ディスカウントストア「ドン・キホーテ」を展開するパン・パシフィック・インターナショナルホールディングス(PPIH)のM&Aが止まらない。これまで長崎屋やユニーを買収してきたが今度はOlympicグループを子会社化する。その先に描いている絵はいかなるものなのか。文=ジャーナリスト/下田健司(雑誌『経済界』2026年7月号より)

創業から約50年 2兆円企業のPPIH

 PPIHがオリンピックグループを買収すると発表したのは4月6日のこと。

 両社は2026年7月をめどにオリンピックグループを完全子会社化する株式交換契約を結んだ。オリンピックグループ株式1株に対してPPIH株式1・18株を割り当てる。オリンピックグループは6月29日に上場廃止となる。

 発表資料によると、オリンピックグループは26年1月、みずほ銀行を通じて、企業再編を伴う戦略的パートナー選定の入札プロセスを開始した。同月下旬にPPIHを含む5社から意向表明書を受領。オリンピックグループは、意向表明書の内容に基づき、自社に対する理解、株式価値に対する評価、業容拡大につながる施策、企業再編のストラクチャーなどについて比較検討を行い、PPIHを戦略的パートナーの最終候補先として選定した。

 入札には、小売大手のイオンや、岐阜県を地盤に食品スーパーやドラッグストアを展開するバローホールディングスなどが参加した模様だ。

 PPIHは長崎屋やユニーといった総合スーパーを買収し、再生に成功した実績を持つ。小売業界のM&A(合併・買収)で、イオンと並んでたびたび顔を出してきたPPIH。経営不振が続くオリンピックグループをどう立て直すのか。

 在庫処分品を扱うバッタ屋に始まり、「ドン・キホーテ」の成功で時代の寵児となったPPIH。小売業界で異端視されながらも、今や売上規模は2兆円を超え、業界上位に名を連ねる企業に成長した。

 PPIHはドン・キホーテをはじめ、ユニーや長崎屋、UDリテール、橘百貨店などの小売事業会社を傘下に抱え、グループ会社数は80社、グループの総店舗数は国内663店舗、海外124店舗の合計787店舗となっている(26年3月末)。

 25年6月期の連結業績は売上高2兆2468億円、営業利益1623億円。36期連続での増収・営業増益を達成した。営業利益率は業界で高水準の7・2%に達する。25年8月に公表した長期経営計画では、定量目標として35年6月期に売上高4兆2千億円、営業利益3300億円を掲げている。25年6月期に比べて、売上高は87%増、営業利益は約2倍となる計算だ。営業利益率は7・9%に引き上げ、収益性も改善させる計画だ。

 PPIHは1978年、創業者の安田隆夫氏が29歳の時、東京・西荻窪に売場面積18坪の雑貨店「泥棒市場」を開業したことに始まる。89年に東京・府中に「ドン・キホーテ」1号店となる府中店を出店し、多店舗化に乗り出した。幅広い品揃えと安さ、深夜営業、商品を山積みする「圧縮陳列」、手書きPOPなどが消費者に受け、業績を伸ばしていった。

 M&Aも手がけるようになり、2007年にホームセンターのドイト、総合スーパーの長崎屋をそれぞれ連結子会社化した。17年にはユニー・ファミリーマートホールディングスと資本・業務提携し、ユニーに40%を出資。19年にユニー株式を60%追加取得し完全子会社化した。

 13年、社名をドンキホーテホールディングスに変更し、純粋持ち株会社体制に移行。19年には社名をパン・パシフィック・インターナショナルホールディングスに変更した。

 オリンピックグループでは、長崎屋とユニーでの再生手法が生かされることになりそうだ。

長崎屋、ユニーに見る PPIHの再生手法

 経営不振に陥っていた長崎屋は00年に会社更生法の適用を申請し、事実上破綻した。06年に会社更生手続きを終結させた。ドン・キホーテ(現PPIH)は07年に長崎屋を連結子会社化した。ドン・キホーテ流で値付け、陳列などを店舗に任せた。仕入れについてはチェーンストアでは本部集中が一般的だが、これも店舗主導に変えた。そして、長崎屋の既存店舗を「ドン・キホーテ」や、再生策の中核として開発した大型店「MEGAドン・キホーテ」に転換していった。MEGAドン・キホーテはドン・キホーテの特徴を生かしながらも、家族層に照準を合わせ生鮮や日用品を強化した店舗だ。得意の手書きPOPや圧縮陳列は抑え気味にし、家族層も買物できるようにした。

 これが当たり、MEGAドン・キホーテに転換した多くの店舗が長崎屋時代に比べて売り上げを急回復させていった。長崎屋の店舗の大半は「MEGAドン・キホーテ」に転換され、「長崎屋」ブランドはほぼ姿を消した。長崎屋立て直しの成功はPPIHの成長に弾みをつけた。

 ユニーにおいても長崎屋再建の手法が踏襲された。17年にユニーの40%株式を取得後、ユニーの既存店舗をユニーと共同運営の「MEGAドン・キホーテUNY」へ転換していった。狭く不規則な通路、圧縮陳列の売場などドンキ化を進めるなど、約60店舗をダブルネーム店に切り替えた。

 ユニーの場合も、長崎屋と同じように、本部主導から店舗主導の運営方式に変えていった。店舗へ権限を委譲し、店舗を活性化したことが再生の原動力となった。売場の専門店化も進め、鮮魚や精肉の売場は、直営の専門店を立ち上げている。

 25年6月期のユニー事業は、売上高4701億円(前期比1・7%増)、営業利益352億円(3・1%増)の増収増益。収益性も改善し、営業利益率は7・5%(0・1ポイント増)に達している。

 PPIHが7月をめどに買収するオリンピックグループは1962年、東京都立川市に1号店を出店し創業した。食品スーパー、ディスカウントストアのほか、傘下の事業会社が運営する自転車・ゴルフ用品・靴・車用品などの専門店を食品スーパーやディスカウントストアと組み合わせた複合店を東京・神奈川・千葉・埼玉・群馬の1都4県で約120店舗展開する。

 経営環境が厳しさを増す中、1都3県(東京・神奈川・埼玉・千葉)での地域集中出店によるシェア拡大、ローコスト運営とキャッシュフロー重視、専門店を志向した業態戦略、グループ企業の効率運営と業容拡大の4つの柱を掲げ、事業拡大・収益改善のための施策に取り組んできていた。

 売上高は1千億円を超える時期もあったが、近年は伸び悩み、業績は低迷していた。2026年2月期の連結業績は、売上高が981億円で、営業損益が23億円の赤字。最終損益は3 期連続の赤字となった。

新業態スーパーのロビン・フッドへの転換

 PPIHによる買収の背景には、後継者問題に端を発した内紛も指摘されている。ここ数年、経営体制は目まぐるしく変わっている。

 18年、長年社長を務めてきた創業家出身の金澤良樹氏(故人)が代表権のある会長CEOに就き、みずほ銀行出身で12年から副社長を務めていた木住野福寿氏が社長に昇格し、26年ぶりに社長が交代した。そして、監査法人出身で17年から顧問を務めていた大下内徹氏が副社長に就いた。

 22年、大下内副社長が社長に昇格。金澤会長の親族である金澤祥貴氏と金澤伸幸氏が揃って取締役に就き、木住野社長は辞任した。

 25年4月、伸幸氏が代表権のある副社長に就くとともに、中核子会社Olympicでは常務だった祥貴氏と伸幸氏が揃って代表取締役副社長に就いた。金澤会長CEOは、5月に代表権が外れ取締役会長に就き、9月に77歳で死去した。

 26年3月、子会社オリンピックで大下内社長が会長に就き、伸幸副社長が社長に昇格。祥貴副社長は役職を外れた。オリンピックグループでは5月に取締役の祥貴氏が退任し、大下内社長、伸幸副社長の2人が代表権を持つ体制となる予定だ。

 不安定な経営体制だけでなく、人件費や物流費の上昇など経営環境も厳しく、競争も激しさを増している。中長期の展望も見通しにくい状況にあった。

 PPIHは具体的な目標数値を26年6月期の決算発表で公表する予定だが、オリンピック買収によるシナジーは以下の2点を挙げている。

 1つ目は出店面だ。オリンピックグループの店舗の約3分の2(約80店舗)は東京都内にある。既存店舗の商圏や立地条件からPPIHの既存店舗と競合するケースは限定的と見ている。今後10年間で約250 店舗の出店を計画しているPPIHにとっては、一気に首都圏の店舗網を拡大できるメリットは大きい。

 オリンピックの既存店舗は、「ドン・キホーテ」や「MEGAドン・キホーテ」のほか、食品強化型ドンキ「ロビン・フッド」に転換する。

 ロビン・フッドは、長崎屋、ユニーを買収したことで調達力が向上した生鮮の集客力とドン・キホーテの非食品による高い収益性を組み合わせた店舗だ。非食品の面積構成比は、一般の食品スーパーで10%程度だが、これを40%程度に広げ、売上構成比を25%と想定している。26年4月に愛知県で1号店を開業しており、26年6月期には5店舗をオープン、27年6月期に首都圏で店舗網を拡大する計画だ。そして、35年までに200〜300店舗に拡大し、売上高6千億円、営業利益360億円を目標としている。オリンピックの買収でロビン・フッド事業推進に弾みをつける考えだ。

 2つ目は商品面や運営面でのシナジーだ。両社が持つ食品・日用品の価格競争力と、オリンピックが強みとする非食品カテゴリーの専門性を融合させることによって、PPIH全体の非食品分野の競争力強化につながると期待する。また、主に仕入帳合いの統一による原価低減効果がオリンピックの収益性を改善すると見込んでいる。さらに、ディスカウント事業や非食品専門分野に親和性の高い人材の獲得や、ユニーや長崎屋での実績を生かした統合作業を進めることで買収効果の早期発揮につなげるとしている。

 PPIHは35年6月期までの長期経営計画で、新規出店の拡大、既存店成長、インバウンド、食品強化型ドンキと並んで、M&Aを成長戦略の柱として掲げている。長崎屋やユニーでの実績からPPIHは総合スーパーの再生請負人と称される。25年7月にトライアルホールディングスが西友を買収するなど、スーパー業界の再編が加速している。PPIHは今後の業界再編の有力な受け皿となっていきそうだ。