専門店やホームセンター内店舗、ブリーダー直販など、多様な販路が混在するペット販売業界。その中でペッツファーストは、子犬・子猫の販売を起点に医療、保険、譲渡支援まで事業を広げてきた。アークランズ傘下入りを機に、透明性と「迎えた後」の支援体制をどう進化させるのか。Photo=山内信也(雑誌『経済界』2026年8月号より)

正宗伸麻 ペッツファーストホールディングスのプロフィール

正宗伸麻 ペッツファーストホールディングス
ペッツファーストホールディングス社長 正宗伸麻
まさむね・しんま 1975東京都生まれ。大学卒業後に渡米し先進事例を学ぶ。帰国後、家業を経て2008年にペッツファーストを設立。生体販売情報の開示や外部資本導入など、透明性を確保した経営を実践し業界の健全化を牽引。25年プライム上場アークランズ傘下入り。

「ペット最優先」に込めた 創業時の思い

―― まずはペットビジネスに身を投じる原点からお聞かせください。

正宗 父が東京の中野でペットショップを経営しており、私はそこで生まれ育ちました。店にはさまざまな動物がいて、家に当たり前のように動物がいる。それが私の原風景です。
大学卒業後は家業を手伝い、その後、米国で2年ほど過ごしました。現地でペットを取り巻く環境を多角的に見聞したことが、人と動物が暮らしの中でどう関わり、社会の仕組みとしてどう支えられているのかを考えるきっかけになりました。

―― ペッツファーストとしては、2008年にスタートを切っています。

正宗 父の事業を引き継ぐ形で、ペッツファーストという名称で再出発しました。当時、世の中では「人と動物の共生」という言葉が広がり始めていました。ただ、われわれは命を扱う以上、まず何よりもペットを優先できる事業体でありたいと考えました。そこで「Pets always come first」、つまりペット最優先という理念を掲げました。社名には、その決意を込めています。

―― ペット販売という領域に、当時どのような課題を感じていましたか。

正宗 ペットを販売する事業は、他のペット関連ビジネスと比べても、社会から厳しい目を向けられやすい領域です。だからこそ、きちんと説明できる会社でなければならないと考えていました。

 社内でもよく話していたのは、「売れ残った犬猫はどうなるのか」「販売後の責任はどう果たすのか」「命を扱う企業として何を約束できるのか」といった問いに、正面から答えられる会社になろうということです。ペットを家庭に迎える入り口として、どれだけ透明で責任ある仕組みにできるか。そこにこだわってきました。

―― 08年の再出発時に、外部資本も受け入れています。

正宗 同族経営を解消し、外部資本を迎え入れました。目的は、経営の透明性を高めることです。私自身が公私混同せず、健全な経営を行うための「襟を正す」仕組みをつくる必要があると考えました。

 生き物を扱う会社だからこそ、経営の透明性、ガバナンス、コンプライアンスを重視しなければならない。そうした考えは、創業時から今に至るまで変わっていません。

情報開示で信頼を積み上げる

―― ペッツファーストが特に重視してきた取り組みは何ですか。

正宗 大きいのは、情報開示と販売後の体制づくりです。たとえば、マンスリーペットレポートとして、毎月の入頭数、販売数、亡くなった頭数などを公開しています。生き物を扱う以上、都合のよい情報だけを出すのではなく、実態を示す必要があると考えています。

 数字を開示することには勇気が要ります。見方によっては厳しく受け止められる可能性もあります。それでも、開示しなければ改善は進みません。現状を把握し、課題を見つけ、次の改善につなげる。その繰り返しが、命を扱う会社に必要な姿勢だと思っています。

―― 月齢やブリーダーとの関係でも独自の基準を設けています。

正宗 販売の月齢については、法律上の基準である生後56日よりも厳しい、生後60日という自社基準を設けています。早すぎる時期に親やきょうだいから離すのではなく、少しでも健やかに育つ環境を整えたいからです。

 また、トレーサビリティの徹底も重要です。当社では22年に、ペットオークションを経由した仕入れを取りやめました。第三者を介すると、生まれた環境や健康状態を把握しにくく、ブリーダーと直接改善につなげることも難しいからです。手間やコストは増えますが、疾病情報をフィードバックし、遺伝性疾患を減らすには必要な判断でした。

 さらに、獣医大学などとの共同研究も進め、重篤な疾患や遺伝子病を減らすための知見を積み上げています。今年11月からは、直接取引のブリーダーに対して親犬の遺伝子病検査を義務付ける方針も発表しました。数字を出すこと自体が目的ではありません。課題を見える形にし、改善につなげることが大事なのです。

―― 販売後の医療体制にも投資していますね。

正宗 販売後の責任という意味では、当社は06年から、販売前のペットすべてにマイクロチップを装着してきました。当時はまだ国内で十分に普及していませんでしたが、迷子や飼育放棄を防ぎ、ペットの所在を追えるようにすることは、販売会社として終生飼養を支えるために必要だと考えたからです。22年には法制化されましたが、われわれにとってはそれ以前から続けてきた取り組みです。
代官山に開設した動物病院も、その考え方の延長線上にあります。CTやMRIといった高度医療機器を導入しました。単体で見れば大きな投資ですし、すぐに収益だけで回収できるものではありません。それでも、当社で扱うペットの健康を守るためには必要なインフラです。

 ペットを販売して終わりではなく、その後まで責任を持つ。万が一、病気などで販売が難しくなった個体についても、自社の病院で治療を継続し、必要に応じて里親へ譲渡する仕組みを整えています。その際も、一定期間の治療費を当社が負担する保証をつけるなど、引き受ける方に過度な負担をかけないようにしています。

―― 「売った後」まで見据えることが、事業の広がりにつながっているわけですね。

正宗 ペッツファーストは、周辺事業を増やすために広げてきたわけではありません。ペットを迎えていただく以上、その後の暮らしまで考える必要がある。そう考えた結果、動物病院、保険、しつけ、飼い主向けサポートが必要になりました。

 体調不良やしつけ、将来の医療費など、ペットを迎えた直後の飼い主の不安は少なくありません。そうした不安に対し、販売後も相談できる体制を持つことが大切です。

―― 販売前の説明やセミナーにも力を入れていますね。

正宗 ペットを迎える前に、啓発動画の視聴やセミナー受講をお願いしています。そこでは、ペットを飼う楽しさだけでなく、日々の世話、医療費、しつけ、突然の体調不良、最期まで向き合う責任も伝えています。現実を理解した上で迎えていただくことが重要です。

 説明を受けた結果、購入を見送る方もいます。販売機会を失っても、安易に迎えて後で飼えなくなる方が大きな問題です。終生飼養ができるかどうかを考えていただくことも、販売会社の責任だと思っています。

―― ペットを迎えるハードルを上げることにもなりませんか。

正宗 そこは難しいところです。ペットを迎える文化を広げたい一方で、誰でも気軽に迎えればいいとは考えていません。命を迎える以上、一定の覚悟は必要です。ただ、必要以上に閉じた市場にしてしまうと、ペットと暮らしたい人の機会を狭めてしまうことにもなります。

 大切なのは、ペットを迎えた後に困らない仕組みを社会全体で整えていくことです。高齢化が進む中で、飼い主に万が一のことがあった場合にどう支えるのか。住環境やライフスタイルが多様化する中で、どうすれば安心してペットを迎えられるのか。そうしたセーフティネットを整えることが、これからのペット産業には求められると思います。

―― 日光のペットケア&アダプションセンターも、その一環でしょうか。

正宗 はい。飼い主の事情で飼育が難しくなった場合に、一時的にお預かりし、新しい飼い主を探す仕組みを提供しています。もちろん、簡単に手放していいという意味ではありません。ただ、病気、介護、転居、家族構成の変化などで、どうしても飼い続けられない事情が起きることもあります。

 その時に、ペットが行き場を失わないようにする。迎える入り口を担う会社だからこそ、万が一の出口にも向き合う必要があります。

―― ペット販売を巡る社会の見方は、変わってきたと感じますか。

正宗 以前よりも、飼い主の意識は高まっているように感じます。ペットを家族として迎えることが当たり前になり、健康管理やしつけ、販売後のサポートに対する関心も高くなっています。一方で、販売会社に求められる責任も重くなっています。
だからこそ、われわれは説明できる会社であり続けなければならない。どこから来たペットなのか。迎えた後にどんな支援があるのか。万が一の時にどう対応するのか。そうした一つ一つを積み重ねることで、ペットを迎える文化の信頼を高めていきたいと考えています。

アークランズ傘下で広がる支援体制

―― 昨年、アークランズグループへ参画しました。どのような意味がありますか。

正宗 アークランズは「ホームセンタームサシ」や「ビバホーム」を展開し、全国に強い店舗網と物販のインフラを持っています。われわれが培ってきたペット販売や医療、保険、サポートの仕組みと、アークランズの持つ顧客接点を掛け合わせることで、より多くの飼い主に一気通貫のサービスを届けられる可能性が広がりました。

 この1年でも、アークランズの拠点への出店や、テナントとの連携、金融サービスや保険などの提案を進めています。ペットを迎える場、フードや用品を買う場、医療や保険につながる場を、より近い距離で提供できるようになる。そこに大きな意味があります。

―― アークランズグループに入ったことで、ペッツファーストの経営にはどのような変化がありましたか。

正宗 アークランズ側は、ペッツファーストが大切にしてきた考え方や現場の強みを尊重してくれています。グループの規模や店舗網、物販の力を生かし、単独では届きにくかった領域にも挑戦しながら、顧客がペットを迎えた後まで支える体制を広げていきたいと考えています。

―― これからのペッツファーストは、どの領域を強めていきますか。

正宗 基本にあるのは、これまでと変わらず、ペットを最優先するという考え方です。その上で、販売時の情報開示、販売後の医療や保険、飼い主向けのサポートをさらに磨いていきます。

 ペットを迎える入り口に立つ会社として、ただ販売数を追うのではなく、一頭一頭がその後どう暮らしていくのかに責任を持つ。遠回りに見えても、誠実に正しい商売を続けることを大切にしたいです。