SBCホールディングスが運営する「こども療育教室さんぽ®」は、許認可事業としての厳格な基準のもとで専門職員を育成し、発達障がいのある子どもたちの自立を支援している。職員と地域の子どもが共に育ち合う温かな社会づくりを、同施設は牽引する。(雑誌『経済界』2026年10月号より)
木下 敦 SBCホールディングスのプロフィール
きのした あつし
昭和の温もりを再現する「さんぽ®」が掲げる機会平等
「どんな環境に生まれても、子どもたちには公平にチャンスが与えられるべきです」。SBCホールディングスの木下代表が「こども療育教室さんぽ」を立ち上げた背景には、社会の不公平さに対する強い危機感があった。子どもたちに意欲がありながらも、家庭環境や発達特性で学ぶ機会を制限されるという社会の歪みに胸を痛めてきた。
1972年に創業し、医療関連事業を中核とする同グループ。地域への還元の一環として、2019年8月に「さんぽ」1号店を開所した。利用料の9割は公費で賄われ、1割が保護者負担だ。東京都の許認可事業であり、違反すれば取り消しに直結しかねない緊張感がある。
「お隣の大人も他人の子を叱り、地域で温かく育てる」という時代があったと振り返る木下代表は、昭和の温かなコミュニティの希薄化が日本の衰退を招いていると指摘する。そんな古き良き地域社会を「さんぽ」を起点に取り戻したい。その思いが事業の原動力になっている。競争を煽る大手塾とは一線を画し、誰一人取り残さず公平なチャンスを与える環境の再現こそが揺るぎない理念だ。普通学級への移行を支援しつつ、難しい場合はIQなど特性や才能を見いだし、育てることに力を注ぐ。
「共に育ち合う」好循環専門職員と子どもの成長
「さんぽ」の最大の目的は、障がいや発達特性を持つ子どもたちの「自立支援」だ。近隣の特別支援学校の授業を終えた子どもたちが、午後から通ってくる。自分がいなくなった後も、わが子が自分で考えて動き、働いて暮らせるように︱︱ そうした保護者の願いに応え、自立への最初の一歩を支える。指針となるのが、「はたらく」ことは「相手を思うこと、考えること、うごくこと」という独自の考え方だ。同施設では、民間企業の経験と「児童発達支援管理責任者」研修を修了した専門職員が、早期就労を意識した実践カリキュラムを設計する。小集団の遊びや外出を通じ「協働力」を育み、友だちの輪を広げる。知的障害児教育の先駆者である糸賀一雄氏が説いた「発達的共感」の思想に、木下代表は深く共感しているという。
施設の高水準な運営を支えるのは、何よりも「職員育成」だ。事業所には教員免許や保育士資格を持つ職員に加え、児童発達支援管理責任者を含めた約5人の体制が必要となる。理学療法士や言語聴覚士など専門職は加算評価が高く、採用できれば運営の安定に直結する。26年4月に新卒者2人を迎え、現在は6人体制で運営し、7年かけて安定した体制を築いてきた。長年、医療機器販売事業で培ってきたのは、自社都合を優先しがちな同業他社とは一線を画す姿勢だ。「顧客や子ども、親に自社の都合で動かず、相手への配慮を最大限に」という社内方針は、その経験から生まれた。過度にへりくだらず、過度に要求も通さない、対等なパートナーとして向き合う。
3店舗展開で事業を軌道に共感が結ぶ新しい地域社会
障がい児支援という事業領域は、ニーズが高い一方で採算性が低く、新規参入や大手資本の参入もごく一部にとどまる。あえて困難な道を選んだことが、ニッチながら社会性の高いモデルを成立させている。これまで相応の負担を引き受けながら運営を続けてきたが、店舗を増やすのには明確な成長戦略がある。1店舗だけでは固定費が重くなるが、3店舗体制になれば販管費が大きく薄まり、黒字化と資金回収が可能な「事業」として成り立つ。
「現在運営する東京都北区王子の店舗は、法律により1日の定員が10人までと定められており、希望者が増えても断らざるを得ません。この状況を受け、近隣で2店舗目の開設準備を進めています。さらに28年11月には、東京都文京区本駒込に自社開発ビルを竣工し、3店舗目の基幹店を開く予定です」
「さんぽ」の社会的価値の向上は、グループ全体の社会貢献度に直結するというのが木下氏の考えだ。将来的には事業承継を見据え、5店舗程度への拡大を視野に入れる。
「支え、支えられるという持ちつ持たれつの関係を取り戻したい」という思いを、木下代表は「利他の心」と表現する。その根底にあるのは、地域との共感でつながろうとする姿勢だ。この利他の精神が公益を考える他企業によっても引き継がれ、いつか全国へと広がっていくことに期待したい。
| 設立 | 2006年5月 |
|---|---|
| 資本金 | 7,000万円 |
| 売上高 | 2億円(26年3月期予定) |
| 本社 | 東京都文京区 |
| 従業員数 | 6人(グループ全体80人)(26年7月現在) |
| 事業内容 | 障害児通所福祉事業、傘下企業の経営統括 http://www.sbc-hd.co.jp/ |