日本人の寿命は世界トップクラス。しかし今の課題は平均寿命ではなく健康寿命。そのギャップを埋めるべく2年前に誕生したのが不老不死研究所。社長を務める林浩二氏は、エイチ・アイ・エス(HIS)創業者、澤田秀雄氏の秘書を現在も務める最側近。澤田氏自身も不老不死研究所の取締役を務める。なぜこの不老不死をビジネスにしようと考えたのか。2人の関係性も含め語ってもらった。構成=関 慎夫 Photo=横溝 敦(雑誌『経済界』2026年9月号より)
澤田秀雄 エイチ・アイ・エスのプロフィール
さわだ・ひでお 大学時代に海外50カ国以上を訪問。帰国後の1980年、インターナショナルツアーズ(現エイチ・アイ・エス)を設立、社長に就任。2016年に会長兼社長。22年に会長、23年に会長を退き、24年に取締役退任、26年取締役に復帰。現在の肩書は取締役最高顧問。22年から東京交響楽団会長を務める。75歳。
林 浩二 不老不死研究所のプロフィール
はやし・こうじ 2004年エイチ・アイ・エス入社。香港、スペインなどの海外駐在を経て、19年より本社秘書室長として創業者・澤田秀雄氏の最側近を務める。経営者を支える中で健康寿命の延伸の重要性を痛感し、24年11月に不老不死研究所を設立。公益財団法人SAWADA FOUNDATION理事。 44歳。
創業の出発点は澤田氏の発言から
―― HISが社内ベンチャーとして不老不死研究所をつくったと聞きました。林さんが社長で澤田さんは取締役を務めています。旅行代理店がなぜ不老不死に取り組むのですか。
林 最初にお断りしておきますが、不老不死研究所は厳密には社内ベンチャーではありません。HISの資本は一切入っていなくて、会長(澤田氏)がある程度の資金を出し、僕も一部出資して設立しました。社名の候補はいくつかありましたが、最後は会長が決めました。
澤田 彼(林氏)はずっと僕の秘書をやっていたのだけれど、暇そうにしていたから(笑)、『僕の寿命を1年でも2年でも伸ばせる研究をしてよ』と言ったら不老不死をやりたいと。
林 もともと会長が2022年に出演したテレビ東京の『ガイアの夜明け「あの主人公はいま…」』で、不老不死や健康寿命に興味を持っているとおっしゃっていたので。
澤田 なんでそんなことを言ったのかな。思いつきじゃないの。
林 僕の受け止めは少し違いました。会長を含め、経営者の方々がよく口にするのが「やっぱり健康が第一」。さらに言えば「棺おけにお金は持っていけない」とも。やっぱり誰しも元気に活躍したいと思っているし、これは政府の課題でもある健康寿命を延ばすことにもつながります。
―― 澤田さんはHISを皮切りに、航空会社、鉄道会社、金融機関やテーマパークなど、多種多様なビジネスを手掛けてきましたが、健康を扱うビジネスを行ったことはあるんですか。
澤田 初めてですね。それにこの会社にしても僕がやれと言ったわけではありません。
林 僕が自分からやりたいと言いました。なぜかというともうひとつ理由があります。会長は23年にHIS会長を退き、24年には取締役も降りられました(今年取締役に復帰)。コロナ禍が一段落して、後進に道を譲ろうということで、それからは、モンゴルの鉱山や映画製作など会社経営ではなく、個人ビジネスを中心に活動されておりましたが、それでもやはり第一線を退いたあとは、失礼な言い方になりますが、そばで拝見していて体調面で少し気になるところが出てきているのかな? と感じていました。
僕は今44歳で、それほど健康には気をつけてきませんでしたが、それでも最近は人と話していてもそういう話題になることも増え、あるいは先ほど言ったように健康寿命と平均寿命の差を埋めたいという思いもあります。でもそれ以上に、会長にかつての圧倒的なアクティブさを取り戻してほしい、いつまでも頑張ってもらうにはどうすればいいのか。それが一番のポイントでした。
だから、エイジングケア成分の「NAD+」の材料となるNMN(ニコチンアミドモノヌクレオチド)と、細胞の発電を支える「還元型コエンザイムQ10」を組み合わせたサプリを開発したんです。
澤田 それで僕を実験台にしたんだ。毎朝会社に行くと、このサプリを2錠飲まされる。去年の9月頃から飲んでいるけれど、本当に効果があるのかは自分ではよく分からない(笑)。
林 仕事の報告をしていても、確実に以前のような鋭さが戻っていると感じます。それに面会でいらしたお客さまも「お肌のつやが良くなりましたね」や「以前よりお若くなりましたね」とおっしゃっているじゃないですか。
澤田 本当かな。
林 僕自身も飲んでいますが、このサプリの効果に満足しております。
澤田 でも不老不死でなぜサプリなの?
林 会長は常日頃から「ビジネスはスピードだ」とおっしゃっているじゃないですか。健康寿命を延ばす方法は他にもあるとは思います。でも少しでも早く会長を元気にしたいと考えると、手間なくシンプルに体感していただけるのはハイクオリティのサプリではないかと考えました。
そこで世の中のサプリをいろいろ調べた中で最も評価の高いのが「次世代のエイジングケア成分」と言われるNMNでした。でも一般的なNMNサプリでは差別化できない。そこで、国内唯一の精製技術による高密度なNMNと、カネカ製の「還元型コエンザイムQ10」を組み合わせました。これまでにない独自の「両軸設計」での組み合わせです。
澤田 僕は以前にNMNを飲んでいたことはあるけれど、この組み合わせはユニークかも。面白いビジネスに育つ可能性はある。でもこれからだね。ビジネスは売ってなんぼ、だから。
1カ月で3万9千円 HISとは真逆の価格設定
―― 澤田さんはこれまでいくつもの会社を立ち上げてきました。経験上、起業家として最も必要なものは何ですか。
澤田 やっぱりチャレンジ精神ですよ。どんどん新しいことにチャレンジしていく。
―― その視点から林さんを見ての評価は。
澤田 ボチボチですね。
林 ボチボチですか。厳しいな(笑)。でも会長がおっしゃるように、とにかく売ってなんぼですからね。だけど安売りはしません。1カ月分3万9千円と結構な値段のサプリですが、だからこそブランド価値を高めていくことが大事だと考えています。最近の世の中のトレンドは、本当にいいものにはお金を出す人が増えていますし。
澤田 僕がHISを創業したのは、できるだけ安い価格で海外を体験してほしいからだった。スカイマークも、航空料金を引き下げたい一心だった。このサプリはそれとは真逆の方針ということになる。
林 確かにHISは1円でも安い価格を実現してきた歴史です。でも会長はハウステンボスの経営を引き受けた時、入場料金、ホテル料金を値下げしないで、逆に少しずつ上げていったじゃないですか。多少価格が高くても費用対効果に納得できれば、お客さまはお金を出してくれることを学ばせてもらいました。
―― 価格設定以外に林さんが澤田さんから学んだことは何ですか。
林 僕が秘書になったのが19年ですから今年で丸7年です。間近で見ていて本当にすごいと思うのが、ネガティブな部分が一切ないんですよ。「明るく元気に」を率先垂範されています。コロナ禍の時は完全に人の流れが止まりました。旅行業にとっては大打撃です。少しぐらいネガティブになるものです。でもそんな素振りを一切見せませんでした。
澤田 別に意識してやっていることではないよ。いつでも前向きに考えるのは生まれもっての性格としかいいようがない。HISを立ち上げた時だって、最初はほとんどお客さまが来ない。でも全然悲観したりはしなかった。
林 僕もそうなりたいと思っています。僕はネガティブに物事を考えがちなところがあります。ところが会長のそばにいる間に少しずつ変わってきたのかもしれません。だから今はこのサプリにしても売れる気しかしない。これが少し前だったら、「売れなかったらどうしよう」と考えていたと思います。そのままだったら一歩踏み出すことができなかったでしょう。でも今は絶対売れると信じて疑いません。
報・連・相を怠った時に滅茶苦茶怒られた
―― ところで澤田さんが林さんを怒ることはあるんですか。
澤田 そんなことはないですね。
林 秘書になりたてのころは滅茶苦茶怒って、「バカヤロー」と怒鳴りまくっていたじゃないですか (笑)。
澤田 昔はね。昔は若くてパワーがあったので怒れたけれど、最近はパワーがなくなっている。だからあまり怒らない。君にとってはいい感じだろう。
林 このサプリを飲んでパワーを回復したら、また怒られますね(笑)。
澤田 怒るのは、間違えていることに本人が気付かない時だね。
林 ある案件で、会長ならこうするだろうなと思い一歩先を読み、相談もしないで勝手に進めたことがありました。その時は「誰が決めたんだ。なんで勝手に進めるんだ」とこっぴどく怒られました。僕なりにチャレンジだと思ったのですが、やはり報告、連絡、相談をこまめに取るべきだったと反省しました。
澤田 僕はチャレンジに対して怒ることはないよ。その時は、君はチャレンジと考えているかもしれないが、僕的にはちょっと違うかなと思ったんだろうね。僕の中には僕なりの正しい基準があって、それからはずれた時は、やっぱり怒ってしまう。
林 昔は月曜日になると必ず怒っていましたね。週末に英気を養って、月曜日は元気に出社する。そこでバーンと怒る。本人は元気だけれどスタッフはビクビクしていました。さすがに今はなくなりましたけど。
澤田 昔はみんな僕の前ではビシッとしていた(笑)。
澤田氏を“モルモット”に 目指す3年後の上場
―― 話を不老不死研究所に戻しますが、今後、どのように成長させていきますか。
林 夢はいくらでもあります。海外にも展開したいし、上場もしたい。時価総額は1千億円を目指します。
澤田 さっき、ボチボチと言ったけれど(笑)、まあまあ頑張っている。僕はそばで見ていて、気が付いたことがあったら言おうと思っている。上場は3年後だったね。
林 その目標に向けて着実に1歩ずつ頑張ります。会長だけでなく、戦後の日本経済を引っ張ってこられた方々が70代に入ってきています。その方たちに、是非とも飲んでいただいて、われわれのような下の世代を教えるのではなく、競争するような元気を持ってほしいと思っています。
サプリ業界はレッドオーシャンです。でも品質には絶対の自信があります。個人の栄養状態を可視化するビジネスを展開しているユーリアとも業務提携し、実際に他のサプリよりいい結果が出たので自信を深めています。
澤田 是非、成功してほしい。これは君の問題だけでなく、HISグループ全体にとっても意味がある。この会社がうまくいけば、今度は次の人が、自分はこれをやりたいと手を挙げる。チャレンジ精神はHISのDNAであり、それがあるからHISはさらに成長できる。僕はその環境を整えていく。
林 今は1種類のサプリだけですが、今後はサプリのラインアップを増やしていこうと思っています。さらにはサプリだけでなく、さまざまな健康事業に拡大していきたいですね。例えばAIを活用して身に付けるだけで健康状態の分かるデバイスなども提供していこうと考えています。その時は会長、是非ご協力を。
澤田 僕は名前を変えなければならないな。これからはモルモット澤田だ(笑)。 事業を成功させるのに必要なのは、絶対やり遂げるという気持ちと成功するまでやめないという継続力。この2つがあれば必ず成功する。林社長、頑張って。
林 ありがとうございます。肝に銘じます。