国内のペット市場が拡大を続ける中、飼い主の消費行動はどのように変化しているのか。ペット用品とおやつの総合メーカーとして業界を牽引し続けてきたドギーマンハヤシ社長の林雄一氏に話を聞いた。フードや医療とは異なる日常的な用品やおやつの売れ方から、最新のペット市場の動向を明らかにする。(雑誌『経済界』2026年8月号より)

林 雄一 ドギーマンハヤシのプロフィール

林 雄一 ドギーマンハヤシ
ドギーマンハヤシ社長 林 雄一
はやし・ゆういち 1965年生まれ、大阪府出身。関西学院大学社会学部卒。商社勤務を経て92年ドギーマンハヤシ入社。営業、開発、物流などに従事し、2009年に現職に就任。

外飼いの鎖から家族の用品へ

―― ドギーマンハヤシは、現在ではペット用品やおやつの総合メーカーとして知られています。創業の経緯から教えてください。

 創業者で現在も会長を務める林明雄は、もともと鍋や釜などを扱う金物問屋の営業をしていました。当時、担当していた沖縄はまだ米国統治下にあり、米軍基地内のスーパーに行く機会があったそうです。そこにはペットフードや用品が並ぶ立派なペットコーナーがありました。それを見て、「日本にも必ずペットの市場ができる」と考え、1963年に前身となる林製作所を創業しました。

 最初に扱ったのはドッグチェーンつまり犬をつなぐ鎖です。金物の知識を生かし、日本で作った鎖を米国に輸出するところからスタートしました。

―― そこから国内市場に転換したわけですね。

 当時は1ドル=360円の固定相場制でしたが、その後、為替が変動相場制へ移っていきます。米国の取引先も、より安く作れる国に発注先を移すようになりました。このまま輸出だけでは難しいと判断し、国内販売に舵を切ったのです。

 当時はスーパーにペットコーナーがある時代ではありませんでした。ドッグフードはお米屋さんに置かれていましたし、犬は屋外で飼われることが多かった。首輪や散歩用の紐、鎖などを金物店に卸すところから、少しずつ販路を広げていきました。最初の20年ほどは、ほとんど用品中心の会社でした。

―― 現在のペットとの暮らしとは、ずいぶん違いますね。

 昔は番犬として外で飼う家庭が多く、玄関先に犬がいる風景も珍しくありませんでした。今は家の中で一緒に暮らし、家族の一員として迎えられる時代です。子どもや孫のような存在になっている家庭も多い。ペット用品も、その変化に合わせて大きく変わり、求められる役割も広がっています。

―― 社内には「社員犬」や「社員猫」もいると聞きました。

 会社には社員犬や社員猫がいて、獣医師による健康チェックを受けながら過ごしています。彼らには商品開発にも協力してもらっています。おもちゃなら、どんな遊び方をするのか、すぐ壊れないか。実際の反応を見ることができます。

 自宅でペットと暮らす社員も多く、社員のペットにもモニターとして開発中の商品を試してもらうことがあります。社員に対しては、ペットを迎える際の一時金や毎月の手当も設けています。ペットメーカーとして、社員自身がペットとの暮らしを知っていることは大切だと思っています。

おいしさから目的へ 変わるおやつ

―― おやつや用品に対して、飼い主の求めるものは変わっていますか。

 昔は「おいしい」が一番でした。40年以上前にペットフード事業へ参入した頃は、おやつの市場自体がまだ小さく、牛皮で作ったガムなどが中心でした。おいしければ売れるという時代です。

 今は、それだけではありません。たとえば、お米を使ったおやつは、犬がサクサクと音を立てて食べます。飼い主にとっては、その音を聞くことも満足感になる。そこで「音までおいしい」といった伝え方をすることもあります。おやつは、ペットが食べるだけでなく、ペットが喜ぶ姿を見て、飼い主がうれしくなる商品でもあるんです。

―― オーラルケア商品も増えています。

 オーラルケアは非常に伸びているカテゴリーです。当社の調査では、オーラルケアをしている飼い主は犬で40%程度、猫では20%を切っています。犬も猫もシニア期に入ると歯石がたまりやすくなります。動物病院で歯石を取るには、全身麻酔が必要になることもあり、体への負担も大きい。

 だからこそ、噛むことで歯の汚れを取るガムや、遊びながらケアできる用品を提案しています。商品が店頭に並ぶことで、飼い主の意識も少しずつ変わっていきます。食後や寝る前に1本与えるといった習慣をつくることが、健康維持につながっていくと考えています。

―― 商品の選び方にも変化はありますか。

 コロナ禍を経て、成分表示やパッケージの裏面をよく見て選ぶ方が増えたと感じます。以前はパッケージの印象やおいしそうという感覚で選ばれることも多かったのですが、今は健康志向が強くなっています。

 当社でも「無添加良品」のように、気になる添加物を使わない商品を開発のスタンダードにしています。フードだけでなく、おもちゃでも同じです。遊んで楽しいだけでなく、オーラルケアになる、室内での運動になるといった目的を持たせることが重要になっています。

―― 夏場は犬の散歩も難しくなっています。

 猛暑の日は、朝は散歩に行けても、夜になっても地面が熱くて外に出にくいことがあります。そうなると運動不足になりやすい。そこで、家の中でエクササイズできるおもちゃを提案しています。

 以前からある商品でも、伝え方を変えることで再び売れ始めることがあります。たとえば、棒の先にボールがついたおもちゃがあります。以前は「遊んで楽しいおもちゃ」として売っていましたが、今は「座ったまま『持ってこい遊び』ができる」と伝えています。飼い主が楽に遊ばせられるという価値を示したことで、また反応が出てきました。

―― 人間向けの商品とは、開発の考え方が違いそうです。

 一番の違いは、買う人と使う相手が違うことです。おやつもおもちゃも、買うのは飼い主ですが、使うのはペットです。ペット自身が「これが欲しい」と言うわけではありません。

 だから、われわれはペットの反応だけでなく、飼い主の暮らしや悩みも見ています。買い物に出かける時、犬が一緒に行きたがる。そこで、少し長くかめるおやつを与え、夢中になっている間に外出する。そういう使い方もあります。何分くらいかけて食べるのかまで見ながら、商品づくりに生かしています。

ペットの健康寿命が市場を支える

―― ペット市場は拡大していますが、犬猫の飼育頭数は減少傾向にあります。

 犬猫を合わせた飼育頭数は現在1500万頭ほどです。10~15年前は1800万頭ほどありましたから、頭数としては減っています。それでも市場が広がっているのは、保険やしつけなどのサービスが増えたことに加え、より高付加価値の商品が選ばれるようになったからです。

 小型犬や猫との室内生活が広がり、家族化が進みました。飼い主は、多少高くても良いものを選ぶようになっています。メーカー各社も、より良い商品を開発しようと努力している。その結果、単価が上がり、市場全体を押し上げている面があります。

―― 今後、メーカーとして市場をどう伸ばしていくのでしょうか。

 われわれメーカーが「新しくペットを飼ってください」と言うことはできません。だからこそ、今一緒に暮らしている犬猫が、できるだけ長く元気でいられるようにすることが大切です。

 現在、犬猫の平均寿命は15歳前後です。単純計算では、1歳ごとに約100万頭の犬猫がいることになります。つまり、寿命が1年延びることは、それだけ多くのペットの暮らしを支えることに近い意味を持ちます。社内でも「どうすれば20歳まで元気に過ごせるか」とよく話しています。

 そのために、オーラルケアや室内運動、健康に配慮したおやつなどを提案していく。健康寿命を延ばすことが、結果として市場を支えることにもつながります。

―― ペットと暮らしやすい社会づくりも課題ですね。

 欧州では、街中のカフェでテーブルの下に犬が座り、飼い主が食事を終えるのを待っているような光景をよく見ます。日本でもできるはずですが、まだ一緒に入れる場所や住める物件は限られています。

 もちろん、ペットのしつけや飼い主のマナーも必要です。ただ、ペットと一緒に出かけられる場所が増えれば、もっと飼いやすい社会になります。ペットとの暮らしは、飼い主の生活にも潤いを与えます。飼い主自身の健康寿命にも関わってくると思います。

―― ドギーマンの今後の展望を教えてください。

 日本のペット文化は、世界から見てもきめ細かいものづくりが特徴です。飼い主の悩みに寄り添い、ペットの行動を観察しながら商品を作る。その積み重ねが、日本らしい市場を育ててきました。

 今後はアジアだけでなく、欧米にも事業を広げていきたいと考えています。おやつや用品は、ペットとの毎日の暮らしに一番近い商品です。だからこそ、単に売るだけではなく、どう使えばより健康で楽しく過ごせるのかまで伝えていく必要があります。ペットと飼い主の毎日を支える商品を、これからも作り続けていきます。

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