RABOは、首輪型デバイスなどで犬猫の行動を記録し、体調変化をデータで捉えるペットヘルスケア企業だ。猫向け「Catlog(キャトログ)」に続き、犬向け「Pawlinq(パウリンク)」も開始。言葉を話せない動物の“見えない時間”を可視化する同社は、ペット市場に何をもたらすのか。Photo=田中和弘(雑誌『経済界』2026年8月号より)
伊豫愉芸子 RABOのプロフィール
いよ・ゆきこ 東京海洋大学大学院博士前期課程修了。大学院修了後、リクルートでプロダクト開発や新規事業に携わった後、愛猫ブリ丸(写真手前)、おでんとの暮らしを機にRABOを創業。動物の見えない時間をデータで可視化するCatlogシリーズやPawlinqを展開。
「見えない時間」をデータで捉える
―― RABOを創業し、Catlogを始めたきっかけから教えてください。
伊豫 大学と大学院では、動物に小型センサーを装着して行動を解析する「バイオロギング」を研究していました。無人島に住んで、鳥の捕獲からセンサーの開発、データ解析まで行っていました。その後、一度社会に出ようとリクルートに入り、10年ほどプロダクト開発や新規事業に携わりました。
転機になったのは、うちの猫様であるブリ丸とおでんを迎えたことです。大切な家族で、1秒でも長く一緒にいたい。一方で、猫様は言葉を話せず、体調の変化も表に出しにくい。後悔のある別れをしたくないと考えた時、動物の見えない時間をデータで可視化する研究経験と、事業開発の経験がつながりました。
―― 見守りサービスには、どんなニーズがあるのでしょうか。
伊豫 飼い主が不在の間に何をしているのか、長期的な体調変化が起きていないかを継続的に把握したいというニーズがあります。ペットカメラでは確認できる場所が限られ、異変を自動で知らせてくれるわけでもありません。
Catlogは首輪型デバイスとトイレの下に敷くボード、専用アプリで、行動や食事、水飲み、トイレの回数などを記録します。何となく元気がないという感覚ではなく、普段との変化をデータで見られる。動物病院でも普段の様子を説明しやすくなります。
―― 2019年にCatlogを始め、今年2月には犬向けのPawlinqを発表しました。なぜ犬向け展開まで時間をかけたのでしょうか。
伊豫 ペット領域では犬も猫も一緒に語られがちですが、生態も飼い主の気持ちも違います。猫様には猫様の、ワンちゃんにはワンちゃんの暮らし方があり、それぞれに特化する必要があります。
会社名をCatlogにせずRABOにしたのも、最初から他の動物への展開を見据えていたからです。まずは猫様に向き合い、データ解析やユーザー体験を磨く必要がありました。19年の発売から約6年を経て、今ならワンちゃん向けにも全力で展開できると判断しました。
―― 犬向けと猫向けでは、設計も変わりますか。
伊豫 基本のシステムは共通していますが、使い方は変えています。猫様向けは首輪と一体型ですが、ワンちゃんは雨の日も散歩に出かけたり、水遊びをしたりするため、防水対応のデバイスを袋型の首輪に入れる仕様にしています。
アプリも違います。ワンちゃんは散歩や外出が多いため、歩いた時間やルート、お留守番中の動きなどを見られるようにしました。猫様は、睡眠、食事、水飲み、トイレなど家の中での行動を細かく見る設計です。
見守りからヘルスケアへ 広がる可能性
―― RABOには、どれくらいのデータが蓄積されているのでしょうか。
伊豫 継続して取得してきた行動データは278億件に達しています。同じフォーマットで、同じ個体のデータを長く取り続けていることに意味があります。単に「歩いている」「寝ている」という行動だけでなく、その組み合わせや変化から、その子の傾向を見ていくことができます。
昨年からは、猫様のストレス状態に応じた乳酸菌サプリメントの提供も始めました。農研ワンヘルスとの共同研究により、国内最大級の農研機構乳酸菌コレクション約6500株から、その子に合ったものを選んで届ける取り組みです。
蓄積したデータを、具体的なヘルスケアの解決策につなげる段階に入っています。
―― 実際に、データで異変に気づいた例はありますか。
伊豫 ブリ丸もCatlogに助けられました。3年ほど前、大晦日にトイレの回数が急に増えたのに、おしっこが出ていない状態を検知し、アラートが届きました。すぐに病院へ連れて行ったところ、膀胱炎の初期でした。薬で早く治療でき、今も元気に暮らしています。
どれだけ家にいる人でも、猫様の行動を24時間見続けることはできません。トイレの回数や滞在時間のわずかな変化は、人間の目だけでは捉えきれない。継続的なデータがあるからこそ、気づけることがあります。
―― ところで、「猫様」という言葉が気になっています。
伊豫 Catlogを開発する時、猫様と暮らす方々にインタビューしました。そこで共通していたのは、猫を「飼っている」というより、「一緒にいさせてもらっている」という感覚です。ワンちゃんの場合は、飼い主や親という意識が比較的強い。
一方で猫様は、大切な存在でありながら、少し距離を置いてその世界を眺めさせてもらっている感覚がある。
もう一つは、お客さまが猫様だからです。お客さまを「客」と呼ばないのと同じで、私たちは猫様と呼んでいます。こうした機微を捉えることも、この市場では大切だと思っています。
―― RABOの競争優位性はどこにありますか。
伊豫 最大の強みは、やはりデータです。これだけの量を、同じ形式で継続的に蓄積していること自体が強みです。さらに、飼い主と大切な猫様やワンちゃんをつなぐ体験をつくれることも重要です。アプリの見やすさやデバイスのデザインまで含めて、RABOの強みだと考えています。
一方で、アニマルヘルスケアという領域は、日本ではまだ一般的な言葉になっていません。首輪でも体重計でもない、新しいカテゴリーをつくっている感覚です。だからこそ、自社だけで抱え込むのではなく、フード、保険、医療、サプリメントなど、さまざまな企業と連携しながら市場を育てていきたいです。
―― 今後、RABOはペット市場の中でどんな立ち位置を目指しますか。
伊豫 われわれが持つデータや飼い主との接点を生かし、アニマルヘルスケアの基盤になる会社を目指しています。将来的には保険などともつなげ、お金が理由で諦めてしまう命をなくすことにも貢献したいです。
1秒でも長く一緒にいたいという思いに寄り添いながら、データを通じて異変に気づき、具体的なヘルスケアの解決策につなげる世界をつくりたい。見守りからヘルスケアへ。そこに、これからのペット市場の可能性があると思っています。