東京・小平にベテラン技術者らで構成される、半導体の設計図などを販売するIP企業、フローディアがある。熟練技術に裏付けられたアイデアでTSMCなど数社のプラットフォームにIPを登録。さらにAI時代を見据えてフラッシュメモリにデータセンターとしての機能を加味したデバイスの開発は最終段階を迎える。奥山幸祐社長に聞いた。Photo=横溝 敦(雑誌『経済界』2026年11月号より)

奥山幸祐 フローディアのプロフィール

奥山幸祐 フローディア
フローディア社長 奥山幸祐
おくやま・こうすけ 1954年山形県生まれ。山形工業高校卒業後、日立製作所に入社。その後ルネサスエレクトロニクスに移籍、半導体事業で38年間の経験を積んだのち、2011年に株式会社フローディアを設立、現在も社長を務める。

フローディアの由来 震災後の船出から15年

―― 社名「フローディア」の由来を教えてください。

奥山 社名は Flash On All Media の略で、「すべての機器に私たちのフラッシュメモリを搭載する」という創業時の理念を端的に表しています。創業メンバー7人で社名のアイデアを出し合い最終的に「フローディア」になりました。

 この社名には、単なる技術提供企業ではなく、世界中のあらゆる機器の中で、私たちの技術が動作し続ける未来を作るという思いが込められています。

 創業時から現在まで、社名は私たちの方向性を示すフラッグシップであり、技術者としての誇りと使命感を象徴する言葉になっています。

―― 創業は東日本大震災後の4月25日でした。なぜそのタイミングだったのでしょうか。

奥山 震災後でしたが「予定通りやろう」と全員で協議し決断しました。今起業しなければ間に合わないという思いからでした。

 創業準備は、公民館に集まり、紙とペンだけで議論するところから始まりました。半導体の未来、日本の技術者の役割、そして自分たちが何を残すべきかを真剣に話し合いました。最年長のメンバーが昨年亡くなりましたが、それ以外のメンバーは創業から15年以上にわたり同じ方向を向いて事業を進めています。

―― 主要な事業モデルである「フラッシュメモリIP」とは何ですか。

奥山 私たちは、顧客のLSIチップ上に搭載する不揮発性メモリに関する技術を知的財産(IP)として提供しています。IPには、回路図だけでなく、製造方法、動作原理、信頼性の確保、テスト方法など、半導体製造とそれを動作させるために必要な総合的なノウハウが含まれています。

 半導体産業は設計(ファブレス)と製造(ファウンドリ)が分業されています。設計はファウンドリのプラットフォームの棚に備え付けられている多くの種類のIPを結合して回路を構成します。私たちはそこに使われるIPの開発・ライセンスを担っています。

―― IPライセンスの収益構造を教えてください。

奥山 収益は設計ライセンス料と製造ロイヤリティの2段階で発生します。設計段階では初期収入が入り、量産が始まるとウエハーー枚数に応じてロイヤリティが継続的に入ります。

 ロイヤリティは製品が売れ続ける限り発生するため、半導体IP企業は長期的に安定した収益を得られる構造を持っています。

 ただし、量産までには数年かかるため、短期で収益が出るモデルではありません。IPが認知されて採用されるまでの期間と共に採用後の設計→試作→評価→量産→ロイヤリティという長いプロセスを経る必要があり、われわれも創業から10年以上は投資フェーズにとどまっていました。

 2026年に初めて黒字化できる見通しですが、複数のファウンドリで量産が始まり、ロイヤリティ収入がようやく期待できるためです。

―― 日本には半導体IP企業が少ないのはなぜでしょうか。

奥山 日本は長年、垂直統合型の製造中心の産業構造だったため、無形資産であるIPの価値が理解されにくかったことが理由です。

 製造設備を持ち、設計から販売まで1社で行うモデルが主流だったため、「設計図だけを売る」という発想が根付かなかったのです。IPは長期の投資が必要で、短期で収益を求める企業文化と相性が悪い面もあります。

 量産までに平均して数年かかるため、短期的な成果を求める経営環境では投資判断が難しいのです。さらに、IPは目に見える製品ではなく、評価が難しいため、投資家からも理解されにくいという課題もあります。

TSMCからも引き合い 極小データセンター開発も

―― TSMCをはじめとする世界有数のファウンドリから評価される理由は何ですか。

奥山 われわれの主力IPであるG1は、TSMCの製造工程への導入を完了しています。

 最大のメリットは既存のプロセス(シリコンウエハー上に半導体集積回路を作り上げていく工程)をほぼ変えずに組み込める点です。

 一般的に半導体製造では不揮発性メモリを追加すると熱負荷が加わり、不揮発性メモリ以外のデバイスの特性を変えてしまい、良品率を示す歩留まりが低下するリスクがあります。

 そのため、ファウンドリは既存のプロセスを変えずに組み込めるIPを強く求めていて、われわれのIPはそれに応えるものになっていると考えています。

―― G1/G2はどのような製品に使われていますか。

奥山 G2はまだ開発中ですが、G1は車載向け制御チップが中心です。エアコンの吹き出し口の自動調整、モータードライバ、車載センサーの制御など、小さな動きを賢く制御する領域で使われています。

 車載半導体は高温・高電圧環境で動作するため、信頼性が非常に重要で、われわれのG1/G2は、車載向けチップのプロセスとの相性が良く、さまざまなファウンドリに採用いただいています。

―― 開発中のコンピューティング・イン・メモリー(CiM)とは何ですか。

奥山 その名の通り、CiMは記憶装置としての半導体メモリが高度なコンピュータとして演算も行うことができるという技術です。例えるなら人間の脳のシナプスのような半導体メモリで、微小な電流で演算できることが特長です。

 現在主流となっているAI演算は演算に必要なパラメータをDRAMに保存しておき、ロジック回路からなるGPUで演算する度にDRAMとGPUの間でデータ転送する必要があります。このデータ転送に多くの電力が消費されると共にGPU演算でも電力消費されます。CiMでは不揮発性メモリセルそのものにパラメータを保存しておき、このメモリに演算に必要な微小な電流を流すだけで演算が完了するため、データ転送がほぼ不要になると共に演算そのものも微小な消費電力で行えます。これにより、AI需要で過熱している、データセンターの電力消費を1千分の1にできる可能性があります。

―― CiMはどの領域で最初に普及すると考えていますか。

奥山 AIによる推論の領域を想定しています。AIの学習は巨大なデータセンターを通じて行われますが、推論は小型デバイスで行う時代に入っています。

 CiMは推論に最適で、スマホや車載コンピュータ、ロボット、IoTデバイスなどがクラウドに依存せずに高度なAI推論を可能にします。 推論は学習に比べて計算量が少なく、リアルタイム性が求められるため、低消費電力で高速なCiMが非常に適しています。特に車載や産業機器では、クラウドに依存しないローカル推論が求められるため、CiMの需要が高まると考えています。

 AI演算のためのデータセンターがありますが、これを手のひらサイズにすることを想定しています。

―― 手のひらサイズのデバイスの実現は可能なのでしょうか。

奥山 推論に限定すれば可能です。現在はクラウドで行われているAI推論を、小型デバイスに置き換えることができます。手のひらサイズのAIデバイスは、産業機器や医療機器、ロボットなど、クラウドに依存しないローカル推論が重要な領域で強みを発揮できるよう、開発に取り組んでいます。

台湾の若手とベテランで売り上げアップ目指す

―― 台湾にある拠点の役割を教えてください。

奥山 台湾に拠点を置き、20人の技術者が主に設計業務を担当しています。台湾の拠点は、われわれのIP設計の中心的な存在になっていると言っても過言ではありません。

 台湾は半導体人材が豊富で、TSMCをはじめとするファウンドリが集中しているため、技術調整などのコミュニケーションを非常に迅速に行うことができるのです。

 日本の本社ではアーキテクチャ設計、信頼性設計、プロセス開発など、半導体IPの根幹を担い、台湾拠点では実装・回路設計・スピード重視の開発を担います。

 この2拠点体制による設計、IP製造が、われわれの競争力の源泉です。日本の50代から70代のベテラン技術者が長年培ってきた深い知識と経験、台湾の若いエンジニアたちの柔軟性とスピード感が掛け合わされることで、品質と開発速度の向上を両立できると考えています。

 台湾の拠点は中国市場へのアクセス拠点としても機能しています。中国はファウンドリの数が多く、車載・産業機器向け半導体需要が急増しています。台湾に拠点があることで、中国ファウンドリとの技術調整や営業活動がスムーズに進み、グローバル展開が加速しています。

―― 30年に50億〜60億円の売り上げを目指す理由は何ですか。

奥山 われわれがIP企業として成長曲線が本格的に立ち上がるタイミングとみているからです。

 半導体IPのビジネスモデルは量産フェーズで売り上げが指数関数的に伸びるという構造を持っています。

 複数のファウンドリで量産が進むと、ロイヤリティ収入が継続的に増え、売り上げが急速に伸びます。

 現在、複数のラインで量産に向けたIP登録が始まっており、27年から30年にかけてさらにラインが増える見込みです。

 われわれは現在、量産フェーズの初期段階にあり、今後数年間で大きく成長すると見ています。さらに、CiMの実用化が進めば、AI推論向けの新しい市場が伸びていくとみています。

 CiMを活用して、低コストで高性能なAIデバイスを実現することを目指しています。

―― 日本の半導体復権のカギはどこにあるでしょうか。

奥山 日本は半導体を作る国から半導体を支える国へと役割を変えつつある中で、長年蓄積してきた技術力が半導体産業を下支えしています。

 重要なのは、世界シェアを日本が多く占める材料と製造装置という領域での強みを生かさない手はないということです。

 日本の強みをさらに伸ばして、新たな領域に技術力で進出していくことで、日本の半導体は再び存在感を発揮できると思います。

 われわれもその一端を担い、日本の半導体産業の未来を切り開いていきたいと考えています。

主力IPのG1は高いデータ保持が特徴(フローディアHPより)
主力IPのG1は高いデータ保持が特徴(フローディアHPより)