親子上場に資産過剰。アクティビストから見て、日本の上場企業の一部にはまだまだこうした「隙」が多いという。村上世彰氏とファンドを立ち上げ、その後独立してなお存在感を放ち続ける生粋のアクティビストが丸木強氏だ。丸木氏が指摘する日本企業の問題点。そして日本経済を良くしたいという丸木氏の原点は今も揺らいでいないのだろうか。Photo=山内信也(雑誌『経済界』2026年8月号より)
丸木 強 ストラテジックキャピタルのプロフィール
まるき・つよし 1959年東京都生まれ。82年に東京大学法学部卒業後、野村證券に入社。主に日本企業や政府関係機関の資金調達案件の引受けなどの業務を担当。99年にM&Aコンサルティングの創業メンバーの1人として日本初となるアクティビストファンドの運用に従事。2012年に投資ファンド・ストラテジックキャピタルを設立し代表に就任。
原点は「日本経済への憂い」企業に改善の余地を提案
―― アクティビストとしての原点、ストラテジックキャピタル設立の経緯を教えてください。
丸木 私がアクティビストの道を意識し始めたのは30代、野村證券に所属していた頃です。
通産省に出向したときに高校・大学の同級生の村上世彰さんと再会しました。彼とはよく「このままでは日本経済はダメだ」という話をしていたのです。
村上さんは通産省の官僚として日本を変えたいと思っていたし、私は証券会社で上場企業を担当していたので、日本企業の問題点を間近で見ていました。しかし、官僚や証券会社社員の立場では企業を本質的に変えることは難しく、株主として企業に向き合うしかないと考えました。それがアクティビストを志したきっかけです。
もちろん、きれいごとだけではありません。自分自身が経済的に成功したいという気持ちもありました。
1999年に野村證券を辞めて、村上さんとファンドを設立したのも、日本の企業が抱える構造的な問題を自分たちの手で解決してみたいという思いがあったからです。
証券会社時代から、ニッポン放送とフジテレビの資本関係の逆転構造、昭栄が保有するキヤノン株式と不動産、日立製作所の上場子会社の問題など、改善余地のある企業構造に注目していました。しかし、証券会社の社員が改善案を提案しても、それらの企業は耳を貸さず、行動は起こしません。株主として本気で関わらなければ企業は変えられない。そう痛感したことが、現在の活動につながっています。
―― 企業に対してどのような「隙」を見つけ、株主提案をしているのでしょうか。
丸木 われわれは「隙」というより、改善の余地がある企業に改善案を提案しています。
具体的には、資産を持ちすぎている「アセット過多」な企業に代表される資本効率が悪い企業。利益率の低い事業部門を抱える場合もそうです。さらにはコーポレートガバナンスに問題がある企業。これら株式市場での評価が低い企業については枚挙にいとまがありません。
また、IR(投資家向け情報開示)が不十分な企業もあります。特に日本企業は、競争上の理由を挙げて情報開示を避ける傾向があります。しかし、電子部品や半導体材料など日本が世界シェアを一部持っている分野でも、顧客名や用途を開示しないために、残念ながら市場評価が低くなっているケースがあります。これらの企業は適切な情報開示を行えば、株価はもっと高く評価されるはずです。
「親子上場」解消を株主提案 取締役として参画し議論主導も
―― 「親子上場」の解消を強く提案される理由は何でしょうか。
丸木 親子上場は、構造的に利益相反が避けられないからです。
親会社はグループ全体の利益を優先しがちで、例えば子会社に生産委託して安く買い上げたり、低金利で子会社の資金を借り入れたり、不利な条件を押し付けられる構造ですし、第三者が高値で子会社を買収しようとしても親会社が拒否すれば、少数株主の利益は守られません。
また、親会社の天下り先として子会社が利用され、やる気のない腰掛けの経営者が送り込まれるケースも多いのです。そうした経営者のもとで結果として経営が緩んで企業価値が毀損します。
もちろん、子会社の株価が高く、少数株主の利益が守られている場合は問題ありません。しかし、少数株主の利益が守られていない企業が日本には非常に多い。だからこそ親子上場は原則として解消すべきだと考えています。
―― 自身が取締役として参画する株主提案を行う理由は何ですか。
丸木 取締役として参画する提案をする理由は、取締役会で株主価値をどうしたら向上させられるか、議論を活性化させたいからです。
特に最近は「資本コスト」を踏まえた経営が求められていますが、資本コストの意味を理解していない経営者が本当に多いですし、理解していても行動に移しません。なぜならこうした企業は「キャッシュを持っていた方が安心」「自己資本比率が高い方が安心」 という古い価値観から抜け出せないからです。
私が取締役になれば 「株価を上げるために何をすべきか」 という取締役会での議論を主導することができます。
―― 日本は〝アクティビスト大国〟と言われていますが、どう受け止めていますか。
丸木 日本の企業に対するアクティビストの提案が増えているのは事実です。
日本よりガバナンスの良い会社が多く、株価の評価が高いアメリカでも日本の3倍のアクティビストによるキャンペーンが毎年行われています。日本企業の経営に関する諸問題が改善されれば、アクティビストは多少は減っていくでしょう。でも、株主が有権者として意見を言うのは当たり前で、これが平時だと理解すべきだと思います。企業価値を上げて株価も上げる。ただそれだけの話なのです。
―― アクティビストの提案を受け入れる企業も一部出てきています。そうした変化についてどのように感じていますか。
丸木 私の印象では大企業は確実に変わってきています。日本を代表するソニー、日立、トヨタなどは資本効率やガバナンスを重視する方向に既に舵を切っています。
一方で、中堅企業やこれまで株主から何も言われてこなかった企業は総じて変化のスピードが遅い。「会社を良くしよう」という提案に反対する経営者がいるのは本当に不思議です。
―― 株主の利益をどう考えますか。
丸木 株式会社の最大の目的は株主利益の最大化です。これは会社法の教科書にも明記されていますし、株式会社の成り立ちの歴史を見ても明らかです。取締役は株主の代理人であり、株主の資産価値を高める役割を負っています。
「従業員を大切にすべき」「取引先を大切にすべき」という議論がありますが、これは企業にとって当たり前のことであって、結果として株主の資産価値を高めることにつながります。従業員を大切にしなければ業績は上がらないし、取引先を軽視すれば事業は続きません。ただし、従業員と取引先を大事にしている一方で、株価はものすごく安いという状況が続いてしまうとわれわれ株主は報われないのです。だからこそわれわれは株主利益の最大化を訴えています。
―― アクティビストは〝侵略者〟か〝救世主〟かという議論についてどう思いますか。
丸木 侵略者という表現には大変違和感があります。私たちは自分のお金、投資家のお金をリスクも取りつつ運用し、株主になっています。その企業の株価を上げてくださいと言っているだけで、そのためにはこういうことをしてくれませんかと伝えているだけです。
救世主という表現もちょっと言い過ぎと感じますが、会社のオーナーとして、自分の財産価値を上げたいから、運営している人たちにこうしてくださいと言っているだけの話でしかありません。
一方で企業が雇う弁護士やアドバイザーは、株主価値を上げるわけでもないのにわれわれ株主の資産から高額のフィーを取っていきます。われわれは、自分のアセットの価値を上げたいがために一生懸命やっているだけなのです。
―― 社外取締役の役割について、どのように考えていますか。
丸木 社外取締役は少数株主の利益を守る存在であるべきです。しかし、実際には、われわれ株主との面談を拒否したり、 面談をしてみても自分の役割を理解していなかったり、 社外取締役を「中立的立場」と誤解している人もいます。
社外取締役は株主の代理人であって、株主の利益を守る、または最大化のために、こうすべきということを主張しないといけないのです。
例えば周年事業、本社ビル建設など企業価値を毀損するような支出には反対すべきですし、有事には社長解任を主導する役割もあります。日本の企業では、そこまで理解している社外取締役は非常に少ないのが現状です。
―― かつての同志・村上世彰氏をどう見ていますか。
丸木 村上さんはわれわれと違って、顧客のお金を扱っていない分、自由に活動できているのではないでしょうか。
他の投資運用会社についても、投資運用業である以上、自らの顧客から運用の成果で評価されるよう努力していると思います。
弱体化する日本経済を俯瞰 株主と国民の意識改革の必要性
―― 金融庁や東証のガバナンス改革の動きをどう見ていますか。
丸木 東証と金融庁の動きは素晴らしいと思います。ただ、東証の今回のガバナンスコードの改訂案では、従来の補充原則が解釈指針となって順守の対象から外れたり、経営者がすぐに行動しない言い訳に使いやすい「中長期」が強調されたりしていますので、パブリックコメントを通じて意見を伝えました。
経産省のM&A指針の議論も、最も高い価格を示す買い手候補に売却しない方が良いのではないかなど、投資家の視点からはピント外れで、海外投資家からも批判されるのではないでしょうか。
企業経営者の声が強く、投資家の声が弱いのが日本企業の問題点です。取締役は株主の投票で選ばれるので、株主のレベルに見合った経営者が選任されています。
だからこそ一般株主は変わらなければいけないし、NISAのさらなる普及で個人株主が増えていけば、徐々に意識は変わっていくでしょう。 時間はかかるかもしれませんが良い流れだと感じています。
―― 今後、日本企業の価値向上に向けて、どのようなアクティビズムを展開していきたいですか。
丸木 日本の経済力が低下し、国際的地位が下がっていくことに強い危機感を抱いています。
人口減少や資源の問題はありますが、だからこそ企業が高い付加価値を生み出し、国力を高めていく必要があります。経済力が弱ければ国民も貧しくなり、外交力も弱くなってしまう。
私たちの活動は小さなものですが、日本の経済力を高める一助になりたいという思いで活動を続けています。