中部圏の景気は先行きに不透明感があるものの、企業収益と設備投資に下支えされて堅調を維持。データセンターや半導体関連の需要が高く関係企業に追い風。物価上昇で個人消費の停滞が景気回復の鍵となる。今後の展望を中部圏社会経済研究所の小池宜弘代表理事に聞いた。(雑誌『経済界』2026年11月号より)
小池宜弘 中部圏社会経済研究所のプロフィール
需要が顕在化しているAI、半導体、データセンターに期待
中部5県(愛知、岐阜、三重、静岡、長野)の景気はウクライナ紛争や中東情勢などの外部要因の影響が懸念される中、先行きを見通すのは難しい。しかし世界的な輸出企業が集積している中部圏は、製造業を中心に安定した企業収益があり設備投資も旺盛で、全体として底堅さを維持しているというのが現状だ。中部圏社会経済研究所の小池宜弘代表理事は次のように語る。
「既存の事業に加えて、近年はデータセンターや半導体需要が世界的に隆盛なので、関連する電子部品やデバイス、それに半導体の製造装置などの機械生産が力強い。一方で燃料価格の上昇や国際紛争に端を発した世界経済の減速もあり輸送用機械は横ばいとみています。個人消費をみると、物価高による家計の節約志向が続いている中で、上昇に転じるかは不透明で力強さには欠けています。しかし、人手不足によって賃上げが進んでおり、消費が増える可能性があるので、あとは物価高とのバランスになると思います」(小池氏)
投資の観点では直近の景気調査や日銀短観を見る限り、経営者が経済の先行きに警戒感を持つ傾向が表れており、設備投資はやや先細りとなっている。経営者のマインドがやや冷え込んでいる中で期待できる分野がAIや半導体関係。AI半導体は世界的に需要過多となっており、AIデータセンターの建設は、世界はもちろん国内でも多数の計画が発表されており、需要が顕在化している分野での投資は活発になるだろう。
セントレアを軸にインバウンド需要を取り込む施策
製造業が地域経済を牽引してきた中部圏であるが、個人消費の伸び率はそこまで高くない。百貨店も一時期、売り上げが増えた時もあったが、全盛期に迫る勢いはない。
「賃金はようやく上昇に転じました。でも実質賃金がプラスになったのは26年からで、所得が継続的に増えていけば消費も増えるでしょう。あとはインバウンド(外国人観光客)対策が鍵ですね。中部圏はそこが比較的弱く大きな課題です」(小池氏)
インバウンド需要は、人口減少が進む日本において外貨を獲得できるチャンスであり成長産業ともいえる。国の方針もあって訪日外国人による消費は拡大傾向にあり、地域経済に及ぼす影響は大きくなっている。24年の訪日外国人は約3687万人と、コロナ前のピーク(19年)をあっさりと抜き去り過去最高を更新。そして25年は4千万人を超えて4268万人を記録した。同年は中国からの観光客は激減したものの大阪・関西万博などのビッグイベントもあり、数字を押し上げた。そして26年第1四半期(1〜3月)は、すでに1千万人を超えており(約1068万人)、このペースで行けば年間5千万人を突破する可能性もある。円安を背景に「コト消費」や「高付加価値化」へのシフトが奏功した形で、今後、企業や自治体がこの好機を生かすにはデジタル活用や受け入れ環境の整備に加え、単価向上による収益拡大の努力が必要不可欠となる。
東京、大阪、福岡が積極的にインバウンドの受け入れ態勢を強化している中で、中部圏ではやや盛り上がりに欠けている。中部圏を訪問していても、羽田や成田、関空を利用している観光客が多く、消費額の大きい出国時の土産物購入なども域外に流れている。セントレア(中部国際空港)を玄関口として中部圏を周遊して、中部圏内でお金を使う流れをつくるためには空港や地域だけでなく、産業界も含めて関係者が協力して知恵を出していく必要がある。
さて、産業界の新陳代謝を促し地域経済を活性化させるためにはスタートアップの育成が急務になる。これは国の重要施策でもあり、各地でスタートアップエコシステム確立に向けた動きも活発になっている。中部地域でも官民連携のインキュベーション施設が数多くあり、実績も増えてきているが、いまだ全国比にして5%未満であり8割程度を占める東京に比べるとスケールは小さい。裏を返せば拡大の余地が残されており、スタートアップと地域産業との連携が求められる。
「地域の特徴を生かすという意味では、製造業と接続してロボットや産業機械を動かすフィジカルAIが期待される分野です」(小池氏)
モノづくり産業が集積している中部圏ではロボットなどを活用した省力化、効率化の技術で世界をリードしているが、ここの知見とフィジカルAIがリンクすれば大きな価値が生まれることは間違いない。