(雑誌『経済界』2026年8月号より)

手島直樹 小樽商科大学大学院のプロフィール

手島直樹 小樽商科大学大学院
小樽商科大学大学院商学研究科教授 手島直樹

アクティビストをのみ込み企業価値と株価を高めよ

 日本のアクティビズムは、今まさに大きな転換点にあります。現在、日本では70社を超えるアクティビストファンドなどの活動が非常に活発化しています。

 特に東京証券取引所が、PBR(株価純資産倍率)が1倍を割っている企業に対して改善を促す方針を示していることもあり、自社のバランスシート(貸借対照表)をスリムにせよというアクティビズムが主流になっています。

 現金を減らす、収益性の低いノンコア資産を売却する、配当を増やす要求は、アメリカでは100年前に行われていたものです。日本はようやくそこに追いついた段階だと言えるでしょう。

 では、なぜ日本はここまで時間がかかったのか。日本企業は持ち合い株が多く、普段からモノ言わぬ株主がほとんどで、市場の規律が働いていなかったのです。

 アクティビストが狙う企業は明確で、彼らは割安に放置された会社、いわゆるディープバリュー企業を標的にします。

 日本企業は現金や不動産、政策保有株を多く持つため企業価値の計算が容易でターゲットにされやすいのです。

 企業が自ら現金を減らし、不動産を売却し、政策保有株を手放せば、ディープバリューは軽減します。攻めどころを失ったアクティビストは次のステージへ進むしかありません。

 今後はアクティビストが経営に踏み込む動きが主流になっていくでしょう。会社の収益性が低いのは経営トップの責任であるとして、社長や会長の解任を求める。アメリカでは当たり前の動きが、日本でも起こり始めています。

 アクティビストは企業にとって侵略者なのか、救世主なのか。私は「どちらもありうる」と考えています。経営者の立場で考えるなら、彼らを〝悪人〟だと思っておいた方がいい。なぜなら、基本的にアクティビストとの対話は成り立たないからです。

 だからこそ、アクティビストが主張するような自社の問題点を先に改善しておくことが、最善の防衛策になります。

 アクティビストを寄せ付けないためには、バランスシートをきれいにすることです。現金や不動産が過度に多い企業は必ずねらわれます。

 事業ポートフォリオの見直しも重要です。儲からない事業は売却するか撤退し、収益性の高い事業に集中することです。

 企業がアクティビストの提案を受けてしまうのは「株価が割安だから」です。企業がやるべき改善策をやって、株価を上げるようにしておけばよいのです。

 アクティビストの本質的な目的はカネです。アクティビストファンドは高いリターンを約束して資金を集めている以上、結果を出さなければ顧客を失います。だからこそ、アクティビストは徹底的に企業価値を引き上げる方向に圧力をかけます。

 アクティビストには、その企業の経営を改善する能力はなくても、財務を改善し資本コストを下げることには長けています。アクティビストの提案を受け入れた結果、利益は変わらなくてもROE(自己資本利益率)が上がり、結果として株価が上がるケースは多いのです。

 アクティビストは企業にとって不快な存在かもしれません。しかし見方を変えれば企業に緊張感を与え、変革を促す存在でもあります。ターゲット企業だけでなく、自分たちはねらわれたくないと考える他の企業にも波及効果があります。

 アクティビストをのみ込む姿勢、つまりアクティビストの提案を受ける前に、自社の問題点を改善していく姿勢こそが、彼らを寄せ付けない、本当に価値ある企業になる一歩だと考えています。(談)