人手不足の代表的な業種の一つである外食業界。それでもここまで事業展開ができてきたのは外国人労働者に支えられていたためだ。日本の外食は外国人労働者にも人気のため、両者はウィンウィンの関係にあった。ところが、今年受け入れ上限5万人を超え、外国人が入国できなくなった。一体何があったのか。文=外食ジャーナリスト/中村芳平(雑誌『経済界』2026年12月号より)
突如受け入れがストップした 外食業界の特定技能労働者
リクルートワークス研究所が「日本の生産年齢(15~64歳)の人口減少などの人口動態統計をもとに2040年の労働需給を予想したレポート「未来予測2040労働供給制約社会がやってくる」では、「30年には約341万人、40年には約1100万人の労働供給不足」が発生すると警鐘を鳴らした。
人手不足対策として「団塊世代の定年退職者の再雇用」が行われたが、その団塊世代も後期高齢者となり傘寿の80歳に突入している。そんななかで長期的な戦力として外国人材・外国人雇用に望みをかける人手不足の業界や企業が増えている。政府は1993年からスタートした「技能実習制度」に代わって、今年6月「育成就労制度」を導入、来年4月1日に施行することにした。ちなみに今年6月末時点の在留外国人は359万人。新制度は外国籍住民や外国人雇用を単なる労働力として扱うのではなく、今後日本人社会を支える一員、地域社会の一員として迎え入れようという〝国策〟である。
政府は2024年度から28年度までの5年間について、外食業界の特定技能1号を最大5万3千人と設定していた。外食業界では28年度に約25万3千人の人手不足が見込まれるとして、その不足分を生産性向上や国内人材確保で埋めてもなお残る部分を特定技能で受け入れる、という計算だった。
だが、この計算は大きく外れた。出入国在留管理庁が26年2月末に発表した外食業界の外国人の特定技能1号の人数は約4万6千人、受け入れ上限は5万人であった。この発表の後、駆け込み申請があり、出入国在留管理庁は同年3月、「26年5月頃には上限5万人を超える見込みだ」として、4月13日以降、新規の在留資格認定証明書の交付申請を原則として不交付にする措置を決めた。
4月13日のテレビ東京「ワールドビジネスサテライト」で「熱烈中華食堂日高屋」を運営するハイデイ日高が事例として取り上げられた。青野敬成社長は、新入社員のおよそ3割が特定技能1号の外国人材だったことにふれ、「今まで4割ぐらいは外国人でやろうと考えていたところが、今年はもう手の打ちようがない」と述べた。また、その対策については「外国人の特定技能はだめとなると、日本人の高校卒業生や大学卒業生、専門卒を中心に採るしかない」と回答した。これが「日本人労働者を軽視している」とSNSで拡散されて、騒ぎになった。だが、発言そのものは特定技能を取得した外国人雇用が、企業の命運を握るほど重要な戦略になりつつあることを正直に話したまでのことで、日本人軽視には当たらない。外食業界の現場で外国人の特定技能1号取得者の評価が高いケースがたくさんでてきているのも確かだ。
外国人労働者なしにサービス業は成り立たない
労働供給不足といえば外食業界はコロナ前の17~18年頃、インバウンド需要の盛り上がりなどが追い風で人手不足に苦しんだ。人手がなくて出店ができず、「人手不足倒産」がささやかれるほどだった。
18年当時、すでに外国人留学生のアルバイトは外食・宿泊サービス業と小売業(コンビニなど)に半数以上が集中していた。すでに留学生アルバイトが人手不足を補う重要な戦力になっていたのだ。これを裏付けるのが、19年10月末の農水省統計である。
外食業界で働く外国人は18万4千人。その内訳は、次のようであった。
留学生等の資格外活動……12万7千人
身分に基づく在留資格……3万5千人
専門的・技術的分野……1万5千人
総数が18万4千人のうち約69%が留学生等のアルバイト。外食・宿泊サービス業、コンビニなどは留学生のアルバイトなしには成り立たなかった。問題は留学生は大学などを卒業すると、原則としてそのままアルバイトを続けられないことだった。
外食業界やコンビニなどは、3~4年かけて日本人以上に仕事をテキパキとこなす外国人留学生のアルバイトに辞められたのでは、元も子もない。「日本語も堪能で優秀な人材には会社に残ってほしい」と働きかけた。店長や人事部がスカウトに動き、日本人並みの好条件を出して説得するという形だ。政府は19年4月、外食を含む14分野について「深刻な人手不足」を理由に特定技能1、特定技能2を創設した。
「一定の専門性・技能を有し即戦力となる外国人材を受け入れることにした」のである。
外食業で最も重要な「特定技能」。特定技能1号でできる仕事には、調理、仕込み、盛り付け、接客、配膳、下膳、レジ、店舗衛生管理、店舗管理などがあり、外食店の仕事をかなり広く担当できる。従来の「外国人は単純労働では原則として働けない」という壁に対して、特定技能は、人手不足が深刻な外食業について、一定の技能を持つ外国人を正面から受け入れる制度だからだ。
19年4月に導入された「特定技能制度」は、翌20年1月に最初の感染者が発見された新型コロナウイルスによって大きな影響を受けた。コロナ対策のために避けるべき「3密」、すなわち「密閉」「密集」「密接」のすべてが外食に当てはまった。そのため多くの外食業が自粛に追い込まれ、外国人労働者を採用するどころではなくなった。人手不足どころか、日本人、外国人を問わず、50万人以上が職を失ったともいわれている。
次稿に登場する日本そばチェーン「ゆで太郎システム」の池田智昭社長など外食経営者の多くが「空前の人余りでしばらく人材の採用に困らなかった」と振り返る。
しかし23年にコロナ禍が去り、日常が戻ってくると同時に人手不足も戻ってきた。そのためようやく外国人特定技能制度の意味が大きくなってきたのだが、それがあっという間に上限に達したことで、事業戦略の見直しを迫られる企業も出てきている。池田社長は「店づくりは人づくりだ」と語り、出店戦略に外国人雇用を不可欠と語りながら、この問題に向き合っている。