医師や看護師の不足が深刻化する一方、医療現場では働き方改革やDX、AI活用が進み、人材の確保や配置のあり方も変わり始めている。こうした中、非常勤医師の紹介を起点に事業を広げてきたMRTは、医療従事者が能力を生かせる場そのものを増やそうとしている。小川智也社長に、医師の働き方の変化や人材確保の課題、AI時代におけるMRTの役割について聞いた。聞き手=ジャーナリスト/吉田 浩 Photo=横溝 敦(雑誌『経済界』2026年12月号より)
小川智也 MRTのプロフィール
おがわ・ともなり 三重県鈴鹿市出身。大学卒業後、20024年に山田赤十字病院へ入職。その後、大阪府立千里救命救急センター、国立病院機構大阪医療センター救命救急センターにて、救急医療現場を経て、11年にMRTに入社、取締役執行役員経営戦略室長に。翌年、英国国立ウェールズ大学経営大学院にてMBA取得。19年にMRT社長に就任した。
医療従事者にとって 活躍できる場を増やす
―― MRTは創業以来、医師の人材紹介に取り組んできました。もともとはどのような問題意識を持っていたのでしょうか。
小川 医療業界では以前から、大学病院の医局が市中病院や地域の医療機関へ医師を派遣し、医療現場を支えてきました。ただ、全国的に医師不足がある中で、必要な医師を十分に補充できない病院も数多くありました。
一方、大学病院などで働く先生の中には、「今週の土曜日午前なら空いている」「今日は半日だけ勤務できる」といった方もいます。そこで、先生方の空いている時間を細かく捉え、必要とする医療機関へ最適に配分していく。そうした非常勤医師の紹介を中心に事業を展開してきました。
―― 現在では医師の働き方もかなり変化していますか。
小川 昔は増え続ける医療ニーズに対応するため、常勤医であれば頻回の夜間当直や週末勤務も当然という感覚がありました。一方、近年では、政府が掲げる「医師の働き方改革」も重要視される中で、ご家庭との時間も大切にできる働き方を求める医師も一定数増えてきています。
これは決して悪い変化ではありません。ただ、夜間・休日対応が手薄になる可能性も生じるため、継続しての医師確保が難しい場合は、診療時間を短縮したり、地域の理解を得ながら外来日数を減らさざるをえない状況になる医療機関も出てきています。
―― 人材確保に成功している病院には、どのような特徴がありますか。
小川 大学病院であれば、研究や新しい取り組みに積極的なところには、そこで学びたいという先生が集まります。一般の病院でも、新しい医療技術やオンライン診療などに積極的な医療機関は、若手の先生から選ばれやすい傾向があります。
地方では、総合診療と在宅医療を組み合わせるなどして、「コミュニティホスピタル」のような考え方を取り入れ、地域全体を支えようという取り組みも始まっています。このような新しい医療のあり方を提示しているところには、比較的若い先生が集まりやすい傾向があります。報酬だけではなく、「そこで何を学べるか」「どのような医療に挑戦できるか」も勤務先選びの大きな要素となっています。
―― そうした変化を踏まえ、MRTが現在力を入れていることは何でしょうか。
小川 大きく3つあります。1つ目は、先生方の活躍の場をさらに広げることです。当社には約10万人の医師会員がいますが、一人一人の医師が、経験や知見をこれまで以上に、社会のために生かせる場を提供し続けたいと思っています。
医師の活躍の場は病院だけではありません。産業医や、商品開発協力、予防医療への協力等、企業でも専門知識を生かせます。また、海外でも活躍の場はたくさんあります。日本の医師がもつ知識や技能は海外でも高く評価されています。そのため、東南アジアを中心に現地の病院や企業と連携し、日本の医師が活躍できる場を広げる取り組みも進めています。
2つ目は、医師のキャリアを長い目で支えることです。以前は非常勤で勤務する先生は30代が中心でしたが、最近では50代の先生も増えています。例えば、長く外科医として活躍してきた先生が、実家のクリニックを継いだり、地域医療への貢献を考えたりするケースがあります。
そうした先生に勤務先を紹介するだけでなく、地域医療や訪問診療などを学び直し、新しい分野で活躍できるよう支援することも必要です。リカレント教育も含め、第二の医師人生を支える仕組みをつくっていきたいと考えています。
3つ目は行政・自治体との連携です。新型コロナウイルスの感染拡大を契機として、行政や自治体との連携を強めてきました。医師の活躍の場は医療機関だけではなく、自治体が担う保健医療の分野にもあります。コロナ禍では、多くの医師や医療従事者の協力を得ながら行政が取り組む予防医療の分野や保健所業務等を支援しました。現在も検査センターやコールセンターなど、行政が担う医療・保健事業を支援しています。
AI・DXが変える 医療現場と働き方
―― オンライン診療やAIなど、テクノロジーは人手不足にどのように活用できますか。
小川 当社でもオンライン診療やオンライン健康相談に取り組んでいます。オンライン診療の普及も、あらゆる領域で、まだまだ活用が増えると考えています。AIについては、現時点では医療の中心に入れるというより、最新論文検索などの情報収集、診断書・退院サマリー作成支援など、診療以外で時間を要する業務等に対して、より効率化を図る目的で導入が進んでいる事例が増えていると感じています。
―― フィジカルAIについてはいかがでしょうか。
小川 医師の診療や手術そのものより、まずは介護や看護、看護助手、リハビリなど周辺領域から進むと思います。例えば夜間の体温測定などを機械が担い、異常時だけ看護師にアラートを出せれば、看護師は本来必要な業務に集中できます。これまで3人必要だった業務を1人で担えるようになる可能性もあります。
一方、診断や手術のように最終的な責任を明確にしなければならない仕事では、AIが全面的に代替するまでには時間がかかるでしょう。
―― テクノロジーの普及は、病院の人材確保にも影響しますか。
小川 影響すると思います。例えば非常勤勤務をご紹介する際、常勤先で使い慣れた特定メーカー製の内視鏡検査器具や手術器具が採用されているか確認し、勤務可否を判断する医師や、電子カルテが整備された病院を希望する先生もいます。今後は「AIによる診療支援がある病院で働きたい」といった要望も出てくるかもしれません。医療機関が医師の診療支援や適切な医療提供をするために、どのような環境を用意しているかが、採用にも影響する時代になると思います。
だからこそMRTとしては、医師に対して一つの働き方を押しつけるのではなく、先生方の活躍できる選択肢を増やすことが重要と考えています。病院、地域医療、企業、行政、海外など、医師が能力を生かせる場所を増やし、それぞれの希望と医療現場のニーズを結びつけていく。それが私たちの役割だと思っています。