〝化学の力で世界を変える〟をパーパスとして掲げているレゾナック。半導体製造に欠かせない、銅張積層板、感光性ドライフィルムなど複数の材料は世界シェア1位だ。AI需要が爆発的に増え続ける中、自社だけでなく他の材料メーカーらとの企業連合を主導。日本の半導体復権に向けても、レゾナック主導の企業連合で後押ししようという戦略だ。Photo=横溝 敦(雑誌『経済界』2026年11月号より)
真岡朋光 レゾナックのプロフィール
まおか・ともみつ 1974年5月生まれ。東京大学工学部航空宇宙工学科を卒業後、99年にA.T. カーニーに入社。その後レノボ・ジャパンを経て2013年にルネサスエレクトロニクスに移籍し執行役員。21年に昭和電工へ移籍。22年に取締役。23年1月よりレゾナック取締役CSO、24年1月から現職。
材料分野で世界シェア AI向けに集中投資
―― 半導体の後工程の材料分野で世界トップシェアを複数獲得している点をどう認識していますか。
真岡 半導体の後工程は、材料・装置・プロセスが全て絡み合うので、単独の企業が単独の技術だけで解決できる領域ではありません。だからこそ、材料メーカー・装置メーカー等が一緒になって、同じ場所で課題を検証できる環境が必要になる。
そこでカギになっているのが、自社で持つ検証施設であるパッケージング&パワーソリューションセンターの存在です。ここがレゾナックの競争力の源泉になっていると言っても過言ではありません。
この施設の活動と、そこを起点にしたJOINTという企業連合の活動が、後工程で発生する複雑な課題を解決する力につながっています。技術ロードマップの把握や、他社の技術の推移を広く見通すことができる。結果として、材料開発の方向性を見誤ることなく、世界の最先端に合わせて進めることができる狙いです。
さらに、企業連合の活動を通じて、材料と装置の相性を事前に検証できる。顧客はパッケージの量産ラインでトラブルを起こしたくないので、事前に「この材料とこの装置なら問題なく使えますよ」という保証があると安心して採用できます。
こうした事前にモノを検証する仕組みを持っている材料メーカーは、世界でもほとんどありません。だからこそ、われわれの材料は世界の名だたる半導体メーカーに採用してもらっていると自負しています。
―― 企業としての強みは、昭和電工と日立化成の統合の歴史にも起因しているのでしょうか。
真岡 レゾナックは昭和電工が日立化成を買収し、2023年にブランドを統合してできた会社です。日立化成が長年培ってきた半導体材料の技術は非常に強かった。その上に昭和電工の化学技術が乗っかったことで、材料開発の幅が一気に広がりました。
特に昭和電工は計算情報科学(コンピューターシミュレーションやAIを使った材料開発)に強みがあり、これが半導体材料に適用されることで、開発スピードが劇的に上がりました。
さらに、事業ポートフォリオを半導体・電子材料に集中したことで、資金投入が強化されました。日立化成単体では難しかった投資や人員増強が、レゾナックになって可能になったんです。
―― 世界シェア1位である材料部品の銅張積層板の強みをどう捉えていますか。
真岡 銅張積層板は、特にAI向け半導体に欠かせない材料で、ガラス製の布に樹脂を浸透させて銅箔で挟んだものです。AI電力需要に耐えうる放熱性と高速計算処理に耐えうる絶縁性を併せ持つ優れモノです。
これ、ガラスの極薄の板を銅箔でただ挟んだだけのように見えますが、実はとんでもなく難しい技術が求められます。それをクリアできているのは、材料分野で強みを持つ会社同士が統合して成り立っているからで、それぞれの技術力が結集されていることが大きいと思います。
―― AI半導体向けの材料で他にはどんな製品がありますか。
真岡 AI向けには銅張積層板に加えて、絶縁接着フィルム(NCF)、熱伝導シート(TIM)があり、この3つはAI需要に伴って需要が急拡大していて、売り上げも伸びています。
―― AI半導体領域で、どう差別化を図りますか。
真岡 AI半導体は、もはや半導体の頭脳であるチップだけでは性能が上がらない時代になりました。パッケージと呼ばれる材料部品の性能が良くなければ、半導体チップの性能を最大限引き出せない時代になっています。
良い半導体を作ろうと思ったら良いパッケージがいる。良いパッケージを作るためには良い材料と良い装置がいる。じゃあ良い材料と良い装置を持っているのは誰かというと、日本企業がずらずらっと出てくるわけです。それならば、そうした企業が手を組んで材料分野でゲームチェンジャーになりましょうと。それが企業連合を作った大きな理由です。こうした取り組みを通じて、日本が強みを持つ材料分野の競争力をさらに高め、次世代技術の標準づくりにも貢献していきたいと考えています。
企業連合は日米でもカギは共創する拠点
―― US-JOINT(日米で作る企業連合)の狙いは何でしょうか。
真岡 US-JOINTは、日米の半導体関連企業が共同で次世代半導体パッケージ開発を行う研究開発のための28社からなる企業連合で、ハイパースケーラーへの半導体開発支援が目的です。
ハイパースケーラーはいま、自社で半導体を作り始めています。爆発的な需要があるAIサービスで差別化しようと思ったら、半導体の性能を上げるしかないという状況だからです。ただ、彼らは半導体の回路は作ることができても、材料の要であるパッケージの開発や製造技術で必ずつまずきます。そこでUS-JOINTが「あなたの作りたい半導体なら、こういうパッケージがあり得ますよ」と提案し、ニーズに応えつつ、シェアを広げていこうというものです。
―― 「共創の舞台」と「パッケージング&パワーソリューションセンター」という2つの拠点の意義を教えてください。
真岡 この2つは、われわれの事業を支える両輪です。それぞれ役割が全く違うんですが、両方が揃って初めて、会社としての成長ストーリーが描けるようになります。
共創の舞台という拠点は、半導体だけを見ているわけではなくて、その先にある市場、つまり半導体が使われる産業の変化まで視野に入れて議論する場で、参加企業も多種多様です。異業種はもちろん、半導体とは直接関係のない領域の専門家も参加しています。
なぜ先を見ているかというと、半導体の需要というものは、社会がどう変わるかを占うバロメーターだと考えているからです。AIがどう普及するのか、クラウドの構造がどう変わるのか、自動車産業がどう電動化・自動化していくのか。こうした変化を読み解かないと、材料メーカーとしてどの領域に投資すべきか判断できない。だからこそ、共創の舞台という拠点では、未来の産業構造を俯瞰しながら、どこで勝負すべきかを議論するわけです。
一方で、パッケージング&パワーソリューションセンターは、もっとフォーカスが絞られています。こちらは半導体パッケージの技術課題を、実際に手を動かしながら解決していく場です。われわれが主導するコンソーシアム活動を通じて、材料と装置の組み合わせを検証したり、次世代パッケージの試作を行ったりする。つまり、共創の舞台が〝未来の方向性を決める場〟だとしたら、パッケージング&パワーソリューションセンターは〝その方向性を具体的な技術に落とし込む場〟なんですね。
この2つが連動することでわれわれは、未来を読みながら、技術を先回りして準備することができるようになります。これは材料メーカーとして非常に重要で、半導体の世界は技術の変化が速いので、後追いで開発していたら絶対に間に合わない。だからこそ、共創の舞台で未来を読み、パッケージング&パワーソリューションセンターで技術を磨き、JOINTという企業連合を通じて標準化を進める。この一連の流れが、われわれの競争力の源泉になっているわけです。
さらに言えば、共創の舞台は、外部との接続点でもあります。異業種の知見を取り入れたり、顧客の未来戦略を理解したりすることで、レゾナック自身の視野が広がる。
パッケージング&パワーソリューションセンターは内部の技術力を深める場でもあります。材料科学の蓄積、装置メーカーとの連携、試作ラインの運営など、技術的な深さを追求します。
この広さと深さの両方を持っている材料メーカーは、世界でもほとんどありません。
成長戦略は自走で材料分野の中核として
―― 政府が後工程支援を強化する中、どのような成長戦略を描いていますか。
真岡 これまで半導体政策というと、どうしても前工程、つまりロジックやメモリの製造にフォーカスされがちだったのですが、AI時代に入ってからはパッケージの性能が最終的な半導体の性能を決めるという構造がはっきりしてきました。だからこそ、後工程を国家戦略として支援するという流れは、非常に合理的だと思っています。ただ、われわれとしては政策の有無にかかわらず、とにかく市場で勝つということを一貫して目指しています。政策はあくまで追い風であって、競争力の源泉は自分たちの技術と事業構造にある。ここはぶれずにやっていくつもりです。われわれの強みは、銅張積層板、NCF、TIM、有機インターポーザー、封止材、ソルダーレジスト絶縁接着フィルムなど、後工程で必要とされる多くの材料を幅広く持ち合わせていることです。
後工程の世界はこれからますます高性能なものが求められます。AI半導体の材料はどんどん複雑になり、装置との組み合わせを事前にしっかりと検証しておかないと、顧客の量産ラインでトラブルを起こしてしまう。
われわれの成長戦略の中心は、不可欠性の高い材料を提供し続けることにあります。AI時代の半導体は、材料の力で性能が決まる。だからこそ、材料メーカーとしての責任は非常に重いですし、逆に言えば大きなチャンスでもあると捉えています。
われわれは半導体パッケージの未来を支える企業であり続けたい。政策があろうとなかろうと世界の技術標準をつくり、不可欠な材料を提供し続ける。そのために必要な投資は、これからも積極的に行っていくつもりです。