岐阜県大垣市の田園風景の中でひときわ存在感を放つイビデンの工場群は、今や世界の半導体産業を支える重要拠点だ。エヌビディアなどの主要な半導体メーカーにICパッケージ基板を供給するイビデンは、発電事業を祖業としながら、培ってきた技術力を武器に半導体分野に果敢な投資を続けてきた。その成長の軌跡と今後の戦略とは。(雑誌『経済界』2026年11月号より)

青木武志 イビデンのプロフィール

青木武志 イビデン
イビデン会長 青木武志
あおき・たけし 1958年岐阜県生まれ。関西大学工学部卒業後、81年にイビデンの前身の揖斐川電気工業入社。長年にわたりセラミック事業に関わり、2016年に代表取締役副社長・セラミック事業本部長に就任。17年から社長を7年間務め、24年から現職。

基板市場はひっ迫も 長年の技術蓄積が強みに

―― 世界的に需要が高まるICパッケージ基板の需要環境をどう見ていますか。

青木 AIの急速な普及により、半導体の構造設計そのものが大きく変化しています。従来はPC向けにCPU(中央演算処理装置)を搭載した構成が一般的でしたが、AIでは並列演算に優れたGPU(画像処理半導体)の重要性が高まっています。その結果、GPUやCPU、高速メモリなど複数の半導体を高密度に実装するための大型かつ高機能なICパッケージ基板への需要が拡大しています。今後は基板への部品内蔵など、さらに複雑で高度な構造が求められるでしょう。一方で、こうした最先端のICパッケージ基板を製造できる企業は世界でも限られています。当社は長年にわたり、微細配線技術や反り・歪みの制御技術などを磨き上げ、最先端分野で求められる技術力を蓄積してきました。特にAIサーバー向けの最先端ICパッケージ基板は現在も需給が逼迫しており、中期的に旺盛な需要が続くとみており、われわれにとって大きな成長機会になると考えています。

―― ICパッケージ基板事業に今後5千億円規模の投資をする理由は。

青木 旺盛な需要への対応に加え、半導体メーカーとの長期ロードマップに基づき、次世代技術に必要な設備投資を先行して進める必要があるためです。半導体の前工程における微細化は限界に近づく中、ICパッケージ基板をはじめとする後工程の技術が半導体の性能を左右する重要な要素となっています。当社は2023年から24年にかけての半導体市場の調整局面においても、投資の手を緩めずパッケージ基板工場の建設を進めてきました。厳しい事業環境下でも先行投資を継続したことが幸いし、現在の成長につながっていると考えています。もっとも、今後5千億円を投じて能力増強を図ったとしても、30年時点の需要をすべてカバーできるとは考えていません。成長市場の変化に迅速に対応するためにも将来を見据えた先行投資を継続していくことが不可欠だと考えています。

―― エヌビディアから高く評価される理由はどこにあると考えますか。

青木 われわれはICパッケージ基板の微細配線化、高多層化、反り・歪みの抑制といった高度な技術を長年培ってきました。エヌビディアとは20年以上にわたり、信頼関係を構築しており、GPU実装時の高い歩留りを支える品質を評価いただいています。主要サプライヤーとして製品供給を担うとともに、次世代基板の開発においても、早期から連携できる関係を築いています。

―― エヌビディアのGPU商圏に組み込まれることをどう捉えますか。

青木 ICパッケージ基板は、エヌビディアが基本設計を行い、TSMCなどのファウンドリが半導体チップの製造やパッケージングを担うサプライチェーンを通じて供給されています。われわれはエヌビディア、TSMCの両社と直接やり取りできる立場にあり、関係は年々深まっています。特にエヌビディア向けの最先端AI用ICパッケージ基板では、主要サプライヤーとして次世代半導体の安定供給を支える重要な役割を担っています。エヌビディアにはわれわれの技術力や成長投資についてよく理解してもらっていて、単なるサプライヤーではなく、信頼を基盤としたビジネスパートナーとして、互いを尊重したフェアな協力関係を築いています。

 またエヌビディアに限らず、インテルをはじめとする主要半導体メーカーとも良い関係を構築できています。近年は前工程だけではなく、後工程の重要性が高まっており、課題が生じれば共に解決策を検討し、新たな価値を創出していく関係へと発展しています。

絶好調な業績の背景 多様な事業ポートフォリオの妙

―― 25年度の業績をどうみていますか。

青木 ICパッケージ基板を主力とする電子事業が業績を牽引しました。AI向けICパッケージ基板の需要拡大に加え、汎用サーバー向け基板の受注も堅調に推移したことが増収につながりました。一方、セラミック事業は減収となりました。自動車の内燃機関向けセラミック製品の需要減少が主な要因です。また、パワー半導体製造向けのカーボン製品については中国メーカーによる積極的な投資を背景に競争環境が激化しており、一部顧客の在庫調整の継続による価格下落などもあり、収益を押し下げる要因となりました。

―― セラミック事業から、パッケージ基板の電子事業に軸足が移っていることについては。

青木 セラミックは開発から市場への定着まで長い時間、5年程度を要する事業です。一方、ICパッケージ基板を中心とする電子事業は製品サイクルが短く、市場環境や技術トレンドの変化が激しい事業です。こうした異なる性質の事業を両輪として会社を成長させていくためには、既存製品の付加価値向上と継続的な新製品開発が欠かせません。

 当社の強みは、セラミック、電子、そして関連会社事業という多様なポートフォリオを有していることです。この3本柱の各事業がそれぞれの成長機会を追求しながら、全体として企業価値を高めていくことが重要だと考えています。そのためには事業ごとの特性を踏まえた経営を徹底するとともに、社員、役員が常に学び続け、変化に対応していくことが不可欠です。

―― 株価が1年半で約8倍に上昇した背景をどうみていますか。

青木 株価は市場が決めるもので当社がコントロールできるものではありませんが、AIの普及に伴い後工程の重要性が広く認識されるようになったことや、IR活動を通じて当社の役割への理解が深まってきたことが背景にあると考えています。ICパッケージ基板をはじめとする技術価値を評価いただいた結果だと受け止めています。

―― 業績が好調だからこそ懸念していることはありますか。

青木 経営者として常に心掛けているのは、業績が好調な時ほど気を緩めないということです。現在の好調な事業環境を当然視することなく、常に変化への備えを怠らないことが必要だと考えています。そのためにも、困難な局面を乗り越えられる人材と組織を育て、持続的な成長につなげていきたいと思います。

―― 非業務執行の会長職として、どのような役割を担っているのですか。

青木 経営の執行は社長以下の経営陣に委ね、私は非業務執行の立場からリスク管理や中長期的な視点で助言を行っています。それと、社長時代にはあまりできなかったのですが、海外拠点を訪問し、現地社員との対話を通じて組織の課題把握やグループの一体感醸成に努めています。

―― 取締役会の実効性向上をどのように進めていますか。

青木 取締役会の実効性評価では、社内、社外の取締役へのアンケートなどを通じて改善課題を明確化しています。その結果を踏まえ、ROEなどの資本効率を意識した経営資源の配分や投資判断について議論を深め、企業価値向上につなげています。加えて、グループのガバナンス強化や、ESG経営の推進にも継続的に取り組んでいます。

未来を左右する人材戦略 ギアを上げてさらなる高みへ

―― 人材戦略をどう考えていますか。

青木 これまでは電子分野の社員は電子分野、セラミックの社員はずっとセラミックで経験を積みながら専門性を高めてきました。一方で、役職が上がるにつれて、事業全体を俯瞰する視点も重要になります。特定の分野に深い知見を持ちながらも、他の事業領域への理解を深めていくことが、経営人材の育成という観点では欠かせません。

 そのため、将来の経営人材を育成する観点から、人事ローテーションのあり方を見直すべき時期に来ていると考えています。一方で、最先端のICパッケージ基板の領域は極めて高い専門性を要するため、人事ローテーションの運用が難しいのも事実です。社員一人一人のスキルや経験、適性を踏まえながら専門性の深化と組織力の向上を両立する最適な人材配置を実現していきたいと考えています。

 また、電子事業のさらなる成長に向け、電子技術者の確保・育成は喫緊の経営課題です。若手技術者には積極的に責任ある役割を担ってもらい、次世代を支える人材の育成を加速していきます。加えて、ICパッケージ基板の需要拡大を見据え、生産能力の増強や将来的な設備拡張も視野に入れています。その実現には、優秀な人材の確保と育成が不可欠です。今後は外国人材の活用も含め多様な人材が活躍できる環境整備を進めるとともに、自治体など地域社会とも連携を深めていきます。

―― 経済安全保障の観点でのリスクヘッジは。

青木 当社の競争力の源泉であるICパッケージ基板の技術・ノウハウは、将来にわたり守り抜くべき重要な経営資産です。最先端領域は大垣地区に開発・生産機能を集約し、技術優位性を維持・強化していきます。一方で従来の製品は海外拠点を活用しながら効率的に生産する方針であり、この基本戦略は今後も堅持していきます。

―― イビデンの未来像をどう想い描いていますか。

青木 これまで積み上げてきた成果を礎に、30年度には売上高1兆円を超える企業へと成長し、さらなる飛躍を遂げたいと考えています。その実現に向けて何より重要なのは、創業以来、変革に挑み続けてきたイビデンのDNAを次世代へ受け継いでいくことです。私自身も、その精神を後進へ伝えていくために力を尽くしていきます。

 同時に、社員一人一人が「この会社で働けてよかった」「イビデンで働くことを誇りに思う」と感じられる企業であり続けなければなりません。そのためには、強固な経営基盤を築くとともに、地域社会の発展や地方創生にも貢献していくことが重要だと考えています。

 今後は半導体関連事業を成長の軸として、国内外での競争力をさらに高めていきます。世界のトップ企業と比べれば、当社にはまだ大きな成長余地があると認識しています。何を強化し、どのような価値を生み出していくのかを常に問い続けながら、一歩一歩、着実に成長を重ねていくことが私たちの長期的な目標であると考えています。

イビデン_AIサーバー用ICパッケージ基板
世界的な引き合いのICパッケージ基板(画像提供:イビデン)