ラピダスが北海道千歳市の半導体製造拠点で日本初となる、2ナノ半導体トランジスタの試作成功を発表してから、はや1年が経過した。政府や民間からの投資額ばかりが声高に叫ばれるラピダスに関するさまざまな声もある中で、小池淳義社長は“負けない”という信条を貫き続けている。量産開始が目前に迫る小池社長の最近の発言にまずは注目する。(雑誌『経済界』2026年11月号より)

価格で負けない品質 圧倒的なスピード感で勝負

 7月8日。ラピダスの小池淳義社長の姿は長野・軽井沢にあった。レジメンタルネクタイに、ワインレッドのジャケットを合わせたスタイリッシュな装いの小池社長はこの日、日本生産性本部が主催するセミナーで講演した。

 「2ナノ半導体の量産はTSMCが先行している。だからTSMCが価格を決めてしまう。それでもわれわれは価格で負けるわけにはいかない」

 小池社長は「負けないこと」を大事にする。去年12月のセミコンジャパンでも、自社で試作中の大型半導体基板をアメフトで鍛えた両腕で高々と掲げてアピールした。大型基板を巡っては、エヌビディアが去年1月、コンセプトのみで発表したのに対し、この時ラピダスはそれをしのぐ形で実物を公開した。

 小池社長は、世の中に大きなインパクトを与えるものづくりがしたいと日立製作所で半導体技術者としてのキャリアをスタート。「枚葉式」によるウエハーーのエッチングを追求し続けた。エッチングとは簡単に言えばウエハーー状の半導体チップを指定された大きさ通りにカットすることを言う。一度に数十枚から数百枚を処理できる「バッチ式」と、一枚一枚処理していく「枚葉式」の2つの方法があり、小池社長は自ら実験を重ねていく中で「枚葉式」に魅せられていった。枚葉式の方が枚数は劣るものの、正確なデータを多くとることができたという。この枚葉式のみの工場を造れば、いち早く技術革新を進めることができ、バッチ式よりも速く新しい半導体部品を製造できると考えたのだ。

 その後、トレセンティテクノロジーズという自身がトップになる半導体企業の立ち上げで小池社長は夢の実現に大きく近づく。しかし、出資会社である海外の提携先について、親会社となる日立が難色を示しトレセンティは日立の完全子会社となり、小池社長は身を退くことになった。

 その後、スカウトされサンディスクの日本法人社長に就任した小池社長は、フラッシュメモリで性能を追求していく。人間の脳内の記憶をメモリ化して、代々引き継いでいこうという「未来への記録」について考えている。

 「技術革新が進んで回路の集積度がさらに進み、フラッシュメモリがより小さく大容量になれば、ブレイン・アクティベーション・ツール(頭脳活性化ツール)にどんどん使われるようになる。そんな未来を予測している」(『シンギュラリティの衝撃』小池淳義 PHP研究所 112ページより)

 そしてラピダス。東哲郎会長と小池社長が中心になり設立されたラピダスでは、超TATと呼ばれる、とにかくスピードの速さを重視した製造方法が採用される。小池社長が貫いてきた速さと質で負けない、日本発の先端半導体の量産は目前に迫っている。

 小池社長は本誌の取材に対し、書面で回答。国内外が注目する2ナノ半導体量産に向け、全て計画通りに準備が進んでいることを明らかにした。

小池淳義社長が語る ラピダスと日本半導体の行方

小池淳義 ラピダスのプロフィール

ラピダス 小池淳義
ラピダス社長 小池淳義
こいけ・あつよし 1952年千葉県生まれ。78年早稲田大学大学院理工学研究科修了後、日立製作所に入社。2002年にトレセンティテクノロジーズ社長。06年にサンディスク社長。18年にウエスタンデジタルジャパン社長を経て22年から現職。

2ナノ量産の最終段階 人材も盤石な体制に

―― 2027年からの2ナノロジック半導体量産について、現時点での達成度はどの水準にあると評価されていますか。

小池 昨年7月に発表した通り、昨年4月の工場稼働直後に製造を開始した試作ロットで、2ナノノードのGAAトランジスタ動作確認を達成することができました。それ以降、現在に至るまで試作の品質レベルを日々向上させています。

 現時点の達成レベルを数値化するのは難しいですが、量産に向けた開発をいよいよ本格的に開始する段階になったと認識しています。

―― 量産に向けた最大の技術的ボトルネックは何で、どのように解消しつつありますか。

小池 技術的な進捗については、具体的に開示していません。

―― IBMとの共同開発体制は、量産フェーズに入ることでどのように変化しますか。ラピダスとして自立度はどこまで高まっていますか。

小池 IBMは21年に次世代半導体のトランジスタ構造として GAA(Gate-All-Around)を開発したことを発表していますが、われわれは22年12月にIBMと戦略パートナーシップを締結して、GAAに関する技術供与を受けることとなりました。そのパートナーシップに基づいて、23年4月から米国ニューヨーク州アルバニーにある、NY CREATESの Albany NanoTech Complex にエンジニアを派遣開始しました。 この施設で、IBMからの基礎技術供与と、それに基づく量産技術確立のための研究開発を共に手掛けてきました。

 派遣したエンジニアは総勢160人以上で、そのうち100人以上が既に北海道千歳市の製造拠点IIM-1(イームワン)に帰任して、来年度の2ナノ量産技術の確立に向けて活動しています。

―― IIM-1の立ち上げにおいて、設備の調達・人材確保・サプライチェーン構築の進捗は計画通りでしょうか。特に遅れが出ている領域はありますか。

小池 われわれのさまざまな活動は全て計画通りに進捗しています。設備に関しては、量産用途では日本初となるオランダのASMLのEUV(極端紫外線)露光装置の導入を24年12月に行い、以降200台以上のEUV露光装置を設置しました。これを受けて25年4月から計画通りパイロット立ち上げを開始し、7月には2ナノノードのGAAトランジスタ動作を確認し、その後現在に至るまで試作のレベルを向上させています。

 22年8月に14人で創業した当社は、26年8月現在で正社員約1500人、派遣社員を含めると2千人を超える人員となっています。

 サプライチェーン構築もさまざまな分野で進んでいます。R&D(研究開発)、EDA(電子設計自動支援)、IP(設計図など)、装置、材料などと組んでいく予定で、グローバルなエコシステム構築をさらに推し進めていきます。

―― 2ナノ量産後の顧客獲得について、具体的にどの産業・どの企業をターゲットにしていますか。

小池 現在、さまざまな分野で活用が進むAI分野の半導体を中心に製造していくことを目指しています。

 具体的には、データセンターなどのHPC(高性能コンピューティング)分野や、データの発生源や端末(エッジ)の近くにコンピューターを配置してデータ処理を行うエッジコンピューティングの分野での受託製造を目指しています。先端半導体の活用分野は多岐にわたるため、特定の業種にフォーカスを絞っているというわけではありません。

―― TSMCやSamsung など世界の先端ロジックメーカーとの競争環境を踏まえ、ラピダスが差別化できる強みはどこにあると考えていますか。

小池 われわれは設立当初から、超短TAT(Turn-Around-Time)による製造を目指すことを公表しています。すなわち、スピードを重視した製造を強みとすることを目指しています。

 従来のバッチ式ではなく全てのウエハーを一枚処理で行う全枚葉式を採り入れ、製造過程で得られるビッグデータを活用した設計支援、前工程・後工程一貫生産を行う工場での製造によって、その実現を目指しています。このビジネスモデルをRUMS(Rapid and Unified Manufacturing System)と称して展開していく予定です。

 また、半導体の処理能力向上・省エネルギー性能向上を実現するために、今後、汎用から専用へと用途のニーズがより増えると予測して、専用品を多品種製造するシステムの構築を目指すことで、他社との差別化を図っていく計画です。

官・民からの投資で備え 収益ロードマップも描く

―― 政府からも投資を受けている中で民間企業として自立した収益モデルを構築するためのロードマップをどう描いていますか。

小池 政府からの支援は、R&D段階での開発委託費としてNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)からの助成金と、量産段階でのIPA(情報処理推進機構)からの出資があります。出資に関しては、政府だけでなく民間企業からも資金調達を行っており、今後融資も加えて2ナノ量産活動に備えていきます。

 われわれの事業計画については、情報処理の促進に関する法律に基づく公募の申請を行った際に提出しており、事業者として選定された際に経産省のホームページ上でも公開されています。

―― 2ナノ量産以降の1・4ナノやサブナノ世代に向けた研究開発投資はどの程度進めていますか。

小池 まずは、ナノノードの量産によって事業を軌道に乗せることが最優先であると認識しています。

 その後、2年から3年ごとに最新世代である1・4ナノ、1・0ナノの量産を行う中期ロードマップを確立していきます。

―― 国内外からのエンジニア採用競争が激化する中、ラピダスが優秀なエンジニアを惹きつけるためのアピールポイントは何ですか。

小池 最先端技術の開発にチャレンジできることが、エンジニアの高いモチベーション維持につながると認識しています。その点で、日本において20年以上にわたって失われていた最先端の技術を取り戻すという目標は、エンジニアを惹きつける要素になると考えています。

 設計支援・前工程・後工程を組み合わせたRUMSという独自のビジネスモデルの環境下ではエンジニアが活躍できるチャンスは無限に広がります。そこにぜひ注目していただき、受けにきていただきたいと思っています。

―― 日本の半導体産業の復権に向けて、どのような役割を担っていこうと考えていますか。

小池 デジタル化やAIがさらに進展していく中で、最先端半導体の開発・製造を日本に取り戻すことと、それによるさまざまな産業への波及効果によって、日本が技術立国として復権していくことにつながることを希望しています。同時に、グローバルサプライチェーンの中で高品位な製品を安定提供することで、世界全体の産業発展にも貢献したいと考えています。

北海道千歳市の製造拠点  IIM-1
北海道千歳市の製造拠点 IIM-1(画像提供:ラピダス提供)
来年から量産予定の日本初の2ナノ半導体
来年から量産予定の日本初の2ナノ半導体(画像提供:ラピダス提供)