江戸時代創業の繊維専門商社・タキヒヨー。企画・デザイン、生産、物流まで一貫して手掛ける「創る商社」でもある。創業275年、10代目・滝一夫社長に、勝ち筋を見極める鋭い経営判断と、今後の成長へ向けた戦略を聞いた。(雑誌『経済界』2026年11月号より)

滝 一夫 タキヒヨーのプロフィール

滝 一夫 タキヒヨー
タキヒヨー 社長執行役員 滝 一夫
たき・かずお

事業ごとに勝ち方を見極め人と資金を集中投下

 1751年、尾張・古知野(現江南市)で創業し、反物の行商から始まったタキヒヨー。呉服から洋服へ、生地から製品へと、時代に合わせてビジネスの形を変えてきた。10代目となる滝一夫社長は、会社を「家業」と捉えながら、現在も事業ごとに勝ち方を再定義し続けている。

 その判断がより明確になった背景には、一度、事業を絞り込んだ経験がある。長く続いた安定経営を、滝社長は「ぬるま湯だった」と振り返る。前年と同じことを続けても利益が出る状態が、市場変化への反応を鈍らせ、2022年2月期には営業損失22億円を計上。滝社長は、不採算事業や拠点の整理を含む大胆な組織改革に踏み切った。

 ただし、削ること自体が目的ではない。

 「選択と集中を徹底し、使うべきところでは思い切って使う。全部を削っていったら縮小均衡になる。今はまさに、次の成長に向けて舵を切るタイミングだと思っています」

 組織の意思決定も変えた。年功序列的だった役員構成を見直して人数を絞り、社外役員を増やすなど、世代や属性の幅を広げた。重視したのは、現場を知り、結論を早く出して動ける体制だ。

 こうした改革を経て、26年2月期には売上高639億円、営業利益19億円まで回復している。

 では、どこへ資源を集中させるのか。その答えは、2つの主力事業でも異なる。

 製品ビジネスは、薄利多売のマスマーケットが主戦場だ。消費者に「もう1枚買いたい」と思ってもらうことが永遠のテーマだ。そこで重視するのは設備ではなく人への投資だ。「マーケットをよく見る、相手をよく知り、お客さまの立場になる」という原理原則から、消費者が求める商品を短いサイクルでつくる。

 一方、生地ビジネスでは、大量・低価格の競争から距離を置く。

 「価格や量で勝負するものづくりは、他国でも十分対応できます。私たちが唯一圧倒的な強みを発揮できるのは、ハイエンドの領域です。ハイエンドブランド向けのつくり込みには、私たちが積み上げてきたものがある。だから生地ビジネスは伸びていくのです」

 狙うのは、日本の産地が持つ精密な生産技術や加工力が生きる領域だ。海外のハイブランドが見ているのも、単純な価格ではない。それより重視されるのは、その素材によって相手ブランドの価値を維持し、さらに高められるかどうかだ。

 そのため、顧客の現在の要望を聞くだけでなく、1年先の商品を想定し、仮説を立てて提案する。「相手をよく知って、今を知って、次の1年後のイメージをつかむ」。受注を待つのではなく、次の商品を先回りして見せることが、ハイエンド市場での競争力になる。

 市場に応じて判断を変える姿勢は、マテリアル事業にも表れる。ビニール袋などのプラスチック製品は足元で大きく伸びているが、滝社長は、この好調がずっと続くとは見ていない。環境が変われば、そこでまた次の手を考える。

 製品、生地、マテリアル。扱うものは違っても、基準は同じだ。勝てる場所を見極め、必要な場所へ人と資金を最適に配分する。

日本の技術をすくい上げ世界で戦う武器にする

 滝社長が注目するのが日本各地に残る繊維技術だ。合成繊維では髪の毛の100分の1ほどの細い糸を、1万本、2万本単位で正確に扱う。たった1本を通し間違えれば糸が交差し、後工程で切れる原因になる。こうした精密性に加え、染色や加工、仕上げにも、日本ならではの強みがあるという。

 滝社長は、その正確性や加工技術について「日本以外で替えがきかない」と言い切る。一方、優れた技術も、存在しているだけでは残らない。海外資本も日本の産地へ目を向ける中、滝社長は、自社の競争力につながる技術には資金を投じる考えだ。

 「これからのビジネスを考えると、日本が得意としてきた優れた技術をどう残し、発展させるかが重要です。必要な領域には積極的に投資し、支えていきたいと考えています」

 日本の技術だから無条件に守る、という話ではない。他国でもできるものではなく、国内だから価値を出せる領域を選び、海外ブランドにも必要とされるビジネスとして成長させる。技術や産地への投資は、タキヒヨー自身の差別化にもつながる。

 その考えを象徴する新たな取り組みの一つが藍だ。完成した染料を仕入れるだけでなく、藍を育てる畑から入り、染料、染色、商品まで可能な限り川上から関わる。「途中からではなく、原点からやりましょう」という発想で、自ら主導できるものづくりを目指す。

 そこには、地域産業や文化を受け継ぐ意味もある。滝社長は「残っていかなきゃいけないし、そのためには発展していかなきゃいけない」と話す。その継承と発展が、タキヒヨーの独自性につながるのだ。

 残す価値があり、自社の強みにもなる場所に踏み込んでいく。進化と変化を重ねながら、次は何に資源を振り向けるかを選び続けている。

会社概要

創業1751年
資本金36億2,225万円
売上高639億円(2026年2月期)
本社愛知県名古屋市西区
従業員数540人(2026年2月末現在)
事業内容アパレル、テキスタイル、小売り、マテリアル、ライフスタイル、不動産
https://www.takihyo.co.jp/