芸能界で幅広く活躍し、70代に入ってより貪欲に仕事に取り組む俳優・高畑淳子。テレビドラマや映画の出演作が途切れない売れっ子だが、その背景には、どんなときにもポジティブなエネルギーを発し、周囲の空気を明るくする人間力がある。苦難もあった彼女の現在地と仕事への向き合い方を掘り下げる。聞き手=武井保之 Photo=逢坂 聡(雑誌『経済界』2026年7月号より)
高畑淳子のプロフィール
たかはた・あつこ 1954年生まれ。香川県出身。76年劇団青年座に入団。舞台、映画、ドラマ、バラエティなど幅広く活躍する。紫綬褒章、文化庁芸術祭個人賞、読売演劇大賞最優秀女優賞、紀伊國屋演劇賞個人賞、菊田一夫演劇賞演劇大賞など受賞歴多数。主な出演作にNHK連続テレビ小説『なつぞら』、NHK大河ドラマ『真田丸』、映画『お終活』シリーズなどがある。
元気と負けん気がないと人前に立つ仕事はできない
── 出演作が途切れません。俳優としての需要が高い理由をどう考えますか。
高畑 基本的に出演作はマネジャーに任せていますが、私を選んでくださった関係者の期待に応えたいから、その役柄を私が演じられるかを考えるより、絶対にできると思い込むようにしています。
でも、裏を返すと、自信がないから、強がっているんです。それでも、できると思われているからこそ選んでいただいたと考えて、9割方自分を納得させています。
── 芸能界の第一線で活躍を続けるために必要なことを教えてください。
高畑 健康と負けん気ですね。昨今のネット社会では、芝居を褒めてくださる方がいる一方、ひどい言葉を浴びせられることも少なくありません。怖い時代ですよ(笑)。元気と負けん気がないと、人前に立つ仕事は続かないでしょう。
── これまでの芸歴のなかでは、気持ちを強く持たないと続けられないようなこともありましたか。
高畑 それはいろいろありますよ。悔しい思いをしたことはたくさんありました。それに負けたくない執念で今生きている部分もあります。
── 芸能活動における〝失敗〟がありましたらお聞きしたいです。
高畑 ひとつ挙げるとすれば、舞台『欲望という名の電車』(2011年)で、世界の名だたる女優が演じてきた大役に自分から望んで挑戦したのですが、もう散々でした(笑)。でも、うまくいかなかった経験こそ糧になります。あの後は落ち込んだりもしましたが、今は不思議とあれも通過してよかったと晴々しています。
ただ、自分からやりたいと言って演じる役柄はもう十分。それ以降、求められる仕事をしていくことに決めました。俳優が自らやりたいという仕事はだいたいうまくいかないんです(笑)。
── その経験から得られたことを教えてください。
高畑 無謀な山に登ったというか、誰も求めていないことにトライしたというか。それは寂しい気持ちでしたよ(笑)。でも、山に登ろうとして戦ったことは、何よりの財産になっています。自分ができることだけをやっていても意外とつまらない。登れない山に5年に一度くらいは登ったほうがいい、という気持ちが今はどこかにあります。それに気づいたのは、この挑戦があったからです。
── そろそろ次の山に登る頃ですか。
高畑 どうでしょうね。もう71歳なので、セリフ覚えとかいろいろなことと戦いながら仕事に向き合わないといけない。今は、バラエティ番組でしゃべるだけで面白いと言われる領域に早くいきたいと思ったりします(笑)。
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年齢と経験を重ねていくと人として面白さが身につく
── 会社員は定年退職という仕事の区切りが訪れます。芸能活動にはそういった明確な線引きがありませんが、仕事の区切りはどう考えていますか。
高畑 舞台で演じている最中にセリフを忘れてしまうことが60〜70代くらいであるそうです。それが自分に起きて、何かやらかしてしまったときに、退こうと考えるかもしれません。そこがひとつのタイミングになると思います。ただ、映画やテレビドラマなどの映像作品は撮り直せるので、また違います。私は、年齢に関係なく、できる限り長く仕事を続けていきたい。年齢を重ねた俳優ほど貴重な宝を抱えています。元気で仕事ができるなら、これほど業界に有益な人材はない。その領域で生きていきたいです。
── 仕事以外の過ごし方を考えたりはしませんか。
高畑 休みをいただいても、旅行に行くよりソファーで寝ている方がいい(笑)。私は芝居しかしてこなかったから、ほかのことにまったく興味がないんです。「仕事が人生です」なんて偉そうなことは言えないですけど、考えてみれば、ほかの楽しみを知らない人生を送ってきました。
── 多忙ななかの気分転換は何かしていますか。
高畑 仕事が好きなので、あまり気分転換することを意識していませんが、あえて挙げれば家の掃除ですね(笑)。ふだんはあまり片付けていないところを整理したり、不要な物を捨てたりして。身の回りが綺麗になると気分がいいですよね。
── 今ご自身の課題に思っていることはありますか。
高畑 筋力アップです。クランチやスクワットを毎日欠かさずやっています。健康を保つためにも、仕事を続けるうえでも、筋力は欠かせません。健康と美容のためにパーソナルトレーナーをつけて本格的に運動している大御所俳優さんもいますが、私も考えているところです。
── 今の目標を教えてください。
高畑 セリフ覚えが速くなること。若い頃とは違って、切実な問題です。でも、年齢とともに経験値を重ねたことで、それに取って代わる面白さが自然に身についている気がします(笑)。自分をどう見せようとかではなく、ありのままで面白い存在になりたいです。
名だたる俳優が勢揃いした 主演シリーズ3作目
── シリーズ3作目となる最新主演作『お終活3 幸春!人生メモリーズ』は、誰にも必ず訪れる人生の終幕をどう迎えるかを考えさせられ、同時に大切な家族の存在に気づかせてくれます。
高畑 日々の仕事や日常に追い立てられるように生活していると、なかなか意識することがないかもしれませんが、居るのがあたり前に思っている家族にも、いつか人生の幕が降りる時が来ることを堅苦しくなく描いています。明るく楽しい、笑って観ることができる物語です。日本の名だたる名優さんたちが集まった撮影現場は、とても和やかな雰囲気でした。
── ユーモアが溢れる、心温まる物語のなかで、家族の愛や人を思いやる心の大切さを明るく元気に描いています。昨今の人同士が傷つけ合ってばかりいるSNS社会に対して、一石を投じる側面があると感じました。
高畑 基本的に私は、自分の芝居も、その作品も、観客にどう観て何を感じていただきたい、ということは考えません。みなさんそれぞれ感じることがあって、同じ映画を観た友人と私でも感想がまったく逆の場合もあります。それが映画や舞台などエンターテインメントの面白さであり、醍醐味ではないでしょうか。
── シリーズ作品は、同じことを繰り返すと飽きられてしまう、マンネリとの戦いになる部分もあると思います。意識されましたか。
高畑 その部分は、プロデューサーや監督が担っていると思います。私はいつもの役柄のままというか、角張らないようにふわふわ元気に生きていこうとする、この物語の主人公を演じました。
自分を振り返ると、長く続くシリーズ作品には、劇中の家族を見守っているような懐かしい感覚があったのを覚えています。『男はつらいよ』シリーズは、お正月に観に行くのが楽しみでした。この映画にも、そういう匂いがあるかもしれません。
── 今回の映画をご覧になった感想を教えてください。
高畑 主演しているので、なかなか客観的には観られませんね(笑)。でも、試写を観終わった時に、三田佳子さんが「いい映画になったわね」と言ってくださったんです。その言葉がとてもうれしかったことを覚えています。
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