1年前の時点では、2025年に東証平均株価が5万円を超えるなど誰も予想しなかった。しかしトランプ関税の一応の収束と、高市政権による成長戦略への期待から株価は2割5分も上げることになった。さて26年はどうなるか。強気論者で知られるマネックス証券の広木隆氏に聞いた。聞き手=関 慎夫(雑誌『経済界』2026年2月号より)

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広木 隆 マネックス証券
マネックス証券チーフ・ストラテジスト 広木 隆

市場が織り込む来期の企業業績

―― まずは2025年相場の振り返りをお願いします。1年前の本欄でベストシナリオは4万7000円と語っていましたが、実際には5万円を超えました。

広木 25年は非常に印象的な一年でした。4万円近辺でスタートし、春先にトランプ関税で大きく下振れ。しかし、この急落は結果的には「ノイズ」に過ぎず、想像以上に早期に回復しました。1年前の時点ではトランプ関税がこれほどまでに相場の大きな要因になるとは思いませんでしたが、すぐ戻った。その弾力性の強さが、相場の底堅さを象徴していたように思います。

 一方、国内最大のインパクトは、10月の自民党総裁選で高市早苗さんが新総裁に選ばれたことです。当初本命ではなかったこともあり、市場からはサプライズとして受け止められました。もっとも参院選の頃から自民党の行き詰まり感は明らかで、政権が変わるムード自体は高まっていたと思います。高市総裁の誕生は、その流れが一気に結実したものであり、国内株式市場にとって最大のポジティブシナリオが現実化した瞬間でした。

 しかもFRB(米連邦準備制度)は9月に利下げを再開しています。これが米国の株高につながり、それが日本にも波及した。通常、日米間の金利差が縮まれば円高に向かうはずが、高市政権の誕生もあってむしろ円安基調となっています。それに加えてAI関連企業の株価急伸が加わった。こうした要素が全部噛み合って、日経平均は5万円を突破しました。その意味で、1年前の予想ははずれましたが、高市政権の可能性が出てくると同時に、私は「年内5万円」が現実味を帯びてきたと考え、そう発信してきました。

―― 広木さんの株価予想の基本にあるのがEPS(1株当たり純利益)とPER(株価収益率)の掛け算です。過去の日本のPER平均は15~16倍。成長期待が高まれば17倍に行く。それがベストシナリオの4万7000円でした。ところが今の日本市場のPERは18倍です。なぜこんなに高くなってしまったのですか。

広木 今の18倍という数字は「今期の保守的すぎる業績予想」を使っているからそう見えるだけで、実際に市場が見ているのは来期業績です。日本企業の増益はまだ続くでしょうから、それを見越せばPERは15〜16倍となり、十分適正な水準です。市場はすでに来期の企業業績を織り込んでいます。

AIにより米国景気は減速 それでも企業業績は好調維持

―― それを踏まえて、26年の株式市場はどう推移するでしょうか。

広木 26年の相場を語る上で、まず最大の懸念材料は米国の景気です。今はまだ全体としては健全ですが、11月に発表された9月の雇用統計でも失業率が市場予想を上回るなど、労働市場に小さなほころびが見え始めている。26年には、その穴が広がり、本格的に雇用の減速が顕在化する可能性が高いと見ています。

 その背景には、AIによる職の代替が急速に進んでいるということがあります。すでにIT企業では大規模なリストラが進んでいます。これが雪崩のように他業種へも広がっていけば、雇用が縮み、消費が落ち、景況感が急速に悪化する。そうすると、米国経済の減速やリセッション懸念が市場を揺らす局面が26年前半にはあると見ています。

 一方で、景気悪化はFRBにとって追加利下げの大義名分になる。しかも現在、次期FRB議長選びが大詰めを迎えています。仮にトランプ政権の影響力が強まれば、利下げ姿勢はもっと積極的になるだろうし、そうでなくても景気悪化のデータが揃い始めたら、FRBは大手を振って利下げを行います。いずれにせよ前半は景気不安で揺れ、後半は利下げによって相場が回復するという二段構えの一年になるのではないでしょうか。

 景気が悪くても株価が上がるのかと思うかもしれませんが、景気減速を主導するのがAIであることが重要です。AIが人の仕事を奪うことで雇用は悪化する。しかしリストラは企業にしてみればコスト削減につながるため、業績はむしろ良くなります。株価は景気ではなく企業業績に連動するため、相場にとってはむしろ追い風です。

 ただし、もっと深刻なリスクがあることを忘れてはいけません。AI投資そのものは異常な過熱状態にあり、「ITバブルの再来」に近い状態になっているということです。今のところは、AI企業やその周辺で資金を融通し合う程度で済んでいますが、さらに過熱すれば金融機関までが巻き込まれることになりかねない。そうなっていざバブルが破裂すると被害は大きくなる。AIには莫大な資金が必要で、投資額は数兆ドルにも及びます。いざこれが回収できないとなると、場合によってはリーマンショックの時のような信用収縮につながる可能性もあります。

―― 再び経済がストップするかもしれないわけですね。リーマンショックの時、当初、日本への影響は小さいと言われていながら、かなりのダメージを受けました。

広木 そうは言いながらも、リーマンショックの時ほどの深刻な事態には陥らないとも思っています。あの時は、サブプライムローンの証券化商品が世界にばら撒かれ、レバレッジが何重にもかかっていた。しかし今回は、スキーム自体はそこまで複雑ではない。仮にバブルが弾けても単に巨額のAI投資が焦げ付くという話に近い。加えていえば日本の金融機関や企業の体力もあの頃より格段に強くなっている。影響を受けたとしても、金融危機にまでは至らないのではないでしょうか。

―― では株価はどうなりますか。

広木 25年末は5万円前後で推移し、26年のスタートも同水準で始まると見ています。25年が4万円程度でしたからそれより1万円高い水準でのスタートです。前半は米国の景気不安でモヤモヤし、5万円を割り込む局面もあるかもしれない。しかし後半は利下げで救われ、金融相場で再び上を目指す動きになる。

 つまり相場観としては、前半不安、後半回復という見立てです。今後、日銀は金利引き上げに動くかもしれませんが、高市政権の政策もあり、そう何度もできるはずがない。そのため円高になったとしても限定的です。そうなれば輸出企業は恩恵を受け続けます。AIを中心にIT産業の業績も底堅い。しかも米国ほどの雇用不安は日本では起きない。

 そうなると年初に比べ2割ほどの株高も考えられる。年初が5万円なら年内6万円。これが2026年のベストシナリオです。