缶入り酎ハイなどのRTD市場が伸び続けている。ビールも酒税改正で新たな競争が幕を開いた。そこに取り残されているのが日本酒酒造。過去45年間、出荷量は減り続け、ピーク時の4分の1以下に。しかし悲観するばかりではない。新たなウェーブが国内外で起こり始めた。文=関 慎夫(雑誌『経済界』2026年12月号より)

日本酒輸出額は前年比6%増

 10月1日は「日本酒の日」。1978年に日本酒造組合中央会が制定した。かつては明治時代に定められた酒税法では、10月1日から翌年9月30日までが「酒造年度」と定められていた。米が収穫され、酒造りが始まるのが10月、というのもこの日が日本酒の日となった理由の一つだ。

 それを記念して、各地でさまざまなイベントが開かれた。

 その最大級ともいえるのが、東京・大手町で開かれた「若手の夜明け2026」。「若手の夜明け」は日本酒に携わる若手醸造家たちが「日本酒業界を盛り上げたい」という気持ちから2007年にスタートした。約10年の間に全国で40回、延べ150蔵が集まるイベントを行ってきた。

 今回は、日本ビジネスの中心街である大手町に酒蔵50蔵が集まった。日本酒の日当日には、鏡開きの後に会場に参集した2千人が日本酒で乾杯、大いに盛り上がった。

 イベントは盛り上がったが、日本酒業界が盛り上がっているわけではない。日本酒市場は右肩下がりで縮小しているからだ。ピークの1973年には年間177万リットル飲まれていたものが、昨年はついに40万リットルを割り込んだ。かつての4分の1以下だ。中でも若い世代の日本酒離れは激しく、そもそもアルコールを飲まない、飲んでもアルコール度数の低いものしか飲まないという人が増えている。アルコール飲料に占める日本酒の比率はピーク時には3割あったのに、今では5%にまで減っている。

 「若手の夜明け」もこのような状況に危機感を覚えた醸造家が立ち上がったものだ。市場が縮小するということは、それに関わる企業も減るということだ。実際、日本酒の酒蔵は、かつて全国に4千蔵あったが、今では1100蔵(実際に稼働している蔵数)。直近では毎月3蔵が倒産もしくは廃業に追いやられている。

 ただし少しずつだが明るい兆しも見え始めている。

 その代表例が海外市場の拡大だ。今や日本酒業界にとって最大の成長分野となっているのが海外だ。

 25年の日本酒輸出額は約459億円と、前年比約6%増加した。輸出数量も約3万3549キロリットルで、前年比約8%増となった。農林水産省の統計によれば、輸出額は直近5年間で1・7倍となった。輸出先も広がっており、昨年の輸出先は81カ国・地域。国別輸出額はトップが中国で約133億円、続いて米国が110億円、香港が48億円、韓国が44億円と続く。

 海外市場で日本酒が伸びている最大の理由は、日本食の国際化。和食が世界文化遺産となり、寿司、天ぷら、焼き鳥などが世界各地に普及したことで、日本酒を飲む環境そのものが海外に形成され始めた。さらには年間4千万人を超えるインバウンドが、日本滞在中に日本酒を飲み、それをきっかけに帰国後も日本酒をたしなむ人も増えてきた。

 現段階では、海外の寿司屋など和食料理店で飲まれることが大半だ。しかしワインがあらゆる料理と一緒に飲まれるように、日本酒も世界の料理と相性がいい。もし和食以外とのマリアージュが進めば、日本酒市場ははるかに大きくなる。

 それを見越して23年に米国に工場を建設したのが山口県に本社を構える獺祭。純米大吟醸にこだわった酒造りは国内にも多くのファンがいるが、これを海外でも展開しようと85億円をかけてニューヨーク州に酒蔵を建設、「DASSAI BLUE」を発売した。

 これまでにも日本酒メーカーが米国に酒蔵を造った例はある。大関は1979年に、宝酒造は83年に、そして月桂冠は89年に出荷を始めている。しかしいずれも建設地はカリフォルニア州。カリフォルニアには歴史的経緯から日系人も多い。先陣を切った日本酒メーカーは、日系人の利用するスーパーや和食レストランに日本酒を卸してきた。ところが獺祭は、最初からアメリカ人相手の市場を拡大しようと進出した。獺祭と同じ年には新潟県の日本酒メーカー、八海醸造もニューヨークに現地資本と合弁で工場を建設している。

 日本酒は冷酒、燗酒、発泡性など飲み方も多様でさまざまな楽しみ方ができる。中でも海鮮料理との相性はとてもいい。それを海外の富裕層に売り込み、認知されれば、日本酒需要はさらに高まる。しかもアメリカ以上に日本人気の高い欧州や、経済成長を続ける東南アジアなど、市場としての可能性は高い。

1万円以上の日本酒が受け入れられる時代

 もう一つの可能性は日本国内にある。

 冒頭に国内の日本酒市場は右肩下がりで減り続けていると述べた。実際、ここ数年を見ても出荷量は落ち続けている。ところが、出荷金額は横ばいだ。その理由の一つが、吟醸酒などの高付加価値商品が増え、単価を押し上げているためだ。

 ほんの少し前まで、1升換算で1万円を超える日本酒は数えるほどだった。ところが今では、高額日本酒は当たり前のこととなり、1本10万円を超える商品も現れた。

 例えば岐阜県の白木恒助商店の販売する「達磨正宗昭和四十六年醸造酒」の価格は55万円、宮城県の新澤醸造店の「零響」は38万5千円だ。「SAKE HUNDRED」シリーズを販売し、以前に米国ポップアーティストと組んで1本100万円の日本酒を販売したこともあるClearの生駒龍史社長は、「ワインやウイスキーなどでは、時には1本1千万円以上の値が付くことがある。日本酒にもそれだけのポテンシャルはある」と語る。

 3年前にニューヨークに酒蔵を建設した獺祭は、今年6月から地元・岩国市で第三工場の建設を始めた。28年に稼働開始予定だが、ここは万単位の高額日本酒の専用工場となる予定だ。

 かつて日本酒は、家庭や居酒屋で日常的に飲まれる大衆酒だった。そのためパック酒のようなコスパ重視の商品ばかりだった。それがいまでは価格競争から脱し、「少量でも高く売る」ビジネスへの転換が進む。日本酒の新しい時代はすでに始まっている。

日本酒の日(10月1日)に行われた大手町での「2000人の乾杯」
日本酒の日(10月1日)に行われた大手町での「2000人の乾杯」
〈画像提供=若手の夜明け2026〉