かつて自動車とともに日本産業の柱だった家電が瀕死状態にあるのは周知のとおり。著名ブランドが中国など海外企業に買われることも日常になった。その一方で、ノジマやジャパネットなど国内小売業が家電メーカーに手を伸ばしている。その狙いはどこにあるのか。文=下田健司(雑誌『経済界』2026年9月号より)

M&Aで成長続ける ノジマの最大の強み

 家電小売業が川上に進出する動きが始まった。2026年4月、関東で店舗を展開する家電量販店大手のノジマが日立製作所の家電事業を買収すると発表した。6月には、通販大手のジャパネットホールディングス(HD)が、家電メーカーのツインバードをTOBにより完全子会社化を目指す方針を発表した。小売業界では川上に進出する際に資本参加する例は少ない。家電量販店ではプライベートブランド(PB)開発が活発だが、なぜ資本関係を結んでまで商品開発力を強化しようとしているのか。

 日立の家電事業は、日立グローバルライフソリューションズ(日立GLS)が手掛けている。家電と空調が主力事業で、冷蔵庫・洗濯機・掃除機・調理家電、住宅用・店舗用・ビル用空調機器などの製品を開発・販売する。26年3月期の売上高は3608億円で、このうち大半を占めるのが家電事業だ。

 買収のスキームは、日立GLSが100%出資の新会社を設立し家電事業を継承。ノジマは完全子会社の特別目的会社を通じてその新会社の株式80・1%を1100億円で取得する。新会社の株式19・9%は日立GLSが保有する。27年3月期中に新会社を設立し、ノジマに株式を譲渡する予定だ。

 ノジマは日立の海外家電事業も取り込む。日立ブランドの海外家電事業を手掛けるアルチェリク日立ホームアプライアンス(AHHA)について、トルコ最大の家電メーカー、アルチェリクの保有する株式60%、日立GLSが持つ株式40%を新会社が取り込み、完全子会社化する。これによりノジマは日立の海外事業も手掛けることになる。

 ノジマは日立の家電事業買収により、ノジマの持つ顧客接点や市場ニーズの抽出と、日立のものづくり技術を融合させ、現場で得られる顧客の声を製品開発からアフターサービスまで循環させ、日立ブランドの家電製品を販売する。また、海外市場を担うAHHAの取り込みで、国内外の運営一本化によって機動的な成長戦略を加速させるという。

 日立の家電事業は長らく懸案となっていた。インフラ事業やデジタル事業への経営資源の集中を進めてきた日立としては、売上構成比で数%にとどまっている家電事業の切り離しで経営効率化を図る狙いだ。

 ノジマは家電量販店業界の中で独自路線を歩んできた。

 ノジマは1959年に神奈川県相模原市で電化製品の販売を目的に開業した野島電気工業社に始まる。62年に野島電気商会となり、82年の株式会社化を経て、91年にノジマに社名変更した。

 売上高が成長を続け、この10年余りで4倍になり、26年3月期の売上高は9828億円となった。家電量販店業界で首位のヤマダHDに次ぐ規模だ。

 売り上げは1兆円規模に達するまでに成長した要因は積極的なM&Aだ。15年に携帯代理店のアイ・ティー・エックスを買収。これにより、16年3月期の売上高は、前の期の約2440億円から約4500億円に増えた。その後も、17年にインターネットサービスプロバイダーのニフティ、23年に携帯代理店のコネクシオ、24年にアニメチャンネル運営のアニマックス、25年にパソコン製造のVAIO、マーケティングのストリートホールディングスなどM&Aを重ねてきた。

 現在、ノジマが手掛ける事業は、キャリアショップ運営、デジタル家電専門店運営、インターネット、プロダクト、メディア、海外などだ。

 事業別売上高を見ると、キャリアショップ3970億円、デジタル家電専門店3398億円、インターネット728億円、プロダクト669億円、メディア249億円、海外866億円。売り上げはキャリアショップが最も高く、全売り上げの約40%を占める。デジタル家電専門店は約35%にとどまる。

 ノジマ最大の強みは、家電量販店で一般的なメーカーや通信キャリアからの派遣販売員を店舗に置かず、自社の従業員のみで接客を行うコンサルティングセールスだ。これによって、特定メーカーに偏らない顧客に合った商品の提案ができ、顧客満足度向上や信頼関係の構築につなげている。買収後、この強みを生かすことで、顧客の声を製品開発力の強化に結びつける考えだ。

ジャパネットのTOB提案にツインバードはどう応える?

 一方、ツインバードにTOBを実施し、完全子会社化を目指す方針を発表したジャパネットHD。TOBは、ツインバード取締役会の賛同を得た場合にのみ、26年10月下旬をめどに1株当たり800円で実施する。賛同を得られなかった場合、あるいは何らの意見表明も行わずに26年10月30日が過ぎた場合には提案を取り下げ、TOBは実施しないとしている。全株取得すれば買収金額は約87億円となる。

 ジャパネットHDによると、両社が接点を持ったのは26年2月。製品の仕入れ先であるツインバードに対して完全子会社化に係る可能性を探りたい旨の申し入れを行い、協業に係る可能性について協議した。その結果、2月19日に資本業務提携から始めたいという提案をツインバードから受けた。しかし3月2日、ツインバードは資本構成の変更を前提とする提案には応じられないと態度を変えた。ジャパネットHDは再協議を打診したが、その機会は得られなかった。このような経緯を踏まえ、ジャパネットHDはツインバードの完全子会社化によるシナジーを早期に実現するという当初の方針に立ち戻ったという。

 ジャパネットHDは通販事業を中核にスポーツ、地域創生など事業領域を拡大してきている。

 「自前主義」を掲げ、商品企画から販売、物流、アフターサービスまで自社で一貫して担う体制づくりに取り組んでいる。

 売上高は、15年12月期に1500億円規模だったが、25年12月期には2908億円となり、10年でほぼ2倍の規模に拡大した。

 ノジマと同様に、成長の背景には積極的なM&Aがある。非上場企業ならではの機動力を生かし、中長期的な視点でシステム改修や設備投資を行ってきた。M&Aによりグループ入りした主な事例は以下の通りだ。

 長崎県をホームタウンとするプロサッカークラブを運営するV・ファーレン長崎(17年)、富士山の天然水の製造、およびウォーターサーバー等の販売・レンタルサービスを提供するコウノウォーター(18年/現・ジャパネットウォーター)、BS放送やインターネット配信で映画・ドラマを提供するスター・チャンネル(24年)、温泉・旅館に特化した宿泊予約サービスの運営および旅行事業を手掛けるゆこゆこ(24年)、長崎県での名門ゴルフ場・リゾートホテル施設運営のパサージュ琴海(26年3月)などだ。

 ジャパネットHDのPB開発は現在、外部委託が中心だ。しかし、顧客ニーズに応える製品を販売するためには外部委託の枠組みでは限界があったという。そこで目指しているのが、製品の企画・設計から製造、販売まで一気通貫で行う「製販垂直統合モデル」の確立だ。買収が実現すれば、顧客データとツインバードの製品開発基盤を掛け合わせたPBの販売拡大が可能となる。

 ツインバードは調理家電・冷蔵庫・洗濯機などの家電製品の開発・製造を手掛ける。51年にものづくりの町として知られる新潟県燕三条地域でメッキ加工を主体とする野水電化被膜工業所として創業され、62年に野水電化が設立された。71年に自社製品・ギフト商品の開発に乗り出し、84年に家電製品製造に着手した。

 近年の業績は振るわず、26年2月期は、売上高89億円、最終損益12億円の赤字(前の期は1億円の赤字)と2期連続で赤字だった。主力は家電製品事業で、売り上げ86億円と全売り上げのほとんどを占める。

 ジャパネットHDが見込むシナジーは、チャネルミックスによる製品の販売拡大、製造移管による工場稼働率向上、ブランド力向上、商品開発力の強化などだ。

 国内家電業界は長期的な衰退傾向にある。11年三洋電機の白物家電事業が中国の家電大手ハイアールに売却。シャープは16年台湾の鴻海精密工業の傘下に入った。東芝は16年白物家電事業を担っていた子会社の東芝ライフスタイルの株式80・1%を中国家電大手の美的集団に譲渡した。

 家電業界では白物家電を中心にコモディティ化が進む。家電メーカーを取り巻く環境は厳しい。

 一方、家電量販店業界では、最大手のヤマダHDとエディオンが経営統合を予定するなど大型再編が進む。業界ではPB開発・販売が活発化。小売業者が企画・製造・販売までを一貫して行うSPA(製造小売)も拡大している。

 売り上げ規模の拡大を背景にした川上への進出は、家電量販店業界の構造変革が始まったことを表している。

家電売り場から日の丸家電は消える一方だ
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