自動車の足回りを支える懸架ばねから半導体製造装置用部品まで、いまや世界各国のメーカーから厚い信頼が寄せられているニッパツ(日本発条)。創業以来受け継がれてきた“ものづくりの精神”を誰よりも深く理解し、現場で学んだ哲学を経営に昇華させ続けている上村和久社長にものづくりの原点、経営戦略について聞いた。聞き手=羽富宏文 Photo=横溝 敦(雑誌『経済界』2026年8月号より)

上村和久 ニッパツのプロフィール

上村和久・日本発条
ニッパツ社長 COO 上村和久
うえむら・かずひさ 1960年京都府生まれ。神戸大学経済学部卒業後、83年ニッパツ入社。名古屋支店長、営業本部長、常務執行役員、専務執行役員として事業戦略と組織運営を牽引。2024年4月に社長執行役員COOに就任。

自動車メーカーと二人三脚 見えないところで支える誇り

―― 売り上げの7割を占める自動車部品事業の現状について教えてください。

上村 ニッパツは〝ばね〟から始まった会社です。自動車の足回りを支える「懸架ばね」という製品の製造からスタートし、自動車メーカーと一緒に製品を開発するなどして成長してきました。

 自動車の構造は100年で大きく変わりましたが、車を支えるばね、そして人が座るシートはEV(電気自動車)でも、ハイブリッドでも、必要であることは変わりません。われわれはこの領域をこれからも基幹事業として大切にし、技術を磨き続けていきます。

 自動車メーカーと一緒に開発を進める中でわれわれは〝車づくりの哲学〟を学ばせていただきました。車の安全性、耐久性、快適性。その全てが部品一つ一つの積み重ねで成り立っています。だからこそ、われわれは〝見えないところで車を支える〟という誇りを持って事業を続けています。

―― 自動車の電動化が進む中で自動車事業の戦略に変化はありますか。

上村 自動車の電動化が進むと、エンジンやトランスミッション周りの部品としてのばねは減っていきます。しかし、シートや足回りのばねは必ず残ります。車がある限り、これらはなくなりません。一方で、われわれは電動化に対応した新しい製品の開発も進めています。EVはバッテリーを多く搭載するため車両が重くなり、さらにモーター駆動によって静かになるため、これまで以上に乗り心地や音の感じ方が重視されます。ばねにも、振動の質、音の出方、耐久性など、より高い性能が求められています。

 例えば車両が重くなれば、それだけばねにかかる負荷も大きくなります。こうした変化に対応するため、われわれは新しい素材の開発や形状の工夫、製造方法の進化などを通じて、より良い製品を提案し続けています。自動車事業では日々技術の進化が求められるからこそ、われわれの存在価値は高まっていると感じています。

―― ハードディスクドライブ(HDD)用サスペンションや半導体製造装置用部品など非自動車事業が利益の5割を占めるまでに成長しています。現状と戦略について教えてください。

上村 HDD用サスペンションや半導体製造装置用部品など、自動車事業以外の領域で着実に成果を上げています。もっとも、自動車事業がベースにあるのは変わりませんが、企業としてさらに成長していくためには〝プラスアルファ〟が必要です。HDDの内部にあり、まさに中核の部品であるHDD用サスペンションは、当社の技術が結実した製品のひとつです。

 軽くて強くて、精密で、壊れない。まさに自動車のばねづくりから発展して生まれました。HDDの中で、わずか数ミクロンの精度で動く製品をつくる。これは、われわれが長年培ってきた金属加工技術があってこそ実現できるものです。

 半導体製造装置向けのヒーターや冷却板も、当社の金属接合技術が生きています。特に最先端半導体の品質には緻密な温度制御が求められます。自動車の電動化に伴い需要の高まる高放熱の金属基板、半導体テスト用のプローブピン(半導体チップに電気信号を流すための微細な金属ピン)など、われわれの技術は、自動車分野だけでなく、幅広い分野で生かされ、社会に貢献しています。

―― AIの爆発的な普及に伴うデータセンター需要の拡大でHDD市場が伸び続けていますが、どう対応していますか。

上村 われわれは〝技術ファースト〟でやってきました。お客さまの困りごとを解決し、価値を認めていただく。競争力の源泉は、他社に負けないものづくり、品質、供給キャパシティ、そしてお客さまとの信頼関係です。最近、社内でもよく言っているのが〝ニッパツに頼んでよかった、安心だ〟と思っていただける存在になろうということです。この安心感は、技術と品質と誠実さの積み重ねでしか生まれないものだと考えてきました。

壊れない品質を求め続ける ニッパツ流〝ものづくり哲学〟

―― ご自身の〝ものづくりの原点〟はどこにあるのでしょうか。

上村 ものづくりの現場で言うと、加工前の素材や材料がしっかりとした製品に生まれ変わる。それを現場で目の当たりにし続けて「ものづくりっていいな。ニッパツに入って良かったな」と心底思っています。

 ニッパツの部品は、絶対に壊れてはいけないものです。交換需要はほぼないだけに、ものすごいプレッシャーもありますが、そうした環境下でどうしたら壊れないかを徹底的に突き詰めてきたのが「ニッパツの歴史」です。いかにお客さまの要求をしっかり受け止めてご満足していただけるか。さまざまな角度で研究していくことで自動車だけではなく、さまざまな分野に事業を広げることができていると考えています。

 われわれが扱うばねは普段、目に見えないところで使われます。だからこそ、壊れない品質を維持し続けなければいけない。そこに〝ものづくりの本質〟があると思っています。ものづくりは信頼の積み重ねです。品質も、納期も、技術も全て〝信頼〟の上に成り立っています。ですから従業員にも機会があるごとに〝信頼を得られるようになるためにはまず自分に正直であれ〟と伝えるようにしています。自分と向き合い、常に自分に誇りを持って行動しなければ人からも信頼されません。

―― EVの伸び悩み、地政学リスクなど事業環境は不確実性が高まっている中でどのように経営を舵取りされますか。

上村 自動車事業の売り上げが7割、非自動車事業が3割。この比率が当社にとってはリスクヘッジになっています。どちらかが落ちても、もう一方が支える構造です。半導体市場は波が大きいですが、増加の局面に備えた供給体制を整えています。また、同じ製品を複数拠点で生産できる体制も整えており、横浜の本社工場が止まっても、滋賀、九州、東北でカバーできますし、BCP(事業継続計画)はしっかりと築くことができています。

世界を動かす〝キーパーツ〟へ 攻めの企業理念のねらいは

―― 前年度も売り上げを伸ばし、今年度には過去最高益を更新するという目標を掲げられていますが好調の背景はどこにあるとみていますか。

上村 車以外の領域を積極的に広げていること、そして地道に競争力を磨き着実に競争力が上がってきていることが大きいです。ベースにあるのは、複数の事業が互いに補完しながら成長していく構造です。ばねなど普段は目に触れない製品もあれば、シートやゴルフシャフトのように目にする製品もあります。こうした幅広い事業の組み合わせが、当社の強みです。これは創業から87年にわたり培ってきたものであり、ニッパツならではの強みだと考えています。

―― 企業理念「キーパーツで世界を動かす」にはどのような思いが込められていますか。

上村 キーパーツという言葉はわれわれにとって大切な言葉で、なくてはならないものという意味合いから盛り込みました。部品メーカーとして〝世界を動かす存在へ〟というメッセージが込められています。社員一人一人が〝キー〟であり、〝キーパーツ〟もなくてはならない存在です。企業理念の最終選考段階で「キーパーツで世界を支える」と「キーパーツで世界を動かす」が拮抗しましたが、これからの時代、やっぱり単なる部品メーカーではなく世の中になくてはならない製品を納入して、製品で世の中に貢献していくということを考えると、ただ支えるだけでなく、能動的に〝動かす〟存在になろうということでこのワードを選びました。

 「主体的にみんなで前を向いて、みんなで集まってものづくりをやっていこうよ、そうやって世界を幸せにしたいよね」というメッセージが込められています。

―― 今後、ニッパツをどのような企業にしていこうと考えていますか。

上村 常に成長し続ける会社でありたい。世の中から認められる会社であり続けたいです。そのためには〝人〟が一番大切です。従業員がやりがいを持ち、この会社で頑張りたいと思える環境をつくり続けたい。

 ニッパツは普段は目に見えないところでユーザーを支えています。だからこそ高い品質を全社一丸となって突き詰めお客さまの信頼を得てきました。これからも、キーパーツで世界を動かす会社であり続けたいです。

HDD内部の中核となるサスペンション
HDD内部の中核となるサスペンション
ニッパツが世界的シェア誇る懸架バネ
ニッパツが世界的シェア誇る懸架バネ