“村上グループ”をはじめ日本の企業を標的に猛威を振るうアクティビストに歯止めをかけようと政治も動き出した。アクティビストの手法に一定の理解を示しながらも、ループホール(抜け穴)を目ざとく見つけるアクティビストに対峙しようという与党議員の動き。対するアクティビストたちはどう迎え撃つのか。文=ジャーナリスト/大鹿靖明(雑誌『経済界』2026年8月号より)
「アクティビスト大国」の日本 “村上グループ”企業へ猛攻
「モノ言う株主」(アクティビスト)が猛威を振るっている。
フジ・メディア・ホールディングスは2月、2350億円を投じて発行済み株式数の3割も買い取る自社株買いを行った。18%弱を買い占めた村上世彰氏と野村絢氏の父娘をはじめ、7%余を持つ米ダルトン・インベストメンツなどアクティビストの株を買い取り、フジから出て行ってほしいがためである。東京・渋谷に自社ビルを構えていた養命酒製造は、村上氏のグループに株を買い占められ、事実上、解体された。KADOKAWAの13%余を買い集めて筆頭株主に躍り出たオアシスは、夏野剛社長兼CEOの解任を求めている――。
持ち合い株の解消に加え、円安が進み、海外のアクティビストがこぞって日本に乗り込んでいる。ブルームバーグによると、アクティビストが2025年、株を買い付けるなど行動を起こした件数は、米国の367件に続いて日本は176件の2位だった。3位の英国、豪州の各41件を大きく引き離す。日本は米国に次ぐ「アクティビスト天国」なのである。
とりわけ警戒しなければならないのが村上グループだ。フジの大盤振る舞いによって村上グループは1200億円もの資金を得たばかり。早速、電通株を1・82%持つ第10位の大株主になったのをはじめ、不正会計問題で揺れるエア・ウォーターを6・88%取得している。最近は、新聞や雑誌の凋落が著しいことから「紙」をターゲットにしている。レンゴー6・04%、日本製紙5・11%、KPPホールディングス5・04%など製紙業界の株を相次いで買い始めているのだ。ほかにも京浜急行8・12%、ディーエヌエー6・23%、新光商事11・9%、大豊建設8・65%などを保有する。
シンガポールの政府系ファンドGIC傘下の投資事業組合が友好的TOBをかけていたサンケイリアルエステート投資法人に対しては、村上氏側が26%余も買い占め、前代未聞の不成立に終わらせている。
サンケイリアルエステートのように、いまやアクティビストが20%近く買い集めることは珍しくない。エフィッシモが川崎汽船やライフネット生命保険に、オアシスがフジテックになどと、この2年間にアクティビストが20%以上の大量取得をしたケースは38件にもなる。
大量に買い占めたうえで、自社株買いやマネジメント・バイアウトをするよう誘導するのが常套手段だ。襲われた企業側は渋々従い、ついには貯め込んだ内部留保を吐き出す。フジをはじめ、この数年間、頻繁に繰り広げられてきた光景である。
「株主還元」と「実質株主」でアクティビスト規制へ
25年10月に自民党の経済産業部会長に就任した小林史明衆議院議員は、日本経済の問題点として日本企業の成長投資が弱いことがあると感じていた。小林氏は言う。
「企業側が新たなモノをつくり、新しいサービスを生み出す力が弱くなっているんです。エネルギーは海外に依存し、デジタル分野は赤字続き。大量の富が流出し、日本経済全体の外貨を稼ぐ力が衰えています」
大手企業には現預金が114兆円もあるものの、売上高に対する設備投資や研究開発投資はこの10年余り、ほぼ横ばいで増えていない。その背景にあるのが急増する株主還元だった。配当は13年の8兆円が24年には25兆円に、自社株買いも同じ期間に3兆円から17兆円に増えている。合計11兆円だった株主還元が10年後には42兆円にもなっているのだ。
「ですから、アクティビストから短期的な株主還元を求められ、それもあって成長投資が弱くなりがちな現状を変えていく必要があるのではないか、と考えたのです」と小林氏は言う。
自民党の塩崎彰久衆議院議員も「アクティビストが活動できる条件が海外と日本とで違い、イコールフッティングになっていない」と指摘する。塩崎氏は長島・大野・常松法律事務所の弁護士を務め、企業法務に明るい。自民党でも司法制度調査会の事務局長や事務局次長を歴任し、法律に精通した議員の一人として知られる。
ファンドによって株を買い占められても、いまのルールではファンドに資金提供をして実質的に支配しているのが、誰なのかは明らかにされない。しかし、そんなのは日本ぐらいだという。
「海外では登録して開示する仕組みがあり、違反者には罰則もあります。そういう制度を日本も採り入れる必要があります」(塩崎氏)
G7の中で日本だけが実質支配者を開示する仕組みがない。米国では21年に企業透明化法が成立し、報告義務を負う法人は“実質的な支配者”を開示しなければならなくなった。
さらにアクティビストが定款変更の議案の形態をとって、経営判断に介入してくる点も問題視する。25年6月の株主総会シーズン中になされた株主提案(389議案)のうち、実に62%が定款変更議案だった。
「でもそれは、経営を任せられた取締役会の権限の範囲内ではないですかね。海外では、業務に関する事項は株主提案権の対象外と整理されています」と塩崎氏。
かくして、いま自民党内で会社法を改正して規制を強化しようという機運が高まっている。対象にあがっているのは、以下の項目だ。
- 実質支配者の登録・開示(違反者には罰則)
- 株主提案権の行使権を現状の「議決権300個以上」の要件を撤廃し、要件を引き上げる
- 取締役会の権限に属することを定款変更の形で株主総会に議案として提案できないようにする
- 臨時株主総会の招集請求権を現状の「3%以上」から欧州並みの「5%以上」に引き上げる
- 5営業日以内に提出しなければならない大量保有報告書の変更届を海外並みに短縮化する(米英は2日以内、仏独は4日以内)
加えて経産省は、株主が株主総会で承認を受けたうえで、企業の業務内容や財産を調べることができる「調査者」制度の見直しも訴える。日本企業が持つノウハウや機微な技術情報が一部株主によって取得される危険性がつきまとう。企業の競争力の源泉を損ない、経済安保上の懸念も生じかねない。「そういうリスクがあるので廃止も含めて検討すべし、と考えています」。そう同省の担当課長は解説する。
自民党も経産省もアクティビストを一概に“悪者”と決めつけていない。むしろ、「この10年間に日本の企業価値が向上した背景には、彼らの貢献もあった」(小林氏)、「アクティビストはガバナンス改革の触媒でもある」(塩崎氏)と、その効用を認める。株の持ち合いによる馴れ合い経営が続き、粉飾決算やさまざまな不正行為が隠蔽され、自己改善できなかったのが1990年代以降の企業経営だったからだ。山一證券しかり、カネボウしかり、オリンパスしかりである。
そうした一定の効用を認めたうえでも、わが国のアクティビスト規制は、取り組みが遅れてきたと言わざるを得ない。そこに旨味を感じてオアシスやダルトンなどアクティビストが日本列島に群がっているのだ。
自民党が欧米と同等の規制にしようとしているということは、裏を返せば、日本は欧米と比べて劣後するということである。フジの経営陣の一人は「現行のルールはあまりにもアクティビストを利する。私たちの採り得る選択肢は非常に限られている。そこを総務省や金融庁、東証、あるいは自民党は考えてほしい」とこぼしている。
日本が出遅れた理由には、会社法を所管しているのが、法務省ということがある。会社法について取材にいくと、法務省の担当官が検事や裁判官の出向者だったりして少なからず驚かされる。これではリアルなビジネスは分からないし、現状にあわせて迅速に制度改正をしようという動機づけが働かないだろう。再審制度を巡る議論のように検察の既得権益維持には必死になるが、企業社会で何が起きているのか自ら情報収集して政策に結び付けようというマインドはなさそうだ。
監視体制の脆弱さが課題 試される経営者の胆力
もう一つの問題点は、米国と比較して証券等監視委員会が力不足な点がある。監視委は2016~18年にかけて東芝の粉飾決算を疑い、さんざん関係者に事情聴取をしたものの、結局、刑事告発には至らなかった。06年にインサイダー取引疑惑で逮捕され、有罪判決を受けた村上氏に対して15年に再度、家宅捜索に乗り出したものの、何も立件できずに終わってしまった。
これでは相手に舐められるし、監視委も失敗を恐れて証拠が“固い”事案しか手を伸ばさなくなる。アクティビストの中には、脅迫のような言動を吐いて経営者を脅す者や風説の流布、相場操縦まがいの振る舞いが疑われる者もいるのに、それに対して摘発し、秩序を維持しようという公的な力が弱いのだ。
加えて経営者の胆力も欠かせない。目先のうるさいアクティビストに出て行ってもらいたい一心で、先方の要求を呑んではいけない。フジは2350億円の自社株買いに加え、1株当たり50円だった配当を4倍の200円に引き上げる。さらに放送という本業が不振なのにもかかわらず業績を下支えしてくれているサンケイビルなど不動産事業を切り離し、売却するという。これでは村上氏の高笑いが聞こえてきそうである。
現在、自民党が検討中のアクティビスト規制では、村上氏対策に効果があるかというと、そうでもなさそうだ。略奪型ともいえる企業価値を棄損するようなやり口に対しては、欧米と同等の規制にするだけでは抑止力たりえない。
あらかじめ買収防衛策を導入するとともに、グリーンメーラーのような買収者に対しては堂々と防衛策を発動し、違反行為があれば法的な措置を講じるべきである。