半導体アナリストの大山聡氏は、東京エレクトロン、富士通、証券アナリストと経験し業界分析にハイブリッドな視点で切り込む。その大山氏が日本半導体復権のカギとして注目するのは、前・後工程の良さを併せ持つ、中工程だ。この新たな工程で存在感を発揮し装置・部品メーカーと組めば日本独自の強みとなるという。大山氏に復権への解を聞いた。Photo=横溝敦(雑誌『経済界』2026年11月号より)
大山 聡 グロスバーグのプロフィール
おおやま・さとる 慶應義塾大学大学院管理工学科を修了後、1985年に東京エレクトロン入社。96年から2004年までABNアムロ証券、リーマンブラザーズ証券などで産業エレクトロニクス分野のアナリストを務めた後、富士通に転職、半導体部門の経営戦略に従事。10年よりIHS Markitで、半導体をはじめとしたエレクトロニクス分野全般の調査・分析を担当。17年10月から現職。
キオクシアの課題とは メモリ価格高騰の影響は
―― メモリで世界シェアトップクラスのキオクシアの課題は。
大山 一番の課題は、DRAM(ダイナミック・ランダム・アクセス・メモリ)を自社で製造していないことです。メモリの1種であるSSD(ソリッドステートドライブ)には、DRAMが必要で、サムスン、SKハイニックス、マイクロンテクノロジーはDRAMを自社で持っているため、SSDを作る際に自前で調達できます。
キオクシアは台湾のナンヤ・テクノロジーに出資し、DRAMを調達していますが、供給の安定性には不安が残ります。DRAMを自社で持っていないことは、事業構造上の大きなリスクであり、今後の競争力にも影響するでしょう。
―― 日本政府のキオクシアへの関わり方をどうみていますか。
大山 2023年に投資ファンドのベインキャピタルがキオクシアを、アメリカのウェスタンデジタルに2兆円で売却するという話が進んでいました。
日本政府は容認していましたが、最終的に、この案件の特別目的会社の主要な出資社である韓国・SKハイニックスの反対で白紙になったと報道されました。
しかし私は実際には、中国政府との交渉が決裂して、しかもそれを公にできないため、アメリカ政府がSKハイニックスにすべての責任を押し付けたのだと推察しています。結果的にSKハイニックスが反対したとされたことでキオクシアは日本企業として残り、東証に上場し、時価総額でトヨタを超えました。
―― 半導体のメモリ価格高騰が続いていますが、今後どうなりそうですか。
大山 このままメモリ価格高騰が続くと、結果的にパソコンもスマホも製造できなくなってしまいます。
IDC(インターナショナル・データ・コーポレーション)はPC・スマホの出荷が今年は台数ベースで10%以上減ると予測していますが、私は15%減ってもおかしくないとみています。この価格高騰は異常事態そのもので、来年まで続かない可能性もあります。
そうした中で気になるのは、韓国向けの半導体製造装置の出荷が伸びていないことです。価格が200から300%上がっているのに、装置の出荷は前年比20から30%増にとどまっています。
価格高騰は需給バランスにも影響を及ぼしますが、反比例して装置の出荷が全然盛り上がっていない。
メモリシェアで世界トップの韓国勢が高騰を容認しているのではないかと考えてしまいます。
中工程をさらに伸ばし 復権への勝ち筋を描け
―― 日本の製造装置・材料メーカーの現状をどう見ていますか。
大山 製造装置の市場は急激な変動は起きにくいものの、競争力を維持する努力は必要で、今後特に注目すべきは「中工程」です。半導体の回路を製造する前工程と半導体を組み立てる後工程との中間の工程のことで、役割の異なる半導体チップを組み合わせる技術で、従来の微細化とは異なる領域として、一部のメーカーで開発が進められてきました。ディスコやTOWAはこの中工程で世界的に評価が高く、注目されています。
材料ではレゾナックに期待が集まっています。旧日立化成と昭和電工が統合し、経営陣も刷新され、企業文化を大きく変えようとしています。
材料メーカーは半導体向けの材料だけではなく、化学技術など多岐にわたる分野を扱っているため、装置メーカーとタッグを組むことで、さらなる日本勢の強みとなるでしょう。
―― 日本は海外の半導体メーカーとどう連携すべきでしょうか。
大山 TSMCのようなファウンドリと組む場合と、インテルのようなブランドメーカーと組む場合は、連携の意義を分けて考える必要があります。ブランド同士がぶつかると、日本企業はブランド力で劣るため不利になります。
キオクシアが一矢報いましたが、業界全体としては日本の半導体ブランド力がまだまだ弱いのが現状です。
政府は補助金で半導体産業の復興を進めていますが、なぜ日本の半導体産業が衰退したのか、という理由が十分に把握できておらず、民間企業の冷めた姿勢とのギャップが埋まっていません。ここをどう解消するかが、日本の半導体復権の鍵になると思います。
―― ラピダスの勝ち筋をどう見ていますか。
大山 ラピダスの勝ち筋は、五分五分だとみています。私は当初、政府が主導する形のラピダスの設立に対して懐疑的でしたが、小池淳義社長から直接呼ばれて対談し、ラピダスへの熱意に触れました。
さらに東京エレクトロン時代の上司である東哲郎会長からも「応援をよろしく頼む」と言われたこともあります。
ラピダスは現在、当初のスケジュールを予定通りこなしており、顧客候補の中には、アメリカのブロードコム、テンストレントなども含まれているはずです。歩留まり(良品率)が鍵ですが、ここまできた以上、成功させるしかありません。
―― 日本がAI時代に担うことができる現実的なポジションはどこでしょうか。
大山 GAFAMを頂点とするピラミッド構造の中で、日本が存在感を示すことができるのはキオクシアと装置・材料メーカー数社です。デバイスメーカーであるラピダスが1社加わったのは大きいですが、それだけでは不十分です。
そこでカギになるのは、日本の電子部品メーカーです。電子部品は半導体と構造が似ており、技術的な親和性も高い。村田製作所、TDK、京セラなどの電子部品メーカーは世界トップクラスの電子部品技術を持っています。そうした技術をもっと半導体に振り向けるべきなのです。
―― 日の丸半導体復権に向けて、求められるものは何でしょうか。
大山 日本が半導体で復権するためには、装置・材料・デバイス、そして電子部品も加わった総合力が欠かせません。
かつて栄華を極めた日本の伝統的なメーカーは、半導体事業を会社の一部門として抱えていましたが大規模な投資、費用対効果の悪さなどがネックとなり、大手電機メーカーのほとんどが半導体事業から撤退してしまいました。
こうした状況下で、新しい旗振り役として、私はあえてソフトバンクグループ会長兼社長の孫正義さんの名前を挙げたいと思います。孫さんは自身のAI化構想を温め、インテルやアームなどに投資してきた実績があります。
日本の半導体産業を復権させるには、グローバルな影響力を持つ孫さんのような経営者の発信力が必要です。孫さんは、グローバルな発信力があり、アメリカにもきちんとモノが言えるし、世界に対して日本の半導体の強みをプレゼンできると思うのです。