。診療に時間を使い、勉強し、技術を磨く。それが当たり前だったのです。

 しかし、若い世代の獣医師には、ライフイベントやプライベートの時間を大切にしたいという人もいます。専門医として技術を極めたい人もいれば、定時で勤務したい人、子育てのために一時的に時短勤務を選びたい人、将来は経営に携わりたい人もいる。

 だからこそ、キャリアパスを一つに決めつけるのではなく、多様な働き方を用意する必要があります。それぞれが長く力を発揮できる組織にしていきたいです。

長谷 地域の動物病院は、院長やスタッフの献身的な働きに支えられてきた面があります。地域のため、動物のために、昼夜を問わず診療に向き合ってきた。その積み重ねが、飼い主から信頼されてきたのだと思います。

 ただ、その形を次の世代にそのまま求めるのは難しい。これからは、採用、教育、経営、DXを組織として支えることで、現場の負担を軽くし、地域の優れた病院を次代に残していくことが必要です。

―― 医療の高度化に伴い、獣医師に求められる役割も変わっていきますか。

上地 ペットの高齢化に伴い、1頭にかける医療費や、求められる医療の高度化は進んでいます。

 以前であれば諦めていた病気でも、今は治療の選択肢が増えています。一方で、飼い主がAIなどで症状を調べてから来院するケースも増えています。

 これからの獣医師には、知識や技術だけでなく、個別の状況に応じたリスクや選択肢を、飼い主が納得できるように説明する力が必要です。

 動物は言葉を話せません。その分、獣医師は動物の小さな変化を読み取り、飼い主の心情にも寄り添いながら治療方針を決めていく必要があります。

早瀬 みらいは発足したばかりの組織です。ただ、地域医療を担うJPACと、高度専門医療を担うアンカーズ、そして経営支援の知見が集まったことで、動物医療を持続可能な形にしていく土台はできつつあります。大切なのは、それぞれの動物病院が持つ個性や地域で築いてきた信頼を生かしながら、採用、教育、専門医療、経営支援をつなげていくことです。現場で働く人たちが長く力を発揮できる環境をつくり、理念に共感する動物病院と共に獣医療の未来を支えていきたいと考えています。