パスメイクホールディングスは、傘下にグローバル人材教育のアビタスや、在留外国人に日本語教育を行うTCJグローバルを持つ。高市政権は、日本に在留する外国人労働者への日本語教育を強化する方針を打ち出している。それがどのような影響を生み出しているのか。中澤匠社長に聞いた。Photo=横溝 敦(雑誌『経済界』2026年12月号より)
中澤 匠 パスメイクホールディングスのプロフィール
なかざわ・たくみ 1982年生まれ。武蔵大学経済学部卒業後、パソナ、リクルートを経て2020年パスメイクグループに参画。TCJグルーバルCEO、アビタスCEOに就任後(いずれも現任)、26年パスメイクホールディングス社長に就任した。
外国人の日本語教育に企業はいまだに消極的
―― 日本で働く外国人の現状をどう見ていますか。
中澤 外国人労働者は、コロナ禍以降、かなり急激に増えてきました。直近では在留外国人数が400万人を超える規模になっており、新規入国者も就労目的の人が多くなっています。一方で、外国人政策は現在、大きな転換点を迎えています。これまでは人口減少や人手不足を背景に、「外国人を入れなければならない」という考え方が強かった。しかし、現在は単純に受け入れるのではなく、入国後も含めて管理していく方向に変わってきています。
その象徴の一つが日本語能力です。特定技能制度では、以前から日本語能力が要件として組み込まれていましたが、それ以外の在留資格では、日本語をほとんど話せなくても入国できるケースがありました。ところが今後は、入国前あるいは入国後に日本語を学ぶことを求める方向が鮮明になっています。
―― 外国人を受け入れながら、日本語能力を求める政策になっているわけですね。
中澤 日本語教育そのものを重視する流れは、われわれにとっても歓迎すべきことです。ただし、政策全体を見ると矛盾を感じる部分もあります。日本は人手不足で、外国人材を必要としている。一方で、入国や在留のハードルを上げれば、日本で働きたい外国人が減ってしまう可能性があります。
さらに、現場では業種によって受け入れ枠の問題も生じています。例えば外食などでは現地で採用を決めたにもかかわらず、在留資格認定証明書の交付の一時停止の影響により日本に来られないといった事案が発生したり、受け入れ枠があるにもかかわらず建設などの業種には十分に人材が入ってきていないといった状況もあります。
―― 特定技能制度とはそもそも何ですか。
中澤 特定技能制度が始まったのは2019年です。特定技能1号の在留資格を持つ外国人は原則として通算5年まで、日本で働くことができます。その一方で日本語能力も明確に求められています。さらに特定技能2号に移行するには、例えば外食業分野では、日本語能力試験(JLPT)のN3以上への合格も求められます。そうなると、「日本に来てもらう」だけではなく、「来てもらった人をどう教育するのか」が企業にとって大きな課題になります。
―― 企業による外国人の日本語教育投資は増えているのですか。
中澤 パスメイクホールディングス傘下には1988年に設立された日本語教育機関・TCJグローバル社があり、留学生や社会人など、さまざまな外国人に日本語を教えてきました。しかし、多数の受講生が在籍している社会人向けの日本語講座の受講生においても、その多くは高度人材や日本人配偶者などで、特定技能や技能実習の在留資格を持つ受講生はほとんどいません。特定技能の人材などについて企業から問い合わせをいただくこともありますが、提示される研修予算は月1万円未満というケースが多い。一方、きちんと週2~3回程度学ぶコースなら最低でも月3万円程度の予算は必要となります。
―― 企業が外国人材の日本語教育に、十分な投資をしていないわけですね。
中澤 日本人に対しては人的資本への投資が叫ばれていますが、外国人材については同じような水準の教育投資が行われていないのが実情です。特定技能や技能実習の人たちを、まだ「安価な労働力」として見る風潮が残っています。そこを変えなければ、本当の意味で外国人材を戦力化することはできません。
外国人材が日本語を身につけ、仕事を覚え、長く働いてくれれば、企業にとっても大きな財産になります。ところが、教育を十分に行わなければそれもかなわないばかりか、本人が転職をしてしまう可能性もあります。今後は育成就労制度(技能実習制度から変更)においても、一定の就労期間や技能・日本語能力などの要件を満たせば、本人の意向による転籍が可能になります。企業は「採用したから辞めない」と考えるのではなく、「選ばれ続ける会社になる」必要があります。
―― 企業は何をすべきでしょうか。
中澤 まず、日本語教育をコストではなく、人材への投資として考えることです。単に「日本語を勉強させる」だけではなく、どのレベルまで引き上げるのかを明確にする必要があります。例えばN5からN4、N4からN3というように、段階的な目標を設定する。教えて終わりではなく、能力を測定し、足りない部分を指導し、最終的なゴールまで伴走する仕組みが必要です。
私たちも現在、デジタル上でJLPTの模擬試験を受けられる仕組みや、AIを活用して会話力を測定する仕組みの開発に取り組んでいます。日本語を「教える」だけでなく、「測る」「指導する」「目標に到達させる」までを一つのサービスにしていきたいと考えています。
円安で経済的メリットは低下 いかに日本の魅力を高めるか
―― 現在の政策では日本語教育が在留管理と結びついています。
中澤 これまでは、日本語教育と在留管理は必ずしも一体ではありませんでした。それが今は、日本語能力が在留資格と結びつく方向に動いています。日本語教育をきちんと行い、能力を客観的に測定する。そして、その結果を次の教育につなげる。そうした仕組みができれば、外国人本人にとっても「何を目指せばいいのか」が明確になります。日本語能力が高まれば、日本社会との共生にもつながります。
ただしそれがハードルにつながる現実があります。円安によって日本で働く経済的メリットが以前ほど大きくはなくなっています。日本語能力など在留に関する条件が厳しくなっていけば、「そこまでして日本に行く必要があるのか」と考える人が増える可能性があります。
だからこそ、一定のハードルを設けるのであれば、それを越えた人に魅力的なキャリアや職場環境を提示しなければなりません。政府による教育支援や金銭的支援なども、セットで考える必要があると思います。
―― その政策のもと、パスメイクは何を目指しますか。
中澤 これまでは、個人が日本語を学びたいというニーズに応えることが中心でした。しかし今後は、法人が外国人材を大切に育てるための日本語教育に、より力を入れていきたいと考えています。教室やオンライン講座を提供するだけではなく、外国人材一人一人の現在の日本語能力を測り、必要な教育を提供し、次の目標まで導く。その一連の仕組みを企業と一緒に作っていくことが重要です。「採用して終わり」ではなく、「育てて戦力化する」、そこに貢献していきます。