ペットの家族化が進む中、高品質な国産ペットフードのD2C事業で成長を遂げ、今年4月23日に東証グロース市場への新規上場を果たした犬猫生活。同社代表の佐藤淳氏に、起業の経緯や商品開発の裏側、獣医師の高齢化で深刻化する業界の課題解決に向けた挑戦について聞いた。Photo=田中和弘(雑誌『経済界』2026年8月号より)

佐藤 淳 犬猫生活のプロフィール

佐藤 淳 犬猫生活
犬猫生活代表 佐藤 淳
さとう・じゅん 1985年埼玉県生まれ。オイシックスでEC部門の責任者を務めたのち、野良猫を保護した経験を機に、2018年に犬猫生活を設立。代表として無添加ペットフードを展開する。今年4月東証グロース上場。

保護猫との出会いから始まった食への挑戦

―― 犬猫生活を起業した経緯から教えてください。

佐藤 前職は食品のネット通販会社であるオイシックスに在籍していました。その前にも自分で事業を営んでいたのですが、より社会的インパクトのある事業に挑戦したいと考え、オイシックスに入りました。当時から、いずれは「EC×別のジャンル」で独立したいと思っていました。

 直接のきっかけは、妻が近所の野良猫を保護したことです。保護した後に子猫が生まれ、親猫と合わせて4匹を育てることになりました。ちょうど食品分野にいたこともあり、ペットの食はどうなっているのかと調べ始めたのです。

 すると、日本の食産業は世界でも高い品質を持っているのに、良質なペットフードは海外製が中心で、国産は価格重視の商品が多いと感じました。日本で暮らす犬猫に、国産の良質なフードを届けるブランドがあっていい。そこにビジネスの可能性と、自分が情熱を注げる理由の両方を見いだしました。

―― 主力のペットフードは、どこに特徴がありますか。

佐藤 国産、無添加(保存料・香料・着色料不使用)、人間も食べられる品質の食材を使う「ヒューマングレード」にこだわっています。一般的なペットフードは、製造を安定させやすい肉粉を主原料にすることが多いのですが、当社では生肉を主体にしています。

 ただ、生肉は水分量や脂の入り方が一つ一つ違うため、粒状にするのが非常に難しい。開発当初は20社ほどの工場に相談しましたが、ほとんど断られました。ようやく協力してくれる工場が見つかってからも、粒にならない、べたつくといった課題が続きました。温度や湿度に合わせて加熱や乾燥を調整し、手作りに近い製法を確立していったのです。

―― 成長の理由をどう見ていますか。

佐藤 大きくは3つあります。1つ目は商品力です。生肉主体で、余計な添加物を使わず、できる限り自然な形で作る。一方で、食べっぷりも大事にしてきました。健康に良さそうでも、犬や猫が食べてくれなければ続きません。

 2つ目は、経常利益の20%を動物福祉に寄付していることです。ペットフード業界には、過去のコスト重視の製造背景もあり、飼い主さんの中に不信感が残っています。だからこそ、利益の一部を動物福祉に還元していることが、信頼につながっていると感じます。

 3つ目は人です。大規模な採用活動をしているわけではありませんが、事業内容や寄付の仕組みに共感し、「犬猫生活で働きたい」と応募してくれる人がいます。動物への愛情と、プロとしての専門性を持つ人材が集まることが、商品づくりや顧客対応、マーケティングの力になっています。

利益還元から獣医療インフラへ

―― 利益の20%を寄付する仕組みは、どのように生まれたのでしょうか。

佐藤 転機になったのは、ZOZO創業者の前澤友作氏が率いる前澤ファンドからの出資です。前澤ファンドは出資基準の一つに社会貢献性を掲げていました。そこで、犬猫生活福祉財団をつくり、利益の20%を動物福祉に還元する構想を提案したところ、強く共感していただきました。

 一般的な投資家であれば、利益の20%を寄付する方針には慎重になることも多いと思います。しかし、前澤ファンドの出資が決まったことで、思い切って取り組めるようになりました。

―― 財団では、どのような活動をしていますか。

佐藤 群馬県内で保護シェルターを運営しているほか、野良猫の不妊去勢手術を専門に行う病院も運営しています。これ以上野良猫を増やさないため、行政や地域のボランティアの方々と連携しながら活動しています。利益を事業だけに使うのではなく動物福祉へ循環させることが、犬猫生活らしい経営だと考えています。

―― 今年4月には上場も果たしました。上場後に変化はありますか。

佐藤 上場したからといって、会社の考え方が大きく変わるわけではありません。必要なガバナンス体制は上場前から整えてきました。ただ、社会的な信頼性は高まりました。現在進めようとしている動物病院のM&Aでも、相手方に安心してもらいやすくなったと感じています。

―― なぜフード会社が動物病院経営に踏み込むのでしょうか。

佐藤 フード事業を進める中で、ペットを取り巻く周辺領域の課題も見えてきました。特に獣医療では、動物病院の90%以上が個人経営といわれています。地方では獣医師の高齢化と後継者不足が深刻です。院長先生が1人で地域を支え、後継者がいないまま閉院してしまう。そうなると、その地域のペットにとって命に関わるライフラインが失われてしまいます。

―― その課題に、どう取り組みますか。

佐藤 M&Aを中心に、グループ病院を形成していく方針です。都市部と地方の両方に病院を持ち、都市部で新卒の獣医師を採用・育成し、地方へ人材が回る循環をつくりたいと考えています。都市部で経験を積み、ライフステージに応じて地方へ移る。あるいは、地方で働いた後に都市部へ戻る。そうした選択肢を持てるグループにすることで、勤務獣医師としても働き続けやすい環境を整えたいのです。

―― 今後の展望を教えてください。

佐藤 まずは基本となるフード事業の拡大です。これまではECが中心でしたが、ペット業界では今も実店舗での購買が7割ほどを占めています。今後はオフラインの販路も広げていきます。

 次に、獣医療のグループ化です。地域の医療インフラを守るためにも、獣医師が働き続けられる環境をつくっていきたい。そして海外にも挑戦します。日本の食材や加工技術は、ペットフードでも世界に通用すると考えています。

 犬猫生活は、食から始まった会社です。ただ、目指すのは良いフードを届けることだけではありません。動物福祉に還元し、医療インフラも支える。そうした形で、ペットと飼い主さんが安心して暮らせる社会をつくっていきたいです。