経営者コミュニティ「経済界倶楽部」

「次の目標は東京オリンピックで 『君が代』を歌いたいですね」―小栗成男(NTPグループ ネッツトヨタ名古屋社長 トヨタレンタリース名古屋社長

ゲストは、テノール歌手として今年2月にカーネギー・ホールで公演した、NTPグループ会社の社長の小栗成男さん。50歳を過ぎて足を踏み入れたオペラの世界、今は経営者、作家、酒サムライ、教育者など5足のわらじを履き国内外で活躍しています。小栗さんの情熱と行動力に触れる対談となりました。

小栗成男・ネッツトヨタ名古屋社長 プロフィール

小栗成男

(おぐり・しげお) 1963年愛知県生まれ。同志社大学商学部卒業。NTPグループ ネッツトヨタ名古屋、トヨタレンタリース名古屋社長他。2015年オペラ歌手「世歌勳(sekai)」として名古屋国際会議場で初公演。19年カーネギー・ホールで公演。

経営者とオペラ歌手など5足のわらじを履く

佐藤 自動車販売会社の社長を務めながら、オペラ歌手「世歌勳(sekai)」としても活躍する小栗さんですが、そもそもなぜ50歳を過ぎてオペラを始めたのですか?
小栗 学生時代から何かで世界一になりたい、将来は自分の一言で1万人を動かせる人間になりたいと考えていました。それを実現するために、自分にあるのは「歌」だと。それも日本語の長唄ではなく、オペラなら世界中の人たちが聴いてくれて、僕の喉の強さや声量の大きさも生かせる、そう思ったんです。
佐藤 だからオペラなんですね。でも急にやると聞いたご家族や仕事関係の方たちは、さぞ驚かれたことでしょう。小栗さんは子どもの頃からやると決めたら猪突猛進タイプのお子さんだったのですか?
小栗 それはありますね。気が強くて子分を連れて歩くようなガキ大将でけんかばかりしていたので、先生や両親によく怒られましたね。でも女の子からはめちゃくちゃモテましたよ。毎日自宅に女の子が何人も遊びに来て、バレンタインデーには祖母が行列の整理をしていたほどです。
佐藤 マンガの主人公のようですね。お兄さんとの仲はいかがですか? 現在、同じ自動車販売会社グループで働いているわけですが、仕事のやり方など意識しますか?
小栗 兄貴は優しくて兄弟ゲンカもしませんし、今も昔も仲良いですよ。普段から兄貴を立てるようにしています。ただ仕事は兄貴のやり方をまねするのではなく、自分のやり方を貫いています。僕のポリシーは「人と違うことをやれ。同じことはやるな」ですから。
佐藤 良いですね。とかく批判されがちな経営者の趣味は、本業をしっかりやってこそ認められるものでしょうし。小栗さんの場合は趣味の域を超えていますね。
小栗 子どもの頃の音楽の成績は「2」で、楽譜も読めなかったんですよ。ただ音をとらえる耳は良かった。英語の歌詞もすぐに覚えられましたし。
佐藤 それも才能ですね。オペラを始めてみて気づきはありました?
小栗 歌のレッスンで先生に何度同じことを注意されてもできないのは、自分が社員に何度言ってもできないのと同じだなと。社員にもっと優しくしようと思いましたね。
佐藤 それは良い気づきです(笑)。
小栗 あとはビジネスと違って、音楽は数字では測れないことも知りました。あるオペラ歌手を描いた映画のプロデューサーを務めた方が、「しげちゃん、忘れてはいけないよ。もし死のうと思っている人がいて、しげちゃんの歌を聴いて死ぬのをやめたら、その人の命を救ったことになる。それがあなたの使命だよ」と言ってくれて、責任も感じました。

カーネギー公演の成功は通過点の一つでしかない

佐藤 デビューから4年、今年2月にニューヨークのカーネギー・ホールでオペラ公演「Transcending B
orders」を実現しています。大盛況だったようですね。
小栗 ありがとうございます。けれども簡単でも、順風満帆でもなかったですよ。公演の構成はギタリストの吉田次郎さんが一生懸命考えてくれました。本番を迎えられたのは、仲間たちとたくさんの人々の応援と協力を得られたからです。
佐藤 苦労や困難も多かった?
小栗 苦難の連続でした。まず僕のような新参者がカーネギーで公演するのはレアなので、審査では、歌で世界貢献を目指していること、子どもたちの音楽教育をしていること等を評価してもらいました。もちろん音源審査もクリアしています。ところが、公演前に仲間たちがインフルエンザで次々と倒れ、僕も風邪で声が出なくなったんです。しかし本番3日前のリハーサルにぎりぎり間に合った。神様が与えた試練だと感じましたね。公演が成功して報われましたが、本業も繁忙期で、「楽しかった」よりも「やりきった」という思いが強くて、公演後、人生で初めて妻に弱音を吐きました。
佐藤 奥様も心配されたでしょう。
小栗 そうですね。妻は「短期間でよく仕上げたね。うまくいって良かったね」と労ってくれました。公演が終わるまでやりたいことも我慢してくれて、本当に感謝しています。もっともこの公演は僕にとって通過点の一つにすぎません。翌朝は普段どおりジムで汗を流しましたし、公演したことの自慢話もしていません。世界一になるのが目標だからです。
佐藤 道半ばの過去の栄光は振り返らない。では未来に向けた意気込みを頂けますか?
小栗 ……それが実はないんですよ(笑)。最近まで「NHK紅白出場が目標」と話していましたが、カーネギー公演のほうが難しいでしょうし。そうだ、来年の東京オリンピック・パラリンピックで「君が代」を歌えないですかね? リハーサルでもいいです。それを次の目標にします!
佐藤 発想がさすがです。飽くなき夢を追いかけますね。お互い頑張っていきたいですね。

構成=大澤義幸 photo=佐藤元樹
聞き手&似顔絵=佐藤有美