年明け早々、中国が日本に対して仕掛けてきた。1月6日、中国政府は日本向けのレアアースを含む軍民両用物資の輸出を事実上停止して、審査手続きを凍結すると発表した。日本政府は翌日「絶対に受け入れられず、深刻な懸念を持っている」とコメント。日中関係は緊張感を増している。文=ジャーナリスト/一木悠造(雑誌『経済界』2026年4月号より)
「高市発言」で中国が切った対日圧力カード
中国はなぜ、年明け早々このような措置を日本に対して講じてきたのか。それは去年11月の国会で高市首相の「台湾への攻撃は日本にとって存立危機事態となり得る」という発言に対して中国が反発したことが今回の措置のきっかけとみられている。
高市氏の発言以降、中国は日本に対してさまざまな「圧力カード」を切ってきた。最初に切ったカードは中国の国民に対する日本への渡航自粛呼びかけ。そして、切り札としての次のカードが、今回の対日レアアース輸出規制だったのだ。
中国はこのレアアースを外交交渉のカードとして幾度となく使ってきた経緯がある。中国のレアアース採掘や精錬生産の歴史は古い。1960年代頃から中国国内での開発を皮切りに、今やレアアース覇権を一手に握っているとされている。かつて中国の最高指導者だった鄧小平は92年の南巡講話でこう公言している。「中東に石油あり、中国にはレアアースあり」つまり、石油エネルギー全盛時代とも言える時代から、中国はレアアースが外交における「武器」になると見越していたのである。
レアアースとは17の元素からなる希少金属の総称で、自動車やスマホ、工業用部品として日本ではさまざまな業界で優れた金属部品材料として利活用されている。そして日本はさまざまな産業に活用される金属部材として欠かせないレアアースを中国に大きく依存している。財務省の貿易統計によると、2024年の日本のレアアース国別輸入量は約6割、5200トン余り。ちなみに約3割、2600トン余りをベトナム、残り約400トンほどをタイから輸入している。
中国によるレアアースショックに直面している日本だが、今回が初めてではない。最初のレアアースショックは10年9月。尖閣諸島沖で中国漁船が日本の海上保安庁の巡視艇に衝突。この事件で海保が船長を逮捕、外交悪化に配慮した形となり結果的には釈放された。この事件後、中国は日本へのレアアース輸出を禁止した。当時、この措置は日本の産業界に大打撃を与えることになった。
関東地方のあるメーカーもその影響を多分に受けたという。このメーカーは、レアアースが含まれるネオジム磁石と呼ばれる重要な部品を中国から輸入している。ネオジム磁石はスマートフォンのバイブ機能などさまざまな用途で活用されている。
「2010年のレアアースショックは大打撃だった。経営が傾くかもしれないと真剣に考えた」(メーカー関係者)
営業部門や自らも調達に奔走するなどし、ギリギリのところでネオジム磁石を確保することができたという。こうした経験からこのメーカーでは、調達先の多角化、脱中国レアアースを目指していった。
一方で昨年春の米中対立に端を発した中国のレアアース輸出規制にも振り回された。レアアースを卸してもらっている会社から、レアアースを納品できないとの連絡が昨年夏に届いたという。ただ10年の時の経験から、調達先を広げていたため余裕を持って在庫の確保ができた。その分、思わぬ影響もあり「在庫余剰が出てしまった」(前出・同)という。
今回のレアアースショックでも、調達先や在庫を確保しているためそれほど大きな影響はないというが、別のレアアース資材は今も中国からの輸入に頼っている。そのため「輸出規制の長期化を不安視」(前出・同)。
外交に左右される日本のレアアースサプライチェーンだが、中国側もレアアース輸出を止めることであまりメリットはない。「日本はレアアース調達の多くを中国に頼っているから、そこへの輸出が止まれば中国のレアアース輸出企業の売り先がなくなるということを意味する」(前出・同)これは裏を返せば中国側もレアアースの大口輸出先である日本市場への足がかりを失うことになるということだろう。
日本企業で活発化する脱中国依存の動き
このメーカーは中小企業規模だが、大手企業になるとその準備は万端だ。大手自動車メーカー各社にいたっては、今回の輸出規制を受けても「大きな影響はない」(某自動車メーカー関係者)とした上で、当面のレアアースの在庫については半年程度分は確保しているという。
調達先の多角化が多くの企業で進められる一方で、中国のレアアースを用いずに商品製造を行っている企業もある。関東地方にある別のメーカーでは、比較的調達しやすいノンレアアースの磁石と独自の部品を組み合わせて、レアアースが含まれるネオジム磁石と同等の出力の実現に成功。今ではそのノンレアアース部品は量産の域に達していて右肩上がりで生産数を増やしているという。 どうやって実現できたのか。
「ものづくりの世界では〝いかに高精度なものを作るか〟が大事だ。レアアースと同等の出力を実現するため、とにかく試行錯誤した。磁石の流れ方を細かくシミュレーションし最適な形状にするために失敗も繰り返した」(メーカー関係者)
日本が持つ技術力でレアアースの中国依存を減らそうという企業側の取り組みのひとつである。
1月12日には世界で初めてとなるレアアース国産化に向けた一歩となる動きがあった。
この日、静岡の清水港を1台の大型船が日本の本土から約2千キロ離れた、日本の排他的経済水域(EEZ)内の南鳥島に向けて出港した。大型船は、海洋研究開発機構(JAMSTEC)の地球深部探査船「ちきゅう」。目指す南鳥島の沖には、約1600万トンの「レアアースを含む泥」が深海約6千メートルの海底に埋蔵されているとみられる。
この「レアアース泥」を日本のレアアース資源として国産化していくための壮大なプロジェクトは約15年前からスタート。内閣府にプロジェクトチームが設置され、JAMSTECや関連団体、民間企業、大学からも参画し、南鳥島のレアアース泥を国産化しようというプログラムがロードマップに則って進められてきた。南鳥島沖に眠るレアアース泥は〝夢のレアアース〟でもある。
まず大きいのが、一般的にレアアースに含まれるとされる放射性物質をほとんど含まないとされていることだ。プロジェクトチームでは泥のサンプリング・分析を進め、探査船からパイプを深海底6千メートルに伸ばして海底に突き刺し、レアアース泥を回収するという前代未聞の採掘法を考案。日本の近海沖で実証実験を行い、今回満を持して出港した。
南鳥島沖で成功した国産レアアース採取
探査船は1月17日ごろに南鳥島沖に到着し、事前準備を経て2月1日には海底の複数の箇所からレアアース泥を探査船上にくみ上げ、ボトルに詰められた。採取量は公開されていないが、レアアース泥は日本国内で分離・精錬作業が行われる。
そもそもレアアース採掘の一番のネックは、放射性物質の分離作業である精錬だ。実際にレアアースの埋蔵量に加えて精錬工程も国内でカバーできているのが中国のレアアース覇権を支えている厳然たる事実だ。南鳥島沖のレアアース泥も放射性物質はほとんど含まれないとされていながらも、未知なる鉱物の処理であることは間違いなく、作業従事者の健康被害の懸念はある。今回のプロジェクトはこうした課題解決も含めた、レアアース国産化に向けた具体的な動きとなる。
プロジェクトチームが発表した工程表によれば、来年2月以降に1日で約350トンのレアアース泥を採取することを目的とし、輸送コストや分離・精錬コストも算出していって、商業ベースの経済性を慎重に見極めていくとしている。
ある政府関係者はレアアース国産化の具体的な動きを歓迎しながらも「日本国内での分離処理の問題など多くの課題が残されている中で国産化に向けてどれほどの時間を費やしていくことになるのか」と巨額の資金と多くの時間を費やし続けなければいけない可能性に不安を感じているという。実際にプロジェクトのスタートから15年以上を費やしてようやく具体的に動き出していることを考えてみても、この関係者の言葉の意味は重い。
レアアースの調達の不安に日本はどう立ち向かっていくべきなのか。中国の一番の強みは、一大産地としての「上流」から、分離・精錬・生産までの「下流」を一手に押さえていることである。一方、日本が得意とするところはレアアース工程における「中流から下流」の分野だ。レアアースを含むネオジム磁石の製造、そのネオジム磁石を用いた小型モーターなどの製造、そしてそれらの部品を私たちが利用する商品に確実に実装していく技術だ。
脱中国依存の動きが多くの企業で進む中で「上流」の調達の部分を独自の技術でカバーしようという動きも広がりつつある中で、政府のさらなる支援も含め、より一層の官民連携が求められているといえよう。