国民的スター・織田裕二にとって今年は、新たなスタートの位置づけの年になるのかもしれない。素は常に笑顔を絶やさない、気さくで穏やかな人柄の織田に、キャリア初の規模という2026年最初の主演ドラマのほか、これまでの芸能活動を通した仕事術を聞いた。聞き手=武井保之 photo=片山佳男(雑誌『経済界』2026年3月号より)
織田裕二のプロフィール
おだ・ゆうじ 1967年生まれ。神奈川県出身。1987年映画『湘南爆走族』でデビュー。91年ドラマ『東京ラブストーリー』が社会現象的なヒットになり、97年のドラマ『踊る大捜査線』は大ヒットシリーズになる。映画『踊る大捜査線 THE MOVIE2 レインボーブリッジを封鎖せよ!』(2003年/興行収入173.5億円)は邦画実写歴代興行収入1位となり、2025年11月までその座を守った。その他、ドラマ『振り返れば奴がいる』(93年)、ドラマ『SUITS/スーツ』シリーズ(18年、20年)などヒット作が多数。歌手としても「Love Somebody」「歌えなかったラヴ・ソング」などヒット曲を出している。
ヘアメイク=加藤まり子(MARVEE)
スタイリスト=加藤哲也
ジャケット GUY ROVER
タートルネックセーター DRUMOHR
新しい作品の緊張感のなか常に次の勝負をしたい
数多くのヒット作に出演してきた織田裕二。その作品群を見ると、あることに気づく。それは、シリーズ化されているタイトルは、数えるほどしかないこと。そんな織田のこれまでのキャリアからは、同じ場所に留まらず、常に新しいものを追い求める姿勢があるように感じる。
織田 20〜30代は、1作目がヒットして、その続編をやるのが嫌でした。一度評価された作品の成功体験を引きずって続編を作るのが、自分には合わない気がしていたんです。新しい作品の緊張感のなかで、次の勝負がしたいという思いでした。いまは続編を喜んでやりますけど(笑)。
新しい作品の現場は緊張感で溢れていて、探り探り芝居をしながら、空気をほぐしていく作業がまずはじまります。すると、どこかでバーンとスパークする瞬間がある。それが生まれると、すべてがうまく回り始めて作品が軌道に乗って、勝てるという気持ちを全員が共有する。そのひとつが『振り返れば奴がいる』(93年)でした。好きな作品だったのですが、続編をスペシャルドラマでやって、この作品を続けていくことの難しさを痛感しました。
逆に、『踊る大捜査線』(97年)は、その世界観からシリーズを続けていけるという手応えを得ていました。青島俊作刑事は、役をあまり作り込んでいない個人的に大好きなキャラクターです。続編の有無は役によるところが大きいことにこの作品で気づきました。
先日、30年ぶりの役者さんと30年前と同じセリフの撮影があったんです。何気ない会話のシーンでしたが、撮影後に周りの役者もスタッフもみんな涙を流していました。もちろん僕は泣かせるつもりはなくて、そんな芝居はしていません。それなのに、観る人の心に響く何かがそこに宿っていたんです。過去の作品の時間を空けた続編には、こういう面白さもあることを最近学びました。
では、多くのオファーが舞い込むなか、出演作をどのように選ぶのか。その基準を聞くと、少年のような笑顔を見せた。
織田 面白そうと思えるかどうかです。作品の題材、脚本、共演者、スタッフなど、どこかにそう感じる要素があるか。極端に言えば、『世界陸上』のキャスターでも、歌でもいい。だから、僕は純粋な役者にはまだなれていないのかもしれない(笑)。僕にとっての面白いことが芝居だけではないから、仕事の幅が広がっていったのだと思います。
『世界陸上』を振り返ると言いたいことを言っていた
織田の芸能活動は俳優業だけに留まらない。シンガーとしても、テレビ番組MCとしても、活躍している。なかでも、長きに渡ってMCを務め、昨年はスペシャルアンバサダーとして参加した『世界陸上』は、競技に対する情熱と選手への深い愛情がにじむトークや取材が、視聴者の心を捉えていた。それは芸能に限らず、あらゆる職種において求められる仕事への姿勢になるかもしれない。
織田 この先のスポーツ中継は、AIが伝えるようになっていくかもしれません。僕にとって『世界陸上』は、面白い選手と出会えたら幸せですし、その人が熱量高く夢に向かっていく世界をのぞいてみたいと思って臨んだら、すごく楽しかったんです。
ラッキーだったと思います。アナウンサーが言えないようなことを言って、怒られもしましたけど、それが許される立場でしたから。今振り返ると、怒られても仕方ないことばかり言っていました(笑)。スタッフは大変だったと思います。
ただ、好きに勝るものはないから、常に好きなものを持っていたいですね。仕事でもプライベートでもそれに出会えた人は幸せです。
今の日本に足りないのは世の中に声を上げること
2026年の最初の作品は、主演を務めた連続ドラマ「北方謙三 水滸伝」(WOWOW、Lemino)。壮大なスケールの歴史ドラマだ。
織田 これまでのキャリアで大作と呼ばれる作品にはいくつも出演してきましたが、これほど大規模な撮影に関わるのは初めてです。スケールが群を抜いています。
本作が描くのは「理不尽な権力への怒り」や「仲間との絆」。舞台となる国も時代も異なるが、そこには現代の日本社会に通じる生き方への問いかけがあるように感じる。
織田 この作品に参加して、今の日本に足りないのは、声を上げることだと感じました。
ひと昔前はストライキやデモが日常的にありました。それがいつしかほとんどなくなり、社会が成熟していくなかで、人々の生活は良くなっているはずなんですけど、何かしらの不満や鬱屈があり、それに黙って耐えているような息苦しさが蔓延している。
SNSなどネットで声を上げる人はいるけど、それが政治や世の中に広く届いているかには、疑問符が付きます。もしかすると、人々の我慢が限界を超える時代がすぐ近くまで迫っているかもしれない。そんなことを思ったりもします。
ただ、新しい女性首相が誕生したことで、これまでの流れが少し変わりました。僕は日本で生まれて、日本で死にたい。世界の経済戦争でずっと負けていますが、日本を諦めていません。
そんな織田にとって26年はどんな1年になるのか。
織田 まずは「北方謙三 水滸伝」です。出演者、スタッフがとてつもない熱量を持って取り組みましたので、多くの人に観てもらえて、好きでも嫌いでも感想をいただけると嬉しいです。
僕は連続ドラマが好きです。第1話で離れる人がいたり、逆に口コミでどんどん盛り上がっていくような波が起きる場合もある。ただ、面白い作品を作るのは、いろいろな偶然が重なって起きる奇跡に近い。今回のチームはそういう結果が出せると信じています。