投稿サイトでのブレイクをきっかけに、2016年に広告クリエイターから漫画家へと転身したかっぴー氏。代表作『左ききのエレン』はドラマ化、舞台化、アニメ化と多角的に広がっている。成功の道を歩む気鋭の作家が思う業界課題と次なる目標とは。IP(知的財産)ビジネスと漫画家のリアルに迫る。(雑誌『経済界』2026年7月号より)

かっぴーのプロフィール

かっぴー
漫画家/漫画原作者 かっぴー
1985年生まれ。神奈川県出身。武蔵野美術大学を卒業後、2009年に広告代理店の東急エージェンシーに入社し、アートディレクターとして勤務。面白法人カヤックを経て、16年に漫画家として独立した。『左ききのエレン』をcakesで連載、SNSを中心に話題を呼び「少年ジャンプ+」でリメイク。現在は同作の他、『大人大戦』を週刊連載中。5月に初のビジネス書『天才になれなかった全ての人へ 自分だけの武器が見つかる才能論』を刊行。

投稿サイトで話題になり少年ジャンプ+でリメイク

── 2016年に広告クリエイターから漫画家に転身して独立しました。その理由を教えてください。

かっぴー 今も描き続けている『左ききのエレン』という作品のストーリーを思いついたから、というのが一番大きいです。その当時、会社員でありながら読み切りの漫画を描いて、cakesという投稿サイトで賞をいただき、連載ができることになりました。それで漫画家としてチャレンジしたのです。

 一応、クリエイターとしてのキャリアもあったので仮にうまくいかなかったとしても再就職できるだろうと。そういう意味では無謀な挑戦ではなかったかなと思います。ただ、今思うと人生で一番の転機でしたね。

── それでもcakesでのエレンの連載が話題になり、翌17年から「少年ジャンプ+」でリメイク連載がスタートしました。珍しい形でのステップアップだったと思います。

かっぴー すでにONEさんが投稿サイトでの人気をきっかけに『ワンパンマン』を連載していたので、そういう展開も可能性としてはあるのかなとは思っていました。でも、当時は漫画家という職業がどういうものか、どういうキャリアを歩んでいくのか分かっていなくて、とにかくジャンプコミックスで単行本を1冊出せたらそれだけで十分だと。おじいちゃんになっても一生自慢できると思っていましたね。

── リメイク版ではかっぴーさんが原作者で、作画はnifuniさん、最初の編集担当は『SPY×FAMILY』や『チェンソーマン』を手がける林士平さんでした。

かっぴー はじめに林さんからご連絡をいただき、「ジャンプスクエア」でオリジナル作品の連載をさせていただくことになったのですが、同時期に「エレンをリメイクしませんか」というお話をいただき、少年ジャンプ+で連載することになりました。

 林さんは本当に優しくて大らかな人で、直しは全然なかったです。「いいですね」と肯定してくれるタイプで、逆に心配になったぐらいです(笑)。ただ、エレンは僕が思ったとおり描くのがいいと尊重してくれたのかもしれないですね。この作品では5年間で4人の編集の方に担当してもらいましたが、200話以上で直しは2箇所ぐらいでした。でも今、手がけている作品では1話で4箇所指摘いただくこともあるので。

 nifuniさんはもともと原作の読者で、ストーリーや内容への理解が完璧でした。

 制作にあたってよくお話するのは演技指導のような部分ですね。特に表情についてはこだわって伝えていました。表情を描くのって画力とは違うベクトルで、うまい人ほど制限がかかってしまうこともあって。それで「こういう顔です」と自分の顔写真や動画を送っていました。

左ききのエレン
かっぴー氏が作画まで行う原作版『左ききのエレン』は現在、投稿プラットフォームのnoteで連載中
©︎kappy2018/ナンバーナイン

原作から何かを変えるなら対決する気で良くしてほしい

── デビューからわずか3年でドラマが始まり、翌年には舞台も公演されるなど多角展開していきました。

かっぴー ドラマ化の話はデビュー1年目の時に来ていました。ただ、少年ジャンプ+でのリメイクの話もあったので、連載が始まって、ある程度、巻数がいって広く知られてからにしたいと待ってもらったのです。

 ドラマ化や舞台化はすごくうれしかったのですが、冷静に考える部分もありました。自分が成し遂げたというより周りが進めてくれた感覚で、自分のレベルが上がっているわけではないと。時間も気持ちも割かれて忙しくなるし、だからといって実入りが特別多いわけでもなく、そこまで浮かれることはなかったです。

── 4月からはアニメがスタートしました。今作ではご自身も製作委員会に出資し、制作にも携わっているそうですね。

かっぴー アニメで利益化する難しさは分かっていましたし、儲かりそう、というよりも、面白そうという気持ちから出資しました。どうでもいいことにお金を使うよりも、わが子のような作品ですし、それこそ子どもの習い事にお金を出すような、そんな感覚ですね。

 制作にあたっては、キャラクターデザインから持ち物の資料まですべて確認し、絵コンテや脚本もチェックしました。それとグッズの監修やアフレコへの立ち会いもしました。

左ききのエレン
アニメは2026年4月からテレビ東京系列で放送。Prime VideoやU-NEXT、Huluなどの動画配信サービスでも視聴できる
©かっぴー/アニメ「左ききのエレン」製作委員会

── グッズで言うと、漫画に登場するブランド『AK5』のアパレルも実際に作って販売していますね。

かっぴー グッズ化するなら本当にいいものを作りたいと思っていて、AK5のアパレルは中目黒にある「BIN」というセレクトショップとのコラボで作っています。今、着ているこの黒いシャツも、シワにならない素材でオーバーサイズでストリートっぽく着られるカッコいい服に仕上がって、すごく気に入っています。

── ドラマやアニメなどに展開されるにあたって、作者としてゆずれないところやこだわりはありますか。

かっぴー 変えるなら絶対に良くしてほしいということだけですね。エレンは「グラフィティ」から始まっている作品で、そのルールとして「いいものは上書きできる」という考えがあります。その上で、原作順守にはこだわっていませんが、物語のメッセージは変えないようにしたい。「夢は信じれば叶う」という結末になったり、エレンと光一が恋愛したりするのは違います。そこさえ守って、変えるなら原作と対決するつもりで良くしてほしいと伝えています。

左ききのエレン
『左ききのエレン』の作中のブランド『AK5』を実際のアパレルやアイテムとして展開。エレンが着るコート『新月』(左)、作品の世界観を表現した『エレンウォッチ』(右)

お金を稼ぐだけじゃなく一大イベントに挑戦したい

── エレンはシャンプーの『スカルプD』をはじめ実際の商品とのコラボも多く実施しています。特に印象に残っているものは。

かっぴー 連載初期に携わったサントリーさんの『ザ・プレミアム・モルツ』は特に印象に残っています。じわじわ広がって長い間、話題にしてもらえましたし、漫画にも登場させられたことで記録にも残る、良いコラボになったと思います。

左ききのエレン
サントリー『ザ・プレミアム・モルツ』とのコラボでは、作中で主人公の朝倉光一たちがデザインした広告ビジュアルが渋谷駅に実際に掲出された(画像は実際のポスターを基にしたイメージです)

── 今後の漫画業界をどのように見ていますか。

かっぴー 最近は過去作品のリバイバルばかりで、今しかない新しいものを作っていかないと終わってしまうのではないかと危惧しています。今の子どもたちは「漫画離れ」が始まっているという話もありますし、子どもたちが求めているもの、新しい『ONE PIECE』や『鬼滅の刃』のような時代を代表する作品が出てこないといけないなと。そのために今の子どもの憧れや想いを理解しないといけないと思っています。

── 現在、少年ジャンプ+で連載中の『大人大戦』は、まさに今の時代をテーマにした作品です。

かっぴー この作品は日頃の鬱憤や考えを吐き出しています。僕はSNSで注目されて漫画家になったのですが、SNSやインターネットでの相互監視、アテンション・エコノミーに対して思うところがあります。悪名でも注目されたもん勝ちという世界が嫌で、それに合わせて人格を変えるのも気持ち悪い。そういった歪んだ世界をブラックジョークにしてエンタメに昇華したのが大人大戦です。すごく気に入っています。

── 海外の反響も大きいですね。

かっぴー 少年ジャンプ+は「MANGA Plus」という名称で全世界で広く読まれていて、最新話も翻訳されて同時公開されます。その反響がSNSで見られるのですが、海外の読者も日本の読者と同じところを面白がってくれていて、みんなが同じ気持ちで読んでくれているのはうれしいですね。

 MANGA Plusではジャンプ本誌を含めたランキングがあるのですが、大人大戦は善戦しているみたいで、海外の方が反応がいいのかも、と思う時もあります。僕がSNSで英語で投稿すると、たくさんのコメントももらえて驚いています。

大人大戦
2025年から「少年ジャンプ+」で連載している『大人大戦』は、SNSでの“監視社会”をテーマとする
©︎かっぴー・都築真佐秋/集英社

── 海外を意識して作っている部分もあるのでしょうか。

かっぴー 面白い漫画を描けば自然と広まると思っていますし、特に戦略などはありません。ただ強いて言うなら、逆に日本的であろうと思っています。日本が舞台の作品であれば、日本のサラリーマンや学生、カラオケやゲームセンターなど、日本の当たり前をカッコ良く、魅力的に描ければと思っています。

── 話は変わりますが、漫画家の待遇や収入面についてはどのように見ていますか。

かっぴー あまり良くないですし、大変な人は多いと思います。「連載赤字」という言葉があるくらいで、連載していても原稿料だけだとアシスタント代などを払うと赤字になることも多い。単行本が売れて初めて利益が出る感じですね。僕は大ヒット作がない中堅ぐらいのポジションですけど、それでもそうなれるのはひと握りで。今は投稿サイトなどもあって簡単に漫画家になれますけど、その分、収入面で不幸になる人も増えたと思います。

── 最後に今後の目標を聞かせてください。

かっぴー 最初は30年で10億円稼ぎたいって思っていたのですが、物価が上がり続けているので15億円を目指したいですね(笑)。今10年目で、あと20年でトータル15億稼げたら幸せに暮らせるかなと。

 ただ、そこを粛々と目指すだけじゃつまらない。例えば「週刊少年ジャンプ」で連載するような一大イベントに挑戦したい。今はいろいろなことをやりすぎて中途半端なんですよ。漫画家、原作者という本業がおろそかになっているところがあって、それを全部やめて、自分が一番面白いと思うストーリーを作ることに集中したいですね。