『ドラえもん』や『クレヨンしんちゃん』といった長寿作品を手がけるシンエイ動画は、伝統を大切にしながら、積極的に新たなジャンル、事業にトライする。長くアニメに携わる梅澤道彦社長が自社で制作する作品への想いと、チャレンジへの奨励、自身が企画・プロデュースする新作映画『君と花火と約束と』を語る。(雑誌『経済界』2026年7月号より)

梅澤道彦 シンエイ動画のプロフィール

梅澤道彦
シンエイ動画社長 梅澤道彦
うめざわ・みちひこ 1956年9月30日生まれ。東京都出身。79年に全国朝日放送(現テレビ朝日ホールディングス)入社、2005年に同社編成制作局映画センター長に就任。10年にシンエイ動画に移り常務取締役に就任、12年から社長を務める。同社にてアニメ作品のプロデューサーも務め、映画『STAND BY ME ドラえもん』ではエグゼクティブプロデューサーとして第34回藤本賞を受賞。

2つの長寿作品は、原作の精神を大事にしている

── アニメ制作市場は海外展開の活発化もあり、右肩上がりに成長しています。

梅澤 数字的な面では、弊社も売り上げや利益が伸びていますので、市場が拡大している実感はあります。また、より身近な感覚で言うと、市場全体で制作本数が非常に増えています。現在はテレビの放送枠が増え、YouTubeなどの動画配信プラットフォームもあって特にここ2、3年でさらに加速した印象がありますね。

── アニメ人気の向上には、どのような要因があるとお考えですか。

梅澤 制作したすべての作品が人気というわけではありませんが、弊社で言えば『ドラえもん』や『クレヨンしんちゃん』、他社さんであれば『名探偵コナン』や『ONE PIECE』のように数十年続く作品が土台にあり、そこに『鬼滅の刃』のような新たなヒット作品が次々と登場しており、全体的な人気向上につながっているのではないでしょうか。

── ドラえもんやクレヨンしんちゃんが長く愛される中で、時代に合わせて変えたこと、あえて変えなかったことはありますか。

梅澤 2つの作品に共通して言えるのは、原作の精神を大事にしている点です。ドラえもんは藤子・F・不二雄先生が描かれた世界観を大切にしています。今の時代に合わせて携帯電話を出すようなことはしていませんし、土管のある空き地のような当時の風景も残しています。原作にない部分を加えてしまうと世界観が崩れてしまうからです。

 一方で、「ひみつ道具」については、原作にはない新しいものを今の時代や今の子どもたちの興味や関心に合わせて作りだすこともあります。ただ、やっぱり藤子・F・不二雄先生は天才的で、最近ではタケコプターに近い製品が開発されるなど、先生が描いた「ひみつ道具」に、現実の技術が追いついてきている感じがしますね。

── クレヨンしんちゃんについてはいかがでしょうか。

梅澤 しんちゃんは青年誌の「漫画アクション」で連載していて、もともとは大人向けの作品でした。原作はアニメよりも毒がある内容なのですが、アニメ化にあたって子ども向けにリメイクしたのです。その「アニメのしんちゃん」というキャラクターを大切にして作り続けています。

配信チャネルの増加は間違いなく追い風に

── 最近ではスピンオフの『野原ひろし 昼メシの流儀』も話題になりました。また映画の『STAND BY ME ドラえもん』も3D技術を取り入れた従来のアニメとは全く異なるものでさまざまなバリエーションのアニメを手がけています。制作における強みはどのようなところにあると考えていますか。

梅澤 強みと言えるかは分かりませんが、現場の若い人たちが「これをやりたい」と言った時は、できる限りのサポートをして挑戦できるようにしています。実際にトライすることで成功体験を得たり、失敗から学んだりすることができますから。そうした中、今はYouTubeの他、動画配信サービスもたくさんあり、制作した後の〝出口〟が多様化したことでより挑戦できる環境になりました。それによって制作の幅も広がってきていると思います。

── 配信チャネルの増加は、業界にとって追い風になっているのでしょうか。

梅澤 間違いなく追い風になっています。ただ一方で、制作本数が過剰になっているとも感じています。アニメは人が描くもので、描き手の数は限られており、若手も育ってきているものの、工場の生産ラインのように単純に増やせるものではありません。うちもいろいろなお話をいただきますが、新しい作品に着手できるのは2029年か30年で、他社さんもそれぐらいまで先約で埋まっているのではないかと思います。

── そうした中でも『PUI PUI モルカー』や『銀河特急 ミルキー☆サブウェイ』といったヒット作も生まれています。

梅澤 どちらもクリエイターさんの才能に依存する部分が大きい作品です。「モルカー」は見里朝希監督のストップモーションの手法で制作したショートアニメで、「ミルキーサブウェイ」は亀山陽平監督が卒業制作でYouTubeに公開して話題となった短編3Dアニメの続編です。お2人とももともと素晴らしい作品を作られていて、「この人と組みたい」と思うだけの才能を感じてご一緒させていただきました。

モルカービジュアル
『PUI PUI モルカー』は2021年に第1期、22年に第2期がテレビで放送され、映画も21年、22年、24年に公開された
©見里朝希/PUI PUI モルカー製作委員会
銀河特急 ミルキー☆サブウェイ
YouTubeでのヒットをきっかけに続編として制作された『銀河特急 ミルキー☆サブウェイ』 ©亀山陽平/タイタン工業

── 映画も23年公開の『窓ぎわのトットちゃん』に続き、25年公開の『ペリリュー ─楽園のゲルニカ─』が日本アカデミー賞優秀アニメーション作品賞を受賞しました。

梅澤 ペリリューは、全11巻の長い原作漫画を110分程度の映画にまとめる脚本作りが最も大変でした。映像面では、プロデューサーと監督が現地へロケハンに行き、実際に戦車の残骸や植物などを見て、リアルに再現することに注力しました。凄惨な戦争をテーマとした作品ですが、原作のキャラクターが二頭身でかわいらしいことで、その厳しい現実をアニメとして受け入れられる形にできたと思います。

ペリリュー
ペリリューの戦いを参考に作られた『ペリリュー ─楽園のゲルニカ─』は2026年の日本アカデミー賞優秀アニメーション作品賞を受賞
©武田一義・白泉社/2025「ペリリュー ー楽園のゲルニカー」製作委員会

30年、40年と続くような作品を生み出していきたい

── 7月17日から、梅澤社長ご自身が企画・プロデュースされた新作映画『君と花火と約束と』が公開されます。

梅澤 25年が戦後80年という節目であり、戦争の記憶が風化していく中で何かを残したいという想いで企画しました。モチーフに長岡の花火大会を選んだのは、1945年8月1日22時30分頃から始まった長岡空襲で亡くなった1500人近い方々への慰霊と、街の復興を願って始まったという歴史を知ったからです。その悲しい過去だけでなく、現代につながる美しい花火を結びつけることで、若い世代の方々にも見てもらいやすい作品になったのではと考えています。

── どのような流れで制作、公開に至ったのでしょうか。

梅澤 長岡の花火大会を何度か見て、地元の方々からお話も聞いて、ぜひ映画にしたいと思い、作家の真戸香さんにご相談して本を書いていただいたのがスタートでした。まずはA4の紙で4、5枚のプロットにまとめ、それをもとに話し合って骨格を作り、それから執筆していただきました。それで原稿ができあがってnoteで連載して、その後、小学館さんが書籍として扱ってくださって、映画の製作委員会を立ち上げて出資者を募り、映画化することが決まりました。

── ビジネス面についてうかがいます。映像ライセンスの事業について現状はいかがでしょうか。

梅澤 本格的に取り組み始めたのはここ数年で、動画配信サービスや海外への映像提供によって売り上げは伸びています。ただこれは、成長しているというより、始めたことで新しい取引が増えている形で、伸ばしていけるかどうかはこれからですね。それと今、われわれを含むアニメ関連会社が良い成果を出すことができているのは、コンテンツ力が上がって映像への評価が高まっていることもありますが、加えて、海外取引での円安の影響も大きい。輸出企業ですから、ドルなどの海外通貨での取引に際して、円安による為替の恩恵を受けられているのもありますね。

── IP(知的財産)の活用、特にグッズ展開などの可能性についてはどうお考えですか。

梅澤 ドラえもんやクレヨンしんちゃんは他社さんが窓口になっていまして、自社で特に力を入れているのは『あたしンち』です。YouTubeチャンネルの登録者数が160万人を超え、リバイバルヒットの兆しがあります。モルカーやミルキーサブウェイ、それとあたしンちは今後、海外も含めた商品化にも注力していく予定です。

── 今後の目標をお願いします。

梅澤 ドラえもんやクレヨンしんちゃんを、子どもたちが成長過程で必ず通る〝登竜門〟のような作品として、これからも大切に作り続けていくこと。それと新しい作品にも積極的にチャレンジしていきたい。その2つを車の両輪として取り組んでいきます。

 今は1クール(3カ月ごとの放送期間)ごとにプロジェクトが途切れてしまう難しさがあります。その中で伝統的な作品を守りつつ、同時に新しい挑戦の中から、また30年、40年と続くような作品を生み出していきたいと考えています。

君と花火と約束と
梅澤社長が企画・プロデュースする新作映画『君と花火と約束と』は7月17日に公開。新潟の長岡まつり大花火大会を舞台とする
©映画「君と花火と約束と」製作委員会
シンエイ
2002年にアニメ化された日常コメディ『あたしンち』。24年から26年3月にかけて第3期が放送された。過去には映画化もされている
©けらえいこ/シンエイ