最近、建設現場で働く女性を見かけることが当たり前になってきた。中堅ゼネコンの髙松建設でも、現場監督も含め女性が重要な戦力になってきている。今、建設現場で何が起きているのか。そのためにどのような対策を打ち、人材を引き留めているのか。さらにはゼネコンの営業現場ではどのように人材を確保しているのか。髙松孝年社長に現場の最前線を聞いた。Photo=横溝 敦(雑誌『経済界』2026年12月号より)
髙松孝年 髙松建設のプロフィール
たかまつ・たかとし 1970年生まれ。94年関西学院大学商学部を卒業し積水ハウス入社。98年髙松建設に転じ2013年取締役、14年副社長を経て18年社長に就任した。21年4月から髙松コンストラクショングループ副社長を兼務。
女性の現場監督がいることのメリット
―― 建設業界では人手不足によってプロジェクトが止まるケースも出ています。
髙松 業界で人手不足が言われ始めてから、もう10年以上になると思います。最初に問題になったのは、技術者不足です。いわゆる施工管理、現場監督と呼ばれる人たちが各社で取り合いになりました。ところが、今度は職人が不足してきた。ゼネコンにとって職人は社員ではなく、協力業者、サプライチェーンの中にいる人たちです。その職人、ワーカーが足りなくなってきたわけです。
―― 若い人が建設業に入ってこないという問題もあります。
髙松 都内の大型現場では、外国人作業員の比率が非常に高くなっています。これまでは技能実習生という形で外国人材を受け入れてきましたが、最近は「高度人材」と呼ばれる外国人技術者も入ってきています。単に日本語を片言で話せるという人ではなく、現地で専門教育を受け、日本語能力もN3、N2(英検でいえば3級、2級)程度を持つ人たちです。ただし、彼らは自然に日本へ来るわけではありません。企業側が教育機関や送り出し機関と連携して確保しているのが実態です。
―― 髙松建設では外国人高度人材をどの程度採用していますか。
髙松 まだ数えられるほどで、毎年1~2人程度です。一方、グループの青木あすなろ建設では、スリランカの大学と提携し、現地で送り出す仕組みがあり、ここ数年、毎年数人ずつ入ってきています。高度人材そのものは始まってから5年程度ですから、業界全体で見れば少ないと思います。ただ、積極的に取り組んでいる会社なら、採用者全体の1割近くまで外国人高度人材が増えている可能性もある。それほど技術者不足が逼迫しているということです。
―― 人手不足が10年以上続いているのに、解消しそうにありません。
髙松 解消されないというより、業界として解決に向けて取り組んでいるものの、苦戦しているというのが正確だと思います。日本建設業連合会では、建設キャリアアップシステムを進めています。職人にIDカードを持ってもらい、職種や技能、キャリアを記録していく仕組みです。同じ「とび職」でも技能には差があるのでそれを明確にして、将来的には待遇にも反映させる。また「4週8閉所」という取り組みも進めています。建設業にも週休2日を定着させようというものです。休みが少ない、給与が高くないという建設業のイメージを変え、将来に希望を持てる仕事にしていこうという考えです。
―― しかし、週休2日になれば工期や建築費にも影響します。
髙松 例えば4週8閉所にすれば、4週4閉所時代なら1カ月に26日動いていた現場が22日しか動かなくなります。単純計算で15%強、稼働日数が減りますから、生産性は落ちます。工期も数%延びるでしょうし、その分、建築費は上がります。それでも施主さんには、4週8閉所にさせてくださいと説明しています。受益者負担として理解していただく必要がある問題だと思います。
―― 女性の現場進出も人手不足への対応になります。
髙松 15年ほど前なら、工事現場に女性社員がいること自体が珍しかった。しかし今では、当社の現場でも現場監督4~5人のうち1人は女性です。しかも単なる補助ではなく、男性と同じように現場を担当しています。女性が現場所長を務めるケースも出てきています。当初は現場の環境面や態勢づくりに不安もありました。しかし任せてみると、職人さんたちも女性監督を温かく迎え入れ、丁寧に指導してくれる様子が見られます。それで女性監督が成長し、現場全体のコミュニケーションも円滑になるという好循環が生まれています。現場に男性用と女性用のトイレを設置するのが当たり前。洗面化粧台も設置しています。環境を整えることによって、女性が建設業に入ってくる。その一方で、女性が入ってくるから環境を整える。どちらが先かというより、両方が循環しているのだと思います。
ロボット実用化の前に規格化による省人化
―― 建設現場以外ではどうですか。髙松建設はマンション建設の提案営業で成長してきた会社です。そこにも変化はありますか。
髙松 反省を含めてですが、かつては営業職など「いくらでもいる」という発想があり、たくさん採用して、その中で活躍する人がいいと考えていた時期もありました。しかし今は、良い人材を採ろうと思っても簡単には採れません。だったら、採用すること以上に、今いる人に辞めないでもらうことが重要になります。そこで給与体系、待遇、営業のフォーメーションなど、あらゆる面を抜本的に見直しています。
具体的にはこれまで「営業」と呼んでいた人たちを、いずれは「コンサルタント」にしていきたいと考えています。そのためには教育や仕組みが必要です。重要なのは、少数精鋭にすること。そして、脱落者を出さない組織にすることです。転職するのが当たり前の時代だから「辞めたければどうぞ」ではなく、この会社にいたい、出ていきたくないと思える会社をつくる。それも人手不足への重要な対策だと思っています。
―― 人を増やす以外に、省人化という方法もあります。ロボットについてはどう考えていますか。
髙松 ロボットには大きな期待があります。ただ、工事現場は工場とは違います。工場なら同じ場所で、同じ作業を繰り返せばいい。しかし建設現場は毎回、大きさも形も場所も違います。そのため、現在のロボット技術では簡単には使えません。
現段階でそれ以上に重要なのは規格化です。海外の建設現場を見て、その重要性を強く感じました。東南アジアでは、タワーマンションのような大きな建物でも、プレキャストや規格化された型枠を使って建てています。日本のように現場で型枠を細かく加工する高度な職人技がなくても建設できる。日本は技術があるから、難しい仕事までやってしまう。しかし、職人がいなくなるのであれば、「できるけれど、あえてやらない」という選択も必要になります。これをさらに進化させることで、ある程度の労働力不足は解消できます。
日本の建築の素晴らしさは、ディテールにあります。細かい納まりや仕上げの精度は、伝統工芸にも通じる、日本人の文化です。ただこれからは「どこまで丁寧にするのか」「どこまでなら価格として受け入れてもらえるのか」を考える時代を迎えたのではないでしょうか。