(雑誌『経済界』2026年9月号より)
6月26日付の日経新聞は1面トップで「陸自、感染USB接続」との記事を掲載した。記事によると中国系ウイルスに感染したUSBメモリーが、陸上自衛隊の端末で1年近く使われていたという。防衛という国家の根幹部分に、サイバー攻撃が行われたことになる。
一般的にサイバーテロ、サイバー攻撃というと、インターネットを経由してハッカー集団が組織・個人のシステム・端末に侵入し、破壊活動や情報漏洩を行うイメージがあるが、実際には、今回の陸自の例のように、USBメモリーなどインターネットを介さずに侵入するケースもある。ネットワークから遮断されているから安全というわけではなく、USBを持ち込むことで防御は容易に突破され得ることを示している。侵略者たちは、人間の意識の隙をつきながら、さまざまな形で攻撃を仕掛けている。しかもそれが国家レベルで行われるとなると、それを防ぐのは容易なことではない。
国家によるサイバー攻撃は、目的ごとにいくつかに分類できる。
第1は機密情報の窃取。防衛計画や軍事研究、外交文書、先端技術など、国家安全保障に直結する情報を得るためにサイバー攻撃を仕掛けてくる。冒頭の陸自に対する攻撃も、実際の成果は別にしてその類と見られている。
「MirrorFace」というハッカー集団がいる。これは中国系と見られているが、5年間で200件以上のサイバー攻撃を、防衛省、外務省などの官庁や最先端企業・研究機関にしかけ、情報を窃取しようとしていたと見られている。ひと昔前であれば、いわゆるスパイと言われた人たちが人的ネットワークを使って収集していた情報を、今はサイバーネットワークから仕入れるという図式だ。
第2は重要インフラへの侵入。電力、ガス、水道、鉄道などの社会インフラに侵入し、有事には社会全体を麻痺させる。具体的例としては、2015年、16年にロシアの攻撃者グループがウクライナの電力会社にサイバー攻撃をしかけたことで、十数カ所の変電所が遮断され、数十万軒が停電被害を受けている。これはロシアによるウクライナ侵攻より以前のことだ。さらには21年に米国の石油パイプライン運営会社であるコロニアル・パイプラインがランサムウエア攻撃を受け、システムが数日間にわたり停止。その結果米国ではガソリン価格が上昇、複数の州で非常事態宣言が出る騒ぎとなった。
第3は世論工作。SNSやニュースサイトを利用して偽情報を拡散し、国民の分断を誘発したり、選挙や外交政策に影響を与えたりする。例えば24年の米大統領選では、ロシアがSNS上に大量の偽アカウントを展開し偽のニュース記事やプロパガンダ動画を拡散した。民主党政権はロシアのウクライナ侵攻に一貫して否定的な態度を取っていたことから、トランプ政権になれば政策が変わることを期待してのことだと言われている。
最後に北朝鮮に代表される身代金目的のサイバー攻撃。北朝鮮は国家財政が危機に瀕しており、国際的制裁のため外貨獲得も困難だ。そのため日本を含む企業に対してランサムウエア攻撃を仕掛け、身代金をビットコインで取得する。数多くの日本企業もその被害を受け、少なくない企業・組織が身代金を支払っていると見られる。米国の専門家は、これにより北朝鮮はGDPの4分の1を得ているという。
このように、サイバー攻撃は国境を問題としないだけに対策は難しい。攻撃と防御のイタチごっこは永遠に続く。