動物医療の高度化やペットの長寿化により、治療費の備えは飼い主にとって身近な課題になっている。ペット保険を20年以上手掛け、保有契約件数100万件を超えた第一アイペットは、第一ライフグループ入りで飼い主との接点を広げる。補償にとどまらないペット保険の役割と今後の成長戦略を聞いた。Photo=横溝 敦(雑誌『経済界』2026年8月号より)
安田敦子 第一アイペット損害保険のプロフィール
やすだ・あつこ 1974年生まれ。富士ゼロックス、コンサルティング会社のドリームインキュベータを経てフリーランスとして活動。2017年にアイペット損害保険(現・第一アイペット損害保険)へ入社。21年社長就任。
蓄積データを生かす ペット保険の専門性
―― まずは、ペット保険会社としての第一アイペットの成り立ちや特色について教えてください。
安田 当社は2004年に創業し、今年で22年を迎えました。
ペット保険市場は伸び続けており、19年度から24年度までを見ても、業界全体で年平均2桁成長を続けています。当社も成長を重ね、昨年9月には保有契約件数が100万件を超えました。
市場が伸びている分、新規参入もありますが、一方で事業をやめる会社もあるなど、出入りのある業界でもあります。その中で20年以上事業を継続し、ブランドを築いてこられたことは当社の強みです。
ペット保険は、契約件数が増えるほど、犬種や猫種、年齢、傷病ごとのデータが蓄積されていきます。当社は20年以上にわたりペット保険を専門に手掛けてきたことで、そうしたデータを商品設計や保険料設定、情報発信に生かせる基盤を持っています。加えて、23年3月に第一ライフグループの一員となりました。
―― 第一ライフグループ入りで、具体的にはどのような変化がありましたか。
安田 第一ライフグループは「一生涯のパートナー」というブランドメッセージを掲げています。われわれも「うちの子に、一生涯の安心を」という思いを大切にしており、飼い主とペットの一生涯のパートナーでありたいと考えています。根底にある価値観が近いグループに加わったことで、より事業を追求しやすくなりました。
具体的には、人材交流や販売面でのシナジーが出ています。第一ライフから優秀な人材が加わり、生え抜きのメンバーも多くを学んでいます。また、第一ライフの生涯設計デザイナーに当社のペット保険を販売していただく取り組みも進んでおり、提携のみだった頃と比べて販売実績は4倍以上に伸びています。
もう一つ大きいのは、これまでペット保険に接点がなかった方にも、情報を届けられるようになったことです。ペット保険は、ペットショップで迎える時に加入を検討するケースが多い一方で、すでに一緒に暮らしている方や、譲渡で迎えた方には十分に届いていない面があります。
第一ライフグループには、日頃から契約者の暮らしや将来設計に向き合ってきた接点があります。ペットも家族の一員として考える方に、医療費への備えを自然に伝えられるようになったことは大きいです。
―― 安田さんご自身は、もともとペットや保険とは異なる業界にいらっしゃいました。
安田 はい。富士ゼロックスでキャリアを始め、その後はドリームインキュベータというコンサルティング会社にいました。ペットにも保険にも縁がなかったのですが、ドリームインキュベータが当社に投資していたご縁があり、独立していた時期に当時の経営陣から声をかけられたのが始まりです。
入社後はコンプライアンス部門からスタートし、上場に向けた株主対応の部門づくりや経営企画などを担当しました。保険業法を学ぶ必要もあり、最初は大変でした。ただ、コンサルティング時代に異なる業界のプロジェクトに入っていたので、新しい領域への心理的なハードルは高くありませんでした。
未加入8割をどう動かすか 医療費高騰と保険の意義
―― ペット市場全体を見ると、医療や保険の分野も大きくなっています。ペット保険市場はどのように伸びてきたのでしょうか。
安田 ペット保険市場は一貫して伸び続けています。ただ、加入率はまだ約21%にとどまり、8割弱のペットは保険に加入していないと見ています。
―― 人間の医療保険と比べて、ペット保険の特徴はどこにありますか。
安田 人間の場合は公的な医療保険がありますが、ペットにはそうした仕組みがありません。動物病院で診療を受けると、治療費は全額自己負担になります。また、動物医療は自由診療なので、同じような治療でも病院によって費用が異なることがあります。
一方で、ペット保険は自動車保険や火災保険とも違います。対象は物ではなく、飼い主にとって大切な家族です。治療費の補填にとどまらず、ためらわず動物病院へ行ける安心を提供することが大切です。
―― ペットの家族化が進んでいるのに、なぜ加入率は21%にとどまっているのでしょうか。
安田 ペット保険の存在自体は以前より知られるようになってきました。ただ、「いつ必要になるのか」「若くて元気なうちに入る意味は何か」までは、まだ十分に伝わっていないのだと思います。「うちの子はまだ若いから大丈夫」「病気になっても、その時に考えればいい」と考える方もいらっしゃいます。
しかし、高齢になってから、あるいは病気をしてからでは加入できない場合があります。保険は、病気になった後に入るものではなく、元気なうちに備えておくものです。ペットを迎える時に保険で備えることが当たり前になるよう、その意義を丁寧に伝えていく必要があります。
お金が理由で通院をためらったり、獣医師が勧める治療を諦めたりするのは、本当に悲しいことです。実際、当社が実施したペットの医療費に関する調査でも、費用面で受診を迷った経験がある飼い主は3割を超えました。飼い主とペットが必要な時に必要な医療を選べるようにすることが、ペット保険の大きな役割だと考えています。
―― ペット保険の加入率は犬猫全体で約21%ですが、犬が約24%であるのに対し、猫は約18%にとどまるとの試算もあります。猫の方が低い傾向にあるのはなぜでしょうか。
安田 理由はいくつかあると思います。ワンちゃんは狂犬病予防接種などで動物病院に行く機会があり、獣医療が比較的身近です。一方でネコちゃんは、痛みや体調不良を隠す傾向があるといわれます。飼い主が不調に気づきにくく、通院が遅れたり、保険の必要性を実感しづらかったりする面があるのではないでしょうか。
―― 保険に入っていてよかった、という声はどんな場面で届きますか。
安田 やはり保険金をお受け取りいただいた時です。急な病気やけがで通院が必要になった時、ためらわずに病院へ行けたという声をいただきます。また、獣医師から勧められた治療を、保険があったことで選択できたという声もあります。
残念ながらお別れの時を迎えることもあります。その後のお手続きの際に、「保険があったおかげで最後まで納得のいく治療をして見送ることができた」とお手紙をいただくこともあります。そうしたお声は、個人が特定されない形で社内にも共有しています。従業員にとっても、自分たちの仕事が飼い主とペットの時間を支えているのだと実感する機会になります。保険は普段は目に見えにくいサービスですが、いざという時に役立ったという声が、私たちの仕事の原点になっています。
変わる飼い主のニーズ 補償を超える保険の役割
―― 創業から22年。飼い主のニーズや環境はどう変わりましたか。
安田 万が一の時にしっかり補償を受けたいという基本的なニーズは変わりません。ですが、手続きの利便性への要望は大きく変わりました。近年は20代の若い飼い主の加入も増えています。スマートフォンで手続きが完結し、ストレスなく進められることを求める方がいる一方で、従来通り紙や電話で丁寧に対応してほしいという方もいます。
そのため、ウェブ請求やAIを活用したチャットボット、ボイスボットなどを導入しながら、幅広いお客さまのニーズに応えることが大切です。利便性を高めるだけでなく、飼育方法や疾病、防災に関する情報発信にも取り組んでいます。
―― 医療費の高額化も進んでいますか。
安田 進んでいると感じます。背景には、物価上昇だけでなく、ペットの長寿化や獣医療の高度化があります。今は室内で家族として大切に育てられるペットが増え、寿命も長くなっています。長寿化すれば高齢期の疾患も増えますし、医療が進歩すれば治療の選択肢も広がります。その結果、治療費が高額になりやすい構造があります。
当社の調査でも、10歳以上のペットでは病気やケガの診療費を負担に感じる割合が高まっており、長寿化が医療費への備えをより重要にしていることがうかがえます。
高度な治療が選択肢になる時代に、飼い主とペットの医療をどう支えるか。それが大きな課題です。
―― 犬の飼育頭数は減少傾向にあるともいわれます。今後の成長戦略はどう描いていますか。
安田 確かに飼育頭数については減少傾向が指摘されています。ただ、ペット保険の加入率はまだ約21%です。未加入の方々に、保険で備える意義を伝えていく余地は大きいと考えています。
また、飼育される犬種の傾向も変化しています。ミックス犬が増えており、当社でもご契約の多い犬種の一つです。保険は多くの契約者からいただく保険料をもとに、公平に運営していく仕組みです。そのため、犬種ごとの疾病傾向や治療費のデータをどう分析し、実態に合った商品設計につなげるかは、今後も重要になります。
ペット関連市場は、飼育頭数だけで決まりません。1頭当たりにかける費用は増えており、ペットへの支出を大切にしたい方は多い。
だからこそ、補償に加え、ペットの健康を支える付帯サービスなども私たちの役割として求められていくと考えています。
―― 第一アイペットとして今後どのような成長を目指しますか。
安田 第一ライフグループとして、30年度までに「4つのナンバーワン」、つまりお客さま満足度、商品・サービスの革新性、従業員満足度、企業価値でナンバーワンを目指す目標を掲げています。当社も同じ方向を向き、お客さまのニーズに向き合っていきます。
保険金をお支払いする場面だけでなく、契約前後の不安や疑問に寄り添うことも、これからの保険会社に求められる役割です。
ペットショップやブリーダー、譲渡団体の皆さまは、ペットと飼い主の最初の接点です。お迎えされた命が幸せなスタートを切れるようにという思いは、皆さまと共通していると考えています。だからこそ、われわれも保険という立場から、その先の暮らしを支えていきたい。
言葉を話せない大切な家族だからこそ、備えが必要です。第一アイペットは、飼い主とペットの一生涯のパートナーとして、治療費への備えにとどまらず、安心して共に暮らせる時間を支え続けていきたいと考えています。