有効求人倍率が0.47倍を記録したのは2009年のことだった。仕事を探す2人に1人が見つからない恐ろしい社会だ。それが今では1倍を大きく超えるのだから、恵まれた時代ということもできる。しかし、その一方で人手不足のしわ寄せが零細企業だけでなく国家経済全体にまで及ぼうとしている。(雑誌『経済界』2026年12月号より)
1年前より3割増えた 人手不足が理由の倒産
人手不足が叫ばれて久しい。政府もそれなりの手は打っているものの、不足感は日々強まり、すでに単なる「採用難」の段階を越えつつある。仕事はある。需要もある。しかし、それを担う人材がいないために受注できない。店舗を開けられない。工事を請け負えない。新しい事業やプロジェクトを計画しても、人材を確保できずに規模を縮小する。「人がいないために成長できない」という構造的な問題が常態化しつつある。
厚生労働省によると、2025年の平均有効求人倍率は1・22倍だった。求職者1人に対して1・22件の求人がある状態。1倍を超えるのが当たり前と思ってはいけない。バブル崩壊後から2000年代までは1倍以下の時代が続き、1999年には0・48倍を記録している。それがここ10年で様変わりした。
もっとも、有効求人倍率だけでは人手不足の実像は捉えきれない。重要なのは、企業が実際にどれだけ人材不足を感じているか、である。
帝国データバンクの調査によれば、2026年7月時点で正社員が不足していると回答した企業は51・3%。非正規社員については28・8%で、約3割の企業が不足を感じている。
中でも深刻なのが建設、運輸、介護、外食など、人そのものがサービスや生産活動の基盤となる業種だ。
厚生労働省の分析でも、24年の有効求人倍率は全職業で1・25倍だったのに対し、サービス職業従事者は2・68倍、輸送・機械運転従事者は2・30倍、建設・採掘従事者は5・79倍に達している。そのため建設関連企業から「工事案件はあるが、人を集めることが困難で、受注したくてもできない」という声が聞こえている。人手不足が企業の供給能力に制約をかけているということだ。
企業が人手不足によって受注を断れば、その仕事は別の企業に流れるとは限らない。その企業も同じように人材確保に苦労しているからだ。結果として、工事が遅れ、物流が滞り、店舗やサービスの営業時間が短縮され、新たな設備投資や事業計画にも影響する。つまり「失注」は企業単位の問題ではなく、本来生み出されるはずだった付加価値が生み出されないという意味で、日本経済全体の成長率を押し下げる要因となっている。
実際に、人手不足だけが原因のすべてではないが、日本全国でさまざまなプロジェクトが中止や延期に追い込まれている。「人さえ確保されれば、もっと事業が拡大できるのに」と嘆く経営者も多い。高市政権は成長戦略を掲げ、官民合わせて370兆円の成長投資を行うとしているが、いざ現場が動かなくては絵に描いた餅で終わってしまう。
さらに深刻なのが、人手不足を原因とする倒産の増加だ。やはり帝国データバンクの調査によると、25年度の人手不足倒産は441件と、前年の350件の1・3倍となり、年度として初めて400件を超えた。過去最多を更新したのは3年連続となる。
業種別では建設業が112件と最も多く、物流業も55件と過去最多。他には老人福祉事業、労働者派遣業、美容業、警備業など、労働集約型産業で人手不足倒産が増えている。
しかも規模の小さい企業ほど影響を受けている。441件の人手不足倒産のうち、77%が従業員10人未満の小規模企業だった。賃金や福利厚生などの面で人材獲得競争に不利な中小・零細企業ほど、人手不足が経営そのものを揺るがしている。
また従業員や経営幹部の退職を原因とする「従業員退職型」も増えている。採用できないだけではなく、社員が定着しないために会社が回らないという段階に入っている。
この人手不足問題は改善する見通しがまるでない。少子高齢化のペースは今後ますます加速するからだ。
現在、日本の人口は毎年90万人減っている。このままいくと、間もなく1億2千万人という大台を割り込む可能性が高い。そして労働力に直接つながる生産年齢人口(15~64歳)は1995年をピークに減少しており、今後25年間で3割近く減少する。これまでは、女性の社会進出と、高齢者の再雇用などでその穴を埋めてきたが、それも限界に達している。外国人労働者を増やすという選択肢もあるが、日本社会には外国人アレルギーが強く(38ページ参照)、容易なことではない。また、円安と低成長により日本の賃金が相対的に諸外国より低くなり、日本離れを招いている。
これまで現場を支えてきた熟練労働者の高齢化・引退も今後さらに進むため、単純に若者を採用すれば解決するわけではない。経験や資格、技能を必要とする仕事が多く、一人前になるまでに時間がかかるからだ。
AIやDXにより、生産効率を上げることは可能であり、実際、多くの企業が取り組んでいる。しかし間接業務の効率化には有効だが、現在、人手不足に苦しんでいる業界は、その多くが人手により成り立っている。いずれフィジカルAIが普及すれば代替可能かもしれないが、明日すぐにそんな社会が訪れるわけではない。
新陳代謝を是ととらえ 次の成長へのチャンスに
では打つ手はあるのだろうか。
もちろん賃上げは重要だ。実際、人材獲得競争が激しくなるなかで、大企業を中心に賃上げが進んでいる。しかし、中小企業にとっては賃上げそのものが新たな経営負担になる。その人件費を確保するためにも、徹底した省人化・自動化が必要だ。AIやロボット、業務システムなどを活用し、1人当たりの生産性を高める必要がある。これにより人間にしかできない仕事へ人材を集中させる。
ある意味で当たり前のことを当たり前にやる。そしてそれができない企業は淘汰される。残酷だが、それにより新陳代謝を「是」として個別企業が努力を続ける以外にない。逆にいえば、この人手不足危機を乗り越え、淘汰の海を泳ぎ切ることができれば、競争相手が減った分だけチャンスもある。その意味で、今は次の成長のための絶好の機会と言えるかもしれない。
本特集では、人手不足の代表ともいえる、ホテル、物流、建設、外食、医療・介護業界の現状をレポートする。同時に、この厳しい環境を乗り越えるために新たな挑戦に取り組む企業を取り上げる。本特集が人手不足に苦しむ経営者・社員の参考に、少しでも役に立てば幸いだ。