かつて「3K」と呼ばれた建設現場。それが嫌われてか建設従事者は減り続けている。建設各社や業界団体は、必死になって待遇改善を行い、週休2日も定着し始めた。それでも人が戻って来る気配は見えない。何が原因なのか。そしてどうやってこの危機を乗り越えていけばいいのか。(雑誌『経済界』2026年12月号より)

減り続ける建設従事者 高齢化でさらなるピンチ

 人手不足がもっとも深刻なのが建設業界。背景には、若年層の入職者不足、技能労働者の高齢化、長時間労働の是正、そして2024年4月から適用された時間外労働の上限規制がある。一方で、都市再開発、データセンター、半導体工場、物流施設、インフラ更新など建設需要は底堅い。つまり「仕事はあるのに、それを担う人が足りない」という状況だ。国土交通省の26年8月の建設労働需給調査では、全国8職種の労働者過不足率は1・3%の不足となった。前年同月の0・9%から不足幅は拡大している。

 しかもこの人手不足は単なる景気循環によるものではない。日建連によれば、建設業就業者数は1997年の685万人をピークに減少し、2025年には478万人まで落ち込んだ。建設技能者も1997年の464万人から2025年には296万人となった。

 高齢化も進む。厚生労働省と国土交通省によれば、建設業の技能者のうち60歳以上が約4分の1を占める一方、29歳以下は8分の1。つまり、現在の人手不足だけでなく、ベテランが大量に引退する「次の人手不足」が目前に迫っている。

 日建連が25年7月に発表した「建設業の長期ビジョン2・0」によれば、現状のまま対策を講じなければ、35年度には技能労働者が約129万人不足する。そこで対策の柱として掲げたのが「生産性向上」と「入職者の増加」だ。

 これまでの建設業は、人が現場に入り、経験と技能によって建物やインフラを造る産業だった。人手が足りなければ、採用を増やす、下請けを増やす、外国人材を受け入れる、といった対応が中心だった。しかし、人口そのものが減少する日本では、それだけでは限界がある。「人を増やす」のと同時に、「一人の人間ができる仕事を増やす」ことが必要になる。日建連が生産性向上を長期戦略の中心に置いた理由はここにある。

 では具体的にどうするのか。まずは若者が入ってこない原因となっている建設業の労働環境そのものを変える必要がある。日建連は週休2日の実現、労働時間の短縮、賃金・処遇改善、現場環境の改善などを進めている。さらに猛暑対策として、変形労働時間制の活用など柔軟な働き方にも取り組んでいる。

 「建設業はきつい」というイメージを変え、若者を呼び込むための経営政策である。同時に、労働時間を短縮しながら従来と同じ工事量をこなすためには、生産性を高めなければならない。働き方改革とDXは表裏一体の関係にある。

 国交省の「i-Construction 2.0」では、40年度までに建設現場の省人化を少なくとも3割、すなわち生産性を1・5倍にする目標を立てている。そのための3本柱が①施工のオートメーション化②データ連携のオートメーション化③施工管理のオートメーション化だ。単純化すれば「建設現場そのものを自動化しましょう」ということだ

 各社の取り組みも進む。

 清水建設は26年、土木設計・施工計画を自動化・最適化する「Shimz DDD」を構築した。設計情報をデジタル化し、設計・施工計画の効率化を狙う。施工管理でも現場カメラの映像をAIが解析し、状況をリアルタイムで自動判定する「AI施工管理システム」を導入した。これまで現場監督が巡回して目で確認し、記録していた仕事の一部をAIに置き換えようというものだ。

 さらに資機材搬入車両の入退場管理や揚重設備の予約などをデジタル化する「建設物流DXシステム」を開発した。現場では工事そのものだけでなく、資材を「いつ、どこに、どう運ぶか」という物流にも大量の人手が必要になる。ここをデジタル化することで、現場の間接業務まで省力化しようとしている。

 大林組では今年、建築設計の初期段階における法令調査・要件整理に生成AIを活用し、関連業務の時間を67%短縮できたと発表した。設計者が調査作業に費やしていた時間を減らし、設計そのものや顧客対応に集中できるようになった。さらにはAIを搭載したロボットや建機による自動・自律運転の実装を進めている。

 ロボット化を進めやすいのは、作業内容が比較的定型化でき、危険性が高く、人間にとって負担の大きい仕事だ。例えば天井や壁面への耐火被覆の吹き付け作業。ロボットアームで行うことで生産性は約1・5倍になる(清水建設のデータ)。竹中工務店、鹿島建設、大林組、フジタの4社はコンソーシアムを組み、資材自動搬送、風量測定、耐火被覆吹き付け、汎用移動ロボットの多機能化という4種類のロボットシステムを共同開発。個々のロボットを開発するだけでなく、複数のロボットが共通して使えるソフトウエアの標準化を進めている。

簡単なことではない 建設現場のロボット化

 それでも製造業ほど簡単に自動化できない。工場では同じ製品を同じラインで大量生産する。しかし建設現場では、建物ごとに敷地条件、設計、工法、周辺環境が違う。しかも工事が進むにつれて現場の状況も変化する。これが建設ロボットにとって最大の壁となっている。

 さらに建設業界の裾野の広さもネックとなる。大手ゼネコンはAIやロボットに巨額の投資ができる。しかし実際に現場で働く職人を抱える協力会社の多くが中小企業だ。大手だけが生産性を上げても、下請けや専門工事会社が旧来型のままでは、建設産業全体の生産性は上がらない。そのためにもサプライチェーン全体をデジタル化しなければならない。

 デジタル化、ロボット化だけでなく、外国人材の受け入れ拡大も重要だ。しかし、外国人を受け入れるとなると、日本語教育、安全教育、技能教育が必要であり、現場の管理負担も生じる。それ以上に外国人労働者にとって建設業は魅力がない。ある程度の日本語能力が求められる特定技能制度は、業種別に「定員」がある。他稿にもあるが、外食産業枠はあっという間に埋まったため、採用したくてもできない状況だ。ところが建設業は枠が空いているのに集まらない。賃金などの待遇で韓国などの建設業の方が魅力的なため、わざわざ日本語を学んでまで日本に行きたくない。これが今の日本が置かれた現実だ。

 建設業は日本経済のインフラでもある。日本経済が成長を続けるためにも業界のみならず、日本全体で人手不足解消に取り組まなければならない大きな課題だ。

現場ごとに状況が異なるためロボット化は容易ではない
現場ごとに状況が異なるためロボット化は容易ではない