昨年の事案で、開局以来の苦境に陥ったフジテレビ。その後の再生を託され社長になった清水賢治氏は、経営改革に着手。取引先や株主・機関投資家をはじめとするさまざまなステークホルダーとの対話にも正面から向き合い、建設的な提案を柔軟に取り入れながら資本効率の向上を推進、業績も回復させた。清水氏は今何を考えるのか。聞き手=羽富宏文 Photo=横溝 敦(雑誌『経済界』2026年12月号より)

清水賢治 フジ・メディア・ホールディングス/フジテレビジョンのプロフィール

清水賢治・フジ・メディア・ホールディングス
フジ・メディア・ホールディングス/フジテレビジョン社長 清水賢治
しみず・けんじ 1961年1月生まれ。慶應義塾大学法学部卒業後、83年にフジテレビ入社。編成部で「ドラゴンボール」「ちびまる子ちゃん」などヒット作を手掛ける。2013年に総合開発局長。17年に常務経営企画局長。22年にフジ・メディア・ホールディングス専務。25年1月にフジテレビ社長、6月にフジ・メディア・ホールディングス社長に就任。

今期1Qで過去最高益にテレビの到達力を再確認

―― 不祥事による業績低迷から、今年度の第1四半期では2008年10月の持株会社(HD)制導入後、連結ベースで過去最高益を達成しました。この要因はどのように考えていますか。

清水 前期は大幅な赤字となりましたが、今期は大きく持ち直し、V字回復と言える状況になっています。前期の落ち込みが大きかった分、回復の力強さを感じています。私自身、ここまでの水準になるとは想定していませんでした。

 最も大きな要因は、われわれの放送収入の回復が非常に順調だったことです。これは、想定を上回るペースで回復してきました。テレビ広告市場は、今後シュリンクしていくだろうと言われ続けていますが、それでもなお、インターネット広告費に次いで大きなパイを持っている市場です。その中で、どこまでしっかりとシェアを取り戻せるかというのは、経営として非常に重要なポイントだと考えています。

 それに加えて、デジタル事業、特に配信の伸長も業績に大きく貢献しています。FODでは今年から始まった「F1」視聴者向けの高価格帯のプランへの加入者が順調に増加するなど、放送収入だけでなく、デジタル収入からも収益が積み上がってきています。こうした複数の収益源がバランスよく伸びたことが、HD制導入後連結ベースの営業利益で過去最高益を更新する結果につながったと受け止めています。

 もう一つ大きいのは、この1年間徹底して取り組んできたコンプライアンス改革・ガバナンス改革です。われわれは人権ファーストの会社になると宣言して、徹底的な改革を行ってきました。その努力を、スポンサーの皆さまにもご理解いただき、フジテレビは変わろうとしていると評価していただいたのではないかと思っています。

 昨年12月の時点では放送収入がどこまで回復するのか、まだ見通しがつきませんでした。従って予算はかなり慎重に組んでいました。それが、大型スポーツイベントなどにも助けられて、結果として想定を上回る回復になりました。

 とはいえ、事案発生前の前々期、24年度の水準を上回っているわけではありません。ですから、今回の結果には手応えを感じていますが、まだまだ満足できるレベルではないと考えています。

―― いわゆる物言う株主(機関投資家・株主)からの提案もあった、都市開発・観光事業への外部資本導入によるオフバランスの検討開始を決断しました。現在の進捗はどうなっているのですか。

清水 インサイダー情報に関わることなので、順調に進んでいますとしか申し上げられないのですが、この取り組みは単なる財務手法ではなく、FMH(フジ・メディア・ホールディングス)全体の企業価値をどう高めるか、そのために必要な資本構造をどう作るかという、重要な経営課題だと思っています。

 都市開発・観光事業は、収益性の高い事業ですが、さらなる成長に向けては、資金調達の上、資産規模を大きくしていくことが求められます。だからこそ、外部資本の導入を進めることで同事業の成長を図るとともに、FMH全体の資本効率を高め、株主共同の利益につなげたいと考えています。

―― 33年度に上場企業として求められる財務基準、ROE(自己資本利益率)8%を達成するという目標を掲げました。この目標の意義は。

清水 5月に発表した計画では、30年度に6%、33年度に8%という目標を掲げています。しかし、機関投資家からは「もう少し早くできないのか」という声もいただいています。その意見を真摯に受け止めていますが、ROEは単なる数字ではなく、企業の実力を示す指標だと考えています。だからこそ、確実に達成できる道筋を示すことが重要です。

 自己株買い2500億円は前倒しで達成しましたし、政策保有株の売却も順調に進んでいます。しかし、ROE向上の本丸は投資による成長です。利益を伸ばしていかなければROEは上がりません。投資は規模が大きいほど、判断を誤れば企業価値を毀損します。だからこそ、どのような投資を行えばFMHの企業価値向上につながるのか、どの事業なら10年後の成長を支えられるのかを徹底的に検証し続けています。

―― 5月に発表した「グループビジョン」では、テレビ番組をはじめとしたコンテンツ・IPの収益増加を宣言しました。当たれば大きく、外れるとダメージを受ける、水ものでもあるコンテンツ・IPで収益を増やしていけるのでしょうか。

清水 コンテンツビジネスはボラティリティが高いということは、われわれは何十年も経験してきています。ヒットするかどうかは読めない部分があり、当たり外れが大きいことも事実です。しかし、われわれには他社にはない強みがあると考えています。それは「メディアを持っている」ということです。

 コンテンツを当てるためには、パブリシティが非常に重要です。SNSを使った拡散はもちろん大事ですが、テレビというメディアの到達力は依然として大きな武器です。また、「踊る大捜査線」のように連続ドラマを映画化し、さらに舞台、配信、マーチャンダイジング、海外展開など多角的に広げるモデルは、われわれが長年築いてきた成功パターンです。朝の番組で放送されている「ちいかわ」のように、原作の素晴らしさを、放送を起点に広げ、人気がさらに高まっている例もあります。さらに、放送で投資回収ができるため、回収手段が複数あるという点でもリスク低減につながっています。

スタジオ部門創設の狙い コンテンツの多角的展開へ

―― これまでジャンルごとに分かれていた制作部門を、スタジオ部門として統合したことで、ジャンルを超えた制作集団が生まれました。この機構改革の狙いは。

清水 これまでは「この時間帯に放送するために、こういう番組を作ろう」という地上波を起点にした発想が強かったのですが、よりコンテンツを多角的に展開し、成長を図りたいと思っていました。そこで、コンテンツファーストという考え方を徹底しようと決めました。つまり、まずは「こういうコンテンツを作ったら面白い」「こういう企画なら世の中に届く」という発想からスタートし、それをどう活用するかの段階で放送も選択肢として考えるという順番に変えたのです。

 そのためには、制作能力を強化する必要があります。従来はドラマ、情報番組、バラエティなど、ジャンルごとに制作部門が分かれていました。そこで、スタジオ部門という大きな枠組みの中にジャンルを混在させ、クリエーター同士が自由に交流できる環境をつくりました。

 この仕組みによって、異なるジャンルの視点や技術が組み合わさり、ジャンルレスの新しい企画が生まれやすくなります。例えば、ドラマのクリエーターと情報番組のスタッフが一緒に企画を考えることで、これまでにない切り口のコンテンツが生まれる可能性があります。私はこうした「化学反応」が、コンテンツ企業としての成長に不可欠だと考えています。

 今後は、YouTubeなどの動画クリエーターとも連携し、外部の才能を積極的に取り込むことで、より多様なコンテンツを生み出していきたいと考えています。スタジオ部門の新設は、そのための第一歩だと位置付けています。

―― 1980年代の躍進のきっかけの一つとも言われている「大部屋主義」との共通点はありますか。

清水 当時のフジテレビは、編成と制作が同じフロアに集まり、映画部も含めて多様なクリエーターが自由に意見交換できる環境でした。その環境がフジテレビの企画力を大きく高めていたと感じています。

 当時は、セクショナリズムに陥らないように、制作スタッフがジャンルを超えて交流し、編成とも密接に連携していました。例えば、制作側が「こういう企画をやりたい」と言えば、すぐに編成に相談でき、編成側も「それ面白いね、やろうよ」と即決することも多々ありました。この自由度の高さ、スピード感、何よりワイワイガヤガヤは、数々のヒット企画を生み出す原動力になったと思います。

 今回の改革も、それに近い効果を期待しています。つまり、今回のスタジオ部門の設置は、単なる組織再編ではなく、クリエーターの創造性を最大化するための環境づくりなのです。

清水賢治・フジ・メディア・ホールディングス

徹底した社内改革を進め 自社の存在理由を問い直す

―― 社長就任後、フジテレビはどのように変わっていったと感じていますか。

清水 社長に就任してから、1年9カ月がたちましたが、当初の状況は本当に厳しいものでした。事案の真っただ中で、会社全体が混乱し、社員たちは自信を失っていました。社内の空気は重く、誰もが「フジテレビはどうなってしまうのか」という不安を抱えていたと思います。

 その状況の中で、まず「ガバナンス改革」「コンプライアンス改革」を徹底することを最優先しました。社員にもスポンサーにも、本気で変わろうとしているという姿勢を示したかったのです。

 その結果、今期の第1四半期決算で良い業績が出たことで、社員たちの表情が明らかに変わりました。われわれが取り組んできた改革が数字として結実したことで、これまでやってきたことは間違っていなかったという安心感が生まれたのだと思います。

 今のフジテレビは、混乱の時期を乗り越え、再び前に進む力を取り戻しつつあります。この流れをさらに加速させたいと考えています。

――  今年5月、「その楽しさは、何のためにある?」という問いを起点とする、新しい企業理念を策定しました。なぜ今、新しい企業理念なのですか。

清水 まず、新しい企業理念は私一人で考えたものではありません。むしろ、社員の中に答えがあると考えていました。一連の事案で会社が混迷し、社員たちが自信を失っていた時期に、「自分たちは何のために存在しているのか」を皆で問い直す必要があると強く感じました。

 そこで、若手を中心にプロジェクトチームを作り、社員全員の声を聞く取り組みを始めました。対話を重ね、ワークショップを行い、社員一人一人が「フジテレビとは何か」「自分たちは何を大切にしてきたのか」を言語化していきました。

 自分たちの言葉で作った理念は、必ず行動につながります。この理念は、フジテレビが再び社会に貢献するための羅針盤になると考えています。

――  「楽しくなければテレビじゃない」というフレーズは完全に降ろしてしまったのですか。

清水 それは違います。楽しくなければテレビじゃないというキャッチフレーズは1981年の広報キャンペーンの言葉でした。生み出された背景に、80年代のテレビ業界の状況があったのですが、テレビ人とは文化人であり、テレビは文化をしっかりと提供しなくてはいけないという感じがありました。でもこれはある意味、上から目線な印象もあります。それに対してフジテレビは、楽しくなければテレビじゃないという表現で、見る人が楽しくなかったらテレビは意味がないのではないですか、と問うたのです。作り手側のこういう文化を送り届けたいという思いからスタートするのではなく、見る人が面白いと思うものを提供すべきではないかという発想です。

 大衆迎合していると受け取られたこともありましたけれど、逆から見ると、これはテレビ文化を大衆のものにした、テレビの民主化を推進したのだと思います。主役はテレビの制作者ではなく視聴者ですと宣言したのです。

 ただ、その発想が、なんとなく自分たちが楽しいものを作ればいいんだと一部、曲解されたところがあったと思います。やはりあれだけ番組が当たっていると、自分たちが作るものは当たるという自信にもなる一方で、自分たちだけが作るものがいいのだと、独り善がりな部分が出てきたのかもしれません。楽しさは何のためにあるのか。それはみんなのためにある。社会のためにあるということに、今回の企業理念の策定で辿り着きました。だから、楽しいということが悪いわけではないということをあらためて確認することができたのです。

株主提案を企業価値向上にコンテンツの“熱源”目指す

―― さまざまな物言う株主(機関投資家・株主)からの提案にどう向き合ってきましたか。

清水 機関投資家や株主からの提案は非常に重要なものだと考えています。なぜなら、機関投資家や株主は企業価値を高めるための視点を持っていることが多く、こうした外部の視点は社内の思考をアップデートすることができるきっかけになるからです。

 提案に対して、われわれが寄って立つところは企業価値と株主共同利益の向上しかありません。好き嫌いではなく、合理的に企業価値と株主共同利益の向上につながるかどうかで判断します。外部の専門家も交え、徹底的に議論し、提案を受ける際のシミュレーションを重ねてきました。

 提案の中には、われわれにとって厳しいものもあります。しかし、それを全否定するのではなく、必ず一度受け止めます。そのうえで、われわれにとって最善の選択は何かを考えます。株主との対話は企業を強くするための重要なプロセスだと考えています。

―― 今後10年で、フジテレビ、FMHをどのように成長させたいと考えていますか。

清水 フジテレビとFMHを“熱源”のような存在にしたいと考えています。面白いコンテンツ、番組企画や調査報道が次々と生まれ、そこに人が集まり、熱が広がっていく。そんな会社にしたいのです。

 上場企業として、まずは業績を確実に良くすることが使命です。しかし、数字だけでは会社は強くなりません。社員が熱意と幸福感を持って働ける環境も不可欠です。社員が「ここで働きたい」「ここで面白いものを作りたい」と思える会社を作っていきたい。

 コンテンツには、人と人をつなぐ力があります。10年後もわれわれが、その「つながり」を生み出し、社会にポジティブな熱を広げていける存在であり続けられるよう取り組んでいきます。