かつて「日の丸半導体」と呼ばれ、栄華を誇った日本の半導体。その後海外勢に大きく水をあけられたものの、捲土重来を期して爪を研いできた。その立役者となっているのが半導体製造装置と材料メーカーたちだ。それぞれ独自の技術をさらに伸ばして、TSMCやエヌビディアといった巨大な商圏にも食い込み始めている。日本半導体の現在地を探った。(雑誌『経済界』2026年11月号より)

TSMCと次世代新会社 高まるソニーの存在感

 8月11日。台湾のファウンドリ大手のTSMCと日本のソニーが、スマホ向けの次世代イメージセンサーを量産する合弁会社を立ち上げると正式に発表した。

 ソニーセミコンダクタソリューションズによると、ソニーが約4650億円、TSMCが2820億円を拠出するとしていて、検討中の政府の補助金を合わせると1兆円規模の総投資額となる。

 生産場所は、ソニーがすでに稼働させている熊本県合志市の工場になるという。製造する次世代イメージセンサーは、ソニーが世界の過半のシェアを占めるCMOS(相補性金属酸化膜半導体)イメージセンサーのノウハウを生かすものだ。

 CMOSイメージセンサーは、高精細な画像処理を可能にするもので、スマホのカメラなど私たちの身の回りにある半導体である。

 次世代版では、裏面照射型、積層型といったソニー独自の技術に基づいた高度な製造プロセスを採用し、AI処理機能を高め、さらなる高精細も可能にする。スマホ向けに搭載され、2029年から量産開始を目指すとしている。

 TSMCは24年に熊本県菊陽町でソニーなどとの合弁会社であるJASM第1工場を稼働させている。こちらはTSMCが86%を出資し、12ナノから28ナノの自動車や産業機器向けの半導体を製造している。さらに最先端の3ナノ半導体を量産する第2工場の建設も進んでいて、26年後半にも稼働させるという。

 実は今回の伏線となる動きもあった。今年2月、TSMCの魏哲家CEOが来日し、高市首相と面会した際に、日本で初となる最先端3ナノの半導体を第1工場で生産すると伝えたとされる。

 当初計画の6ナノから去年12月には4ナノに、そして3ナノに格上げした背景には何があるのか。NECの元技師長で内外テック顧問の菊地正典氏はこう分析する。

 「TSMCはJASMの第2工場をどう位置付けるか、迷っていました。第2工場では6ナノの量産を宣言していましたが、先端半導体に集中すべきとの経営判断にもとづき、TSMCは日本でもそう遠くない時期に、先端半導体の製造に乗り出すとみられていたのです」

 今回の提携は、TSMCの先端半導体3ナノ量産力に加えて、ソニーのCMOSイメージセンサーシェア拡大で、両社の関係をより盤石にしたい狙いがあるとみられる。

 ChatGPTをはじめとする、いわゆる大規模言語化モデルの生成AIの需要が増え続ける中で、AIの演算量もそれに比例して急激に増加している。民間の機関がまとめた、演算量を示すトークン消費量はこの1年で約15倍に膨れ上がっているという。グーグルやマイクロソフトなど世界的な巨大IT企業でも、1日で数兆から数十兆トークンを処理しているとされる。処理をするにはデータセンターが数多く必要となる。

 今回の両社の提携でもう一つ重要なのは、ソニーが主導している点。さらなるシェア拡大が狙いだ。

 数々の苦難を乗り越えてCMOSイメージセンサーでスターダムにのし上がったソニー。TSMCという海外の伴侶を得て、半導体分野での新たな勝ち筋を見いだしている。

いざエヌビディア同盟へ サプライチェーン入りがカギ

 7月半ば。半導体GPUで世界トップシェアを誇る、エヌビディアのジェンスン・フアンCEOが来日し、経産省主催のAIイベントに参加し、オフでは神田の居酒屋で日本の半導体業界の経営者らと杯を傾けた。フアン氏は報道陣から、日本の半導体サプライチェーンへの期待を問われるとこう答えた。

 「われわれの成長を見ていただければ分かると思うが、成長の根底には私たちを支えてくれている数多くの日本企業の存在がある。日本が世界クラスであるということを知ってほしい」

 フアン氏の言葉を裏付けるように、オフの神田での居酒屋談義では、東京エレクトロン、レゾナック・ホールディングス、村田製作所、キオクシアホールディングスの社長など、製造装置・材料・電子部品メーカー十数社のトップが参加していた。

 日経クロステックの調べによると、AI市場をけん引するエヌビディアのGPU(画像処理半導体)サプライチェーンに日本の半導体企業が複数参加していることが明らかになっている。AIに必要なデータセンター投資のうち、3割から4割がGPUの調達に充てられているとされ、時価総額約790兆円市場をけん引する。

 エヌビディア・サプライチェーンが築かれているという。

製造装置と部品メーカーはAIシフトに本格移行

 そのサプライチェーンでとりわけ存在感を放っているのが、岐阜県大垣市に本社を置く、半導体材料メーカーのイビデンだ。同社の河間事業場では、主にエヌビディア向けに、ICパッケージ基板を製造している。ICパッケージ基板とは、半導体チップとマザーボードの間で電気信号を橋渡しする役割を持つ基板のことで、AI向け半導体には不可欠な部品とされている。

 イビデンはこのICパッケージ基板にこれまで約1800億円を投資していて、今後3年間で、イビデンの連結売上高4千億円を超える、計5千億円を投資するという。

 こうした勢いを受けて、業績も好調だ。イビデンの株価はこの1年半で約760%も上昇。26年4月から9月期の上期業績予想について、売上高を従来の2300億円から2535億円へ、営業利益を380億円から545億円へ引き上げている。

 さらなる見通しとして、ICパッケージ基板が主力の電子事業で、30年度に営業利益2800億円を目指しているという。

 レゾナック・ホールディングスもエヌビディアのサプライチェーン入りはしていないものの、AI向けの半導体材料の封止材など、複数の分野に強みを持つ。

 さらに自社が先頭に立って、アメリカのシリコンバレーに企業連合US JOINTを結成している。これはAIをはじめとする次世代半導体開発の企業連合で、現在は12社が参加。それぞれが知見を提供し合い、アメリカの顧客との対応やサポートも協力して行われるという。

 「企業が連携し合って、複雑な要素をトレードオフしてものづくりをしていく。日本のメーカーが得意とする、すり合わせが勝ち筋になり得る」(レゾナックHD幹部)

 空前のAI需要という好機を捉えて、いかなる手を打っていくか。製造装置、材料、そして電子部品と日本の持つ強みをさらに伸ばしていくためのさらなる取り組みがいま求められている。

イビデン本社
ソニー本社
両社はTSMC・エヌビディアとそれぞれ手を組み躍進