去年、フジ・メディア・ホールディングス(FMH)に独自の取締役候補を提案し注目を集めた投資運用会社ダルトン・インベストメンツ。FMHはダルトンらの提案を受ける形で結果的に不動産事業の切り離しに踏み切った。日本を代表するアクティビストとして数々のディールを取り仕切る西田真澄氏が目指すのは意外にも“アクティビストがいない世界”だった。Photo=山内信也(雑誌『経済界』2026年8月号より)

西田真澄 ダルトン インベストメンツのプロフィール

西田真澄 ダルトン
ダルトン・インベストメンツ パートナー/
ダルトン・アドバイザリー マネージングディレクター 西田真澄
にしだ・ますみ 1985年大阪生まれ、オーストラリア・メルボルン育ち。2008年にモナシュ大学卒業後シティグループ証券に入社しデリバティブトレーダー。14年からはシティバンクグローバルマーケットにて不良債権アナリストを務め、21年からダルトン・グループ。23年よりダルトン・アドバイザリーマネージングディレクター、ダルトン・インベストメンツ パートナーを務めている。

FMHの改革スピードを評価 取締役候補の提案がトリガーに

―― 昨年、株主提案したフジ・メディア・ホールディングス(FMH)は、この1年でどのように変わりましたか。

西田 率直に言って、FMHは想像を超えるスピードで変革を進めたと思います。

 私たちがFMHに対して提案してきたのは、単なるコスト削減や短期的な株価対策ではなく、企業価値を長期的に高めるための構造改革でした。その中でも、不動産事業の切り離しは最も大きなテーマの1つでした。

 通常、数千億円規模の不動産事業を外部資本に開放するためには、 社内調整や取締役会での議論、 スキームの検討や外部パートナーの選定など、2、3年はかかるのが一般的です。

 それをわずか1年で実行に移したことは企業としての覚悟と意思決定の質が劇的に変わった証拠だと感じました。

 昨年のFMHの株主総会までは、私たちも強いエンゲージメントを続けていましたが、総会後は会社自身が自律的に変革を進めていったと思います。

 「外から言われたから変わる」のではなく「自分たちが変わらなければいけない」という意識が社内に芽生えたことが最大の成果だと思います。

―― 昨年5月と11月にFMHの清水賢治社長を直接訪問していますね。

西田 5月の訪問は、FMHの株主総会前の最終局面でした。面会当時はまだ何も決まっていないようで、私たちの提案に対して、会社がどこまで真剣に向き合ってくれるのか、見極める場でもありました。

 社外取締役候補として面談した時間は30分ほど。30分という時間が、会社の本気度を象徴していると感じましたし、取締役候補の面談がわずか30分というのは、軽視されている印象を受けました。

 一方で株主総会を経た去年11月の訪問では、半年間の激しい議論を経て「わずか1年足らずでよくここまでやった」ということを確認し合いました。お互いに労をねぎらう場面もあり、双方、敬意も生まれていたと思います。

―― これまでFMHに足りなかったものは何だと考えていますか。

西田 組織としての多様性の欠如です。これはFMHに限らず、日本企業全体に共通する課題でもあります。

 取締役会の構成を見ると、20代で入社して60代で役員という同質的なキャリアパスを歩んだ方々が中心で、社外取締役も似た年齢層が多い。

 現在のテレビは高齢層が主要な視聴者層ですが、制作現場には進取の気性、感性も必要です。また、デジタル環境の変化を理解するには、デジタルネイティブな若い世代の視点も欠かせません。

 多様なバックグラウンドを持つ人材が議論し、未来に向けた意思決定を行うことが企業の競争力につながります。

―― 昨年のFMHへの株主提案はどのような意義があったのでしょう。

西田 私たちが一番に取り組んだのは、ガバナンスの正常化です。

 当時のFMHでは、経営諮問委員会というボードメンバーらによる委員会で、実質的に1人の取締役が人事や戦略を決める構造になっており、明らかなガバナンス不全となっていました。

 ガバナンスが機能しない企業の多くは、意思決定が遅れたり、誤った方向に進んでいる戦略を修正できなかったり、 社内の健全な議論が生まれないなどの傾向があります。

 私たちは、FMHに対して取締役会が本来果たすべき役割を取り戻すための提案を行いました。対立するのではなく、あくまで企業価値向上のための建設的なプロセスとしての株主提案でした。

―― メディア企業が不動産事業を抱えることについてどう考えていますか。

西田 メディア企業の不動産事業は利回りが低く、新しい土地を買い、新しいビルを建てなければならず、つまり再現性がないため「必要のない資産」だと考えています。

 メディア企業は自社のプロダクトやサービスを磨いた上で他社に負けないような付加価値の高いものを客に継続的に提供することが一番だと思います。それは不動産ビジネスと相容れるものではありません。

 またメディア企業が不動産を大量に保有することは、資本効率の観点からも合理的ではありません。

 だから、われわれのようなアクティビストにねらわれてしまうのです。

―― FMHの不動産事業の切り離しを巡り、入札による外部資本の導入が進んでいることをどう見ますか。

西田 これは数千億円規模の案件であり、入札することができるプレーヤーは限られます。

 日本の大手不動産デベロッパー、海外の投資ファンドが圧倒的に優位だと見ています。海外ファンドは、物件購入、大規模な追加投資、バリューアップ、高値での売却という一連のプロセスを得意としています。

 例えば「4千億で買い1千億投じて7千億で売る」というスキームを実行できるのは資金力などから見ても大手不動産デベロッパーや海外ファンドしかないでしょう。

 もちろんわれわれダルトン・インベストメンツがこの入札に参加することはありません。そもそもこうした不動産事業に関するスペシャリティもありませんから。

企業の成長投資を重要視 長期的成長の土台を整える

―― 日本企業の経営環境について、どのように見ていますか。

西田 日本は30年の長きにわたってデフレを経験してきて「判断しない経営」が常態化していました。
 しかし、コロナ後のインフレ環境では低収益のビジネスは存続できません。デフレからインフレにシフトしていくのは難しいと思いますし、今は大きな転換点です。

 成長投資をしなければ人材は離れ、企業価値も上がらない。経営者はこれまでとは全く異なる判断軸を持つ必要があります。

―― 株主提案が増えた理由は何ですか。

西田 2022年以降、東証の改革方針で、PBR・ROE・資本コストというわれわれアクティビストと企業経営者の共通言語が明文化されたことが大きいです。こうした共通言語=指標で議論ができる環境になってきたということです。

 以前は「株価が安い」と主張しても、 企業側からは「株価は市場が決めるものだ」と返されるだけでした。

 しかし今では、バランスシートや事業ポートフォリオ、そして資本コストといった当たり前のワードを活用した具体的な議論が可能になりました。

―― アクティビストを志す若者は増えていると考えますか。

西田 FMHの件ではテレビ局という一般の人にも馴染みのある企業で、株主総会やガバナンスの問題が大きく報道され、アクティビストの役割が可視化されたことで、学生や若手ビジネスパーソンの関心が一気に高まりました。

 実際、私のもとにもアクティビストの仕事に興味があるといった相談が増えていますし、企業側でガバナンスやIRを担当していた人がアクティビストに転身するケースもあります。アクティビズムは、単なる投資手法ではなく、企業の未来を一緒に考える知的な仕事として認識され始めています。

―― 今後の投資戦略について教えてください。

西田 FMHのような大規模な案件は今後しばらく出てこないと思います。しかしだからといって私たちの活動が縮小するわけではありません。むしろこれからが本番だと考えています。

 今後日本企業は、インフレ環境への適応、人材流動化への対応、成長投資の促進、事業ポートフォリオの見直しといった課題に直面します。

 私たちは単に株価を上げるためではなく企業が長期的に成長するための土台を整えるという視点で投資を行っています。本質的な改善余地のある企業はまだまだ多く、そこに対して粘り強くエンゲージメントしていくつもりです。

アクティビストへの誤解 企業が自律成長できる社会へ

―― アクティビストは企業にとって〝侵略者〟それとも〝救世主〟でしょうか。

西田 アクティビストという言葉にはどうしても〝攻撃的・敵対的〟というイメージがつきまといます。しかし実際にはアクティビストにも多様性があり、投資スタイルも目的も大きく異なります。

 短期的な利益を狙う投資家もいれば、私たちのように、長期で企業と向き合い経営の質を高めることを目的とするタイプもいます。

 敵対的と誤解される理由の1つは「アクティビストは企業を混乱させる存在」というものです。

 ガバナンスが健全で経営が透明性を持って意思決定を行っていれば、アクティビストが入り込む余地はありません。アクティビストが入るということは企業のどこかに構造的な問題があるというサインでもあります。

 また、アクティビストは敵ではありません。企業価値を高めるという目的は、経営者も株主も一致していると思っています。

 私たちがいつも提案するのは、事業ポートフォリオの見直し、資本効率の改善やガバナンスの強化。それに経営陣のアラインメント向上といった、企業の長期的な成長に不可欠なテーマばかりです。

 アクティビストは、企業の〝外部の目〟として経営の盲点を指摘して改善のきっかけをつくる存在だと考えています。

 いつかアクティビストが、企業のパートナーとして認識されるようになれば、日本企業の競争力はもっと高まるはずです。

―― アクティビストとしての理想像を教えてください。

西田 究極的には、私たちアクティビストの仕事が必要ない状態が理想です。矛盾しているように聞こえるかもしれませんが本心です。

 企業が健全なガバナンスを持ち 経営陣が株主と対話し、成長投資を適切に行い、従業員が誇りを持って働き、透明性の高い経営陣の意思決定が行われる。そんな企業であれば、われわれアクティビストが介入する余地はありません。

 主に企業人を招いたラジオ番組「Investor's Sunday」(インターFM)を毎週放送しているのですが、アクティビストになりたいという学生からの声なども寄せられていて、資本市場や企業経営に興味を持つ人が増えていると実感しています。

 われわれはこうした活動も含めて企業を支え、時に改善を促しガバナンスの文化を根付かせる役割を担い続けていきたいと考えています。