半導体産業の復権を富国強兵になぞらえる、自民党半導体戦略推進議員連盟事務局長の関芳弘氏。経済安全保障、地政学リスク軽減の観点から、先端半導体を日本が自前で製造できる体制を整えるべく議員連盟を立ち上げた。日本の半導体業界復権に向けて政治は何ができるのか。銀行マン出身の異色な議員が見据える日本半導体の行く末とは。(雑誌『経済界』2026年11月号より)
関 芳弘 自民党のプロフィール
せき・よしひろ 1965年6月7日徳島県生まれ。関西学院大学時代には松下政経塾に合格するも父親の反対で入塾はせず、卒業後は住友銀行(現・三井住友銀行)に入行。 2005年の第44回衆議院議員総選挙で、自民党公認として兵庫3区から出馬し初当選。以降7期。21年から現職。
リスクを取り再スタートへ 議連を立ち上げた思い
―― 日本が国内で守るべき半導体領域と、海外連携で補うべき領域の線引きについて、どのようにお考えですか。
関 2021年夏、自動車業界が半導体不足で工場停止に追い込まれた際、国外から調達するしかない半導体を日本産で作っていかないといけないと痛感しました。
ラピダスについて当初は「本当に2ナノ半導体製造ができるのか」と思ったほど、チャレンジングな計画だと思っていました。しかし、日本初のロジック半導体製造にあえて挑むことは、日本が半導体で再びスタートラインに立つことができる数少ない機会だと判断し、ラピダスへの支援を決めました。
―― ラピダスには数兆円規模の投資が行われていますが、妥当性は。
関 TSMCなどのファウンドリ(受託製造)は独占的な技術を用いているために参入企業が限られますし、1社独占によるリスクも存在します。だからこそ、ラピダスが世界最高峰の技術を完成させるまで、政治が財源確保と技術者体制の構築を支え続ける必要があります。
国の投資も高市政権が打ち出している17の成長戦略分野に、40年度までに370兆円規模の投資を行っていくとしていますが、莫大なコストがかかる半導体分野では、戦略的な投資をしていかないと、いくら投資しても足りなくなるでしょうし、いかに政策の整合性をとっていくのかというところの議論を常に深めていく必要があると思います。
―― ラピダスの勝ち筋はどこにあると考えていますか。
関 すでに日本で稼働しているTSMCと正面から勝負してもかないません。ラピダスが取るべき戦略は、多品種少量のカスタマイズ半導体の製造です。
生成AI、ヒューマノイド、ドローン、自動運転など、用途ごとに半導体のカスタマイズ需要が急増しています。
ラピダスは枚葉式というシステムを採用し、多品種少量に強い体制を整えています。まずはこの領域で実力をつけ、徐々に生産効率を高めていくことが勝ち筋だと考えています。
―― 21年に自民党有志の半導体戦略推進議員連盟を立ち上げた経緯を教えてください。
関 元々は銀行マンで、政治家になっても企業を応援し続けたいと考えていました。21年にバイデン大統領が就任した際、菅義偉総理(当時)だけに直接告げられた話がありました。米国が中国の技術追随に対し、単独では対応できず、日本とともに半導体の最先端分野を守る必要があるという話だったと聞いて、国家の命運をかけて何が何でもやるべき事業だと確信しました。
甘利明さんに相談したら「議連を作ろう」ということになり、甘利さんに会長に就任してもらい、私は事務局長を務めることになりました。
その年に経済安保関連の法律も成立し、あまりのスピードの速さに米国も「日本は半導体に本気だな」と驚いたと思います。
AI時代の日本半導体 産業革命としての危機感を
―― 日本の半導体装置・材料メーカーの競争力を維持するために必要なことは何でしょうか。
関 最終製品の半導体では日本は存在感を失いましたが、その製造を支える装置・材料の技術は世界最高峰として残り続けており、これは日本の産業構造の中でも、国家安全保障上の不可欠性を持つ領域だと考えています。
半導体のサプライチェーンは、どこか1つの工程が欠けてしまったら成り立ちません。日本企業が担う装置・材料の領域は、まさにその根幹の部分であり、ここを失うことは日本の産業基盤そのものを揺るがすことになります。
だからこそ、政府としては、ラピダスやTSMCだけに資金を投じるのではなく、装置・材料メーカーにも継続的に財政支援を行い、技術革新を後押しする必要があると考えています。
半導体は日進月歩で進化していきます。装置・材料もそれに合わせて常にアップデートしなければならず、研究開発投資の負担は非常に大きいものです。こうした課題にも対応できるよう、政府が支援を総合的に行うことが不可欠だと考えています。
―― 自動車・ロボティクス・AIなどの新領域の産業と半導体をどう連携させるべきでしょうか。
関 半導体は最終製品と結び付いて初めて価値を生み出します。自動運転が進めば事故は減り、高齢者も車を手放さずに済みます。ロボットは労働力不足を補い、人間らしい生活を取り戻す助けになります。
最終製品メーカーがこんな製品を作りたいと夢を語り、それを実現するために半導体業界へ要望できる循環システムをつくることが重要です。
―― 10年後、日本の半導体産業はどんな姿を目指すべきでしょうか。
関 ラピダスが2ナノ半導体領域へ挑戦し、TSMC熊本が量産拠点として立ち上がり、さらに40ナノ領域を支える企業群が国内に存在する。これは、世界でも類を見ない日本独自の強みです。
10年後に目指すべき姿は、こうした日本の強みをさらに強固にし、経済安全保障上の不可欠性を確保し続けることです。
最先端領域ではラピダスが量産まで到達し、世界のファウンドリの一角として確固たる地位を築くこと。
中堅領域では国内企業が自動車・産業機器・ロボティクス向けの半導体を安定供給し、日本の製造業全体を支えること。
そして装置・材料では、世界シェアを維持しつつ、次世代技術に向けた研究開発を継続することが重要です。
―― 日本の半導体が再び世界で存在感を取り戻すためには何が必要でしょうか。
関 最も重要なのは、日本全体が今は半導体による産業革命の真っただ中にいるという危機感を共有することだと考えています。
生成AIの登場は、これまでの産業構造を根本から変えるものであり、電力・データセンター・半導体の3つの分野で激しい開発競争が進んでいます。
この状況下で、日本が再び存在感を取り戻すためには、国民・企業・政府が総力戦で取り組むことが不可欠です。
企業は大胆な投資を行い、政府は財源確保と制度設計でそれを支え、大学は技術者育成を強化する。これらが一体となって初めて、日本は世界の最先端に到達することができます。
半導体は単体では価値を生みません。自動車、ロボティクス、AI、医療機器など、半導体産業と連携し、出口戦略を同時に進めることが重要です。
半導体を制するものは世界を制する。この認識を国民全員が共有し、考え続けていくことが重要だと考えています。