不妊治療分野における卵子・胚の凍結融解技術で世界標準を確立したリプロライフ。澁井史昭社長は、組織をシンプルにし、経営層以外の社員には、マネジメント業務や人事評価業務をあえて手放し、社員が目の前の仕事に集中できる環境を築いてきた。主体性のある人材を育成し、組織を強くするのが目的だ。(雑誌『経済界』2026年10月号より)
澁井史昭 リプロライフのプロフィール
しぶい ふみあき
楽しんで働くことがやりがいの原点
今年、MVVS(ミッション、ビジョン、バリュー、スピリット)を新たに策定したリプロライフ。社員が策定した中で、澁井社長が一つだけこだわったのが「常に学び、常に楽しもう」という一文だった。
「やらされ感があるとどんな仕事もうまくいきません。働いた成果が見えることで、やりがいが生まれ、楽しく働けるようになると思うのです」
同社の製品で患者やクリニックにどう貢献できたのかを具体的に共有し、メーカー、胚培養士、医師の方たちの思いがつながることが、主体的な人材を生む土壌になる。
「私たちが扱っているのは、単なる医療器具や製品ではありません。『未来の新しい家族をつくる選択肢』そのものです。自分の仕事の先にある価値を見失わないようにすることを人材育成の起点に据えています」
同社では部長や課長といった役職はあっても、実質的なマネジメント業務を一切社員に担わせない方針を取っているのも特徴だ。
「マネジメントの責任は全部経営が負うことにしています。マネジメント業務を負担してもらうより、業務に専念してもらうことを優先した結果、社員は管理業務から解放され、本来の仕事に集中できています」
勤務時間も個人の裁量に任せている。コアタイムは11時から16時のフレックス制で、月間の総労働時間を満たせば時間や場所は問わない。育児や介護のためのテレワーク制度が制定され、運用されている。
「常に100%ではなく、7、8割ぐらいの稼働率で余裕を持って働くぐらいがちょうどいい。無理のない働き方こそが持続的な成果につながると考えています」
今後の方針として、定例会議を全廃し、目的が曖昧な会議は開かない、会議に時間をとられることもない。議事録はAIで作成し、業務状況や新製品の立ち上げ時期といった全社共通のタスクを可視化することで、細かな進捗確認のための会議は不要にしていこうとしており、いまその過渡期にいる。
「タスク可視化を進めていくことにより、全体の中で自分が何をすべきか分かり、会議をしなくても主体的に動ける体制になっていくことを期待しています」
人事評価制度を社員の負担にしない
さらに人事評価制度を社員の負担とするのではなく、日々の業務評価も現場では行っていないという同社。
「たとえば声が大きく成果が目立つ人と、地道に会社を支えている人と、どちらを高く評価すべきかは難しい。評価する側の負担も大きいので、評価で人を序列化するのではなく、失敗を恐れずに挑戦してもらえる環境づくりを重視しています」
同社のMVVSのスピリットには「まず一歩、さらに一歩、踏み出そう」という項目もある。この言葉に込められた意味は、挑戦を歓迎する組織文化だ。
「何かに挑戦する際、最初からすべてが計画通りにいくとは限りません。大切なのは、そこで立ち止まらずに挑戦し続けることです。会社からそこにブレーキをかけないようにしています」
かつては創業者が発案した製品を形にする業務が中心だったが、現在は現場の胚培養士や医師の方から伺った声を、共同で製品化する流れに変わってきた。そのため、社員から新しい取り組みの提案があれば、費用の規模にかかわらず基本的には後押ししているという。
「まずはゲーム感覚でもいいから楽しんで一歩を踏み出してほしい。研修なども、正解を求めるテストではなく、みんなでワクワクしながらアイデアを出し合える仕掛けにしていきたいと考えています」
今の会社のカルチャーを大切にするため、現在は積極的には採用を行わない方針だ。
「大企業にありがちな『こうあるべき』という論を持ち込んでほしくないんです。『とにかくやってみよう』という志を大切にし、のびのびと働ける職場を目指しています」
精神的な豊かさと経済的な豊かさを両立
オフィスでの澁井社長は、個室を持たず、社員に並んで座り、社長ではなく「澁井さん」と呼ばれている。
「『社長』とは呼ばないように常に言っています。社員がふっとやって来て、『こんなことをやりたいのですけどいいですか?』と気軽に話せる体制をつくっていきたいと考えています」
こういった一連の取り組みの先に澁井社長が見据えるのは、挑戦した成果が会社の利益となり、それが確実に社員へ還元される循環だ。
「やりがいを持って自発的に挑戦し、目の前の業務を達成する。それが医療現場からの信頼となり、会社の利益という成果で戻ってきます。そうして得られた利益を、社員にしっかりと還元する循環を追求し、高い給与水準を実現していく方針です」
「やりがい」と「還元」のサイクルが回り続けることで、組織はさらに主体性を帯びて強くなり、社員も家族も幸せになれる。そんな未来を、社員全員の力で創り上げていきたいと考えている澁井社長。
「精神的なやりがいと経済的な豊かさを両立させる循環経営をこれからも続け、『世界で一番、不妊治療で苦しむ患者さまを救った会社』を目指していきたいです」
| 設立 | 2010年7月 |
|---|---|
| 本社 | 東京都新宿区 |
| 従業員数 | 50人 |
| 事業内容 | ヒト卵子・受精卵(胚)の凍結デバイスの開発・製造・販売 https://reprolife.jp/j/ |