労働集約型の象徴のようなホテル業界。ほとんどの業務を人手に頼らなければならない。その一方で、以前から人材獲得に苦労してきた歴史があるために、人手不足の影響をもっとも受けやすい。そこで各社がこぞって取り組んでいるのが省人化。それが進んだ結果、客から見るホテルの風景も変わってきた。(雑誌『経済界』2026年12月号より)
人手不足のために一部の施設を閉鎖
「インバウンドは今年も4千万人を超えそう。お客さまはいくらでもいる。部屋さえあれば必ず埋まる。だけどホテルを建てることができない。みすみすチャンスを逃している。歯がゆくてしかたがない」
こう話すのは大手ホテルチェーンの経営者だ。
コロナ禍で人流が止まり、大きく売り上げを落としたホテル業界は、訪日外国人観光客の急増などを背景に急速な回復を遂げている。インバウンド数を見ればそれは一目瞭然だ。
2019年3188万人が20年には412万人に。21年はどん底の25万人、22年も383万人と低迷が続くが、コロナ禍が明けた23年に2507万人と急回復。24年には3687万人とコロナ前を上回り、昨年は4268万人とついに4千万人の大台を超えた。今年は日中関係の悪化から中国人観光客減少の影響があるものの、それでも4千万人は超えると見られている。
それもあって、日本国内でホテル建設が相次いでいるものの、最近では思うようにホテルが建てられない状況となっている。資材高などがその要因だが、それとともに人手不足によってスケジュールに大きな遅れが出ることが相次いでいるためだ。
その代表とも言えるのが帝国ホテル東京本館。帝国ホテルは22年に、36年までに本館を建て替えると発表したが、スケジュールの見通しが立たなくなったため、今年5月、計画をいったん白紙化せざるを得なかった。これも人手不足の悪影響のひとつだ。
そのため、最近では経営不振のホテルの買収や、運営権の取得が相次いでいる。建てることができないなら、既存ホテルを手に入れ、テコ入れすることで収益を拡大しようというわけだ。ある意味、人手不足対策の一環だといえる。
このように、部屋さえあれば客は来る。ただしだからといって、ストレートに収益に結び付くわけではない。これもまた人手不足の影響だ。
ホテルはフロント、客室清掃、調理、レストラン、設備管理など、多くの業務を人手に依存する労働集約型産業だ。客室が埋まれば埋まるほどスタッフの仕事量も増えるため、宿泊需要が急回復した現在、人材不足がホテルの営業そのものを制約するケースが出ている。空室はあるものの、スタッフが足りないため一部を閉鎖する、というのもよくある話。またレストラン部門でも同様だ。一部の部屋が稼働できないから売り上げは伸びない。その一方で、スタッフの人件費は上がり続けている。それがさらに収益を圧迫する。
特に深刻なのが地方のホテルや旅館だ。帝国データバンクによると、25年の宿泊業の倒産は89件と前年の78件から14・1%増加した。さらに休廃業・解散も178件発生し、合わせて267の宿泊事業者が市場から退出した。倒産・廃業の75・3%、つまり4分の3は三大都市圏以外の地方で発生している。収益が上がらなければ設備投資もできない。老朽化した施設の修繕負担だけではなく、生産性を上げるためのDX投資も難しい。これでは競争力を失ってしまう。
加えて、インバウンド客の増加によって求められるサービスの水準も上昇している。例えば多言語対応。リピーターになったインバウンドは、東京や京都だけでなく、地方にも足を伸ばす。彼らへの接客、食事や観光情報を提供するには外国語の使えるスタッフが不可欠だが、そうした人材を確保するには賃金をはずまなければならない。採用しなければインバウンド客は来ず、採用すればコストがかさむ。そのジレンマに多くのホテル経営者が苦しんでいる。
多くのホテルで進む「変なホテル」化
もともとホテル業界は人材確保の難しい業界だ。最近では改善しつつあるとはいえ、賃金は安く、休みは取りにくく夜勤もある。そのためせっかく採用しても定着率が悪い。
この状況はコロナ前でも一緒だが、コロナを機に多くのホテル・旅館がパートやアルバイト社員を解雇した。その後、需要が回復したため呼び戻そうとしても、彼らの多くが新しい勤務先、新しい業種に残ってしまう。これが人手不足に拍車をかけた。宿泊施設関連協会の調査では8割のホテル・旅館が「人手不足」と回答したほか、有効求人倍率は平均を大きく上回る2・5倍だ。
人が採用できないのなら、人がいなくても運営できる仕組みにしなければならない。そこでホテル各社は、業務の省人化に必死になって取り組んでいる。
旅行会社のエイチ・アイ・エスが「変なホテル」1号店をハウステンボス内にオープンしたのは14年のこと。変なホテルの最大の特徴は、フロント業務や荷物の運搬をロボットで代用しているところだ。12年前では画期的だったが、現在ではITやAIを駆使して、省人化するのは当たり前になっている。
その代表格とも言えるのが、次ページで元谷一志社長がインタビューに答えているアパグループだ。
アパでは自動チェックイン機を早くから導入してきたほか、スマートフォンで事前に手続きを済ませ、二次元バーコードをかざすだけでチェックインできる「1秒チェックイン」を展開している。チェックアウトについても、ルームカードキーを専用ポストに投函するだけで処理が完了し、その情報を清掃スタッフのスマートフォンにリアルタイムで伝える仕組みを導入している。単にフロントスタッフの仕事を減らすだけではなく、チェックアウト情報を清掃スタッフに即時伝達することで、空室になった部屋を早く清掃し、次の顧客に販売できる。省人化と同時に客室稼働率や収益性の向上にもつながる。
老舗ホテルでも取り組みが進む。例えばホテルオークラが運営するオークラアクトシティホテル浜松では、新たな通信システムを導入している。同ホテルは超高層・大規模ホテルのため、客室・宴会場・ダイニングなどの主要機能が縦方向に広がる構造を持つ。そのため、フロアをまたぐ移動や部門間連携が多く、非効率化につながっていた。そこで小型の通信デバイスを導入し情報を共有することでスムーズな連携を目指している。このような取り組みを多くのホテルでも行っている。それでも人材不足は埋まらない。
付け加えるならば、ホテル本体では人材が確保できても、清掃などのアウトソーシング部分での人手不足はさらに深刻だ。ホテルの人手不足解消はそう簡単なものではない。その中で生き残り、勝ち残るのは容易なことではない。