講談社で『ブルーロック』や『アルスラーン戦記』、『ガチアクタ』などの人気作を手がける「週刊少年マガジン」の土屋萌副編集長が、IP(知的財産)を活用したビジネスの大いなる可能性とその裏側を明かす。漫画の魅力をどのように引き出し、どのようなプロセスでアニメ化、映画化、さらにグッズ展開するのか。(雑誌『経済界』2026年7月号より)

土屋 萌 講談社のプロフィール

土屋萌
講談社 週刊少年マガジン編集部副編集長 土屋 萌
つちや・めぐむ 1987年5月12日生まれ。神奈川県出身。2012年に青山学院大学文学部を卒業し、講談社に入社。同年に週刊少年マガジン編集部配属となり、23年から副編集長を務める。現在は『ブルーロック』、『アルスラーン戦記』、『ガチアクタ』などを担当。過去には『七つの大罪』、『ランウェイで笑って』、『神さまの言うとおり』、『炎炎ノ消防隊』などにも携わった。

製作委員会を中心にアニメ化、映画化が進む

── 漫画作品を企画する際、編集者は作品の「面白さ」だけでなく、アニメ化やグッズ展開といったIP(知的財産)ビジネスの拡張性も意識されるのでしょうか。

土屋 まず大前提として作家さんが描きたいもの、漫画として面白いものを大切にしています。その上で編集者として、作品の個性をどのように世の中に出していくかという考えの中でビジネス展開を意識している人は多いと思います。

 ただ最初からビジネスのみを優先して作ると没個性的な作品になりやすいため、まずは作家さんの作品に対する考えや想い、熱量を大切にしながら、その魅力を増幅させていく順番で発展性を考えています。

── 現在、担当しているサッカー漫画『ブルーロック』を例に、アニメ化やグッズ化などへの展開の流れを教えてください。

土屋 当社にはライツ部門という、漫画原作以外のあらゆる二次利用展開を専門に扱う部署があります。アニメ化の場合は、アニメ制作会社やテレビ局、各メーカーさまなどと、当社のライツ部門で構成される「製作委員会」でいろいろなことを決めていき、そこから派生する形で映画化やグッズ化なども進めていくスタイルが主流です。

 製作委員会はどなたが発起人となるか、幹事となるかはケースバイケースなのですが、『ブルーロック』の場合は、バンダイナムコフィルムワークスのプロデューサーの方が原作を気に入ってくださり、熱意を持って提案していただいたことがきっかけでした。

── ブルーロックは女性ファンも多い印象ですが、当初からターゲットとして意識していたのでしょうか。

土屋 あくまでメインターゲットは少年漫画の読者さんですが、キャラクターが立ち、グッズに手を伸ばしてもらえる作品にしたい、という狙いは当初からありました。その上で、女性も含めた幅広い層に魅力的に映ればうれしいと思い、個性のあるキャラクター作りを意識しまして、その結果、性別や年齢を問わずたくさんの方々から愛される作品、キャラクターになっていると思います。

 例えば、連載が始まる前に各キャラクターのイメージカラーを設定しました。主人公の潔世一は蛍光グリーン、ライバルの1人である糸師凛はスカイブルーといった形で、その色見本を世界各国のライセンス先にも共有し、どの国でグッズを作ってもブランドが統一されるように徹底しています。

炎炎ノ消防隊炎炎ノ消防隊
炎炎ノ消防隊炎炎ノ消防隊
土屋副編集長が担当する『ブルーロック』(左上)©︎金城宗幸・ノ村優介/講談社、『アルスラーン戦記』(右上)©︎荒川弘・田中芳樹/講談社(光文社カッパ・ノベルス刊)、『ガチアクタ』(左下)©︎裏那圭・晏童秀吉/講談社、『炎炎ノ消防隊』(右下)©︎大久保篤/講談社

担当作品の累計発行部数1億部を目指したい

── ブルーロックは8月に実写映画も公開されますが、これまで担当された作品で、過去の企画で特に印象に残っているものは?

土屋 たくさんありますが、ブルーロックで2つ挙げるなら、1つは伊勢丹新宿店さんのポップアップイベントですね。現代アーティストの山下良平さんとのコラボで、作画のノ村優介先生が描き下ろした絵をアート作品として再構築して展示・販売しました。ファッションやカルチャーとの珍しい取り組みで、漫画やアニメ以外の入り口からたくさんの方々に喜んでいただけたと思います。

 もう1つは、サッカーの2022年ワールドカップでの日本代表のユニホーム発表にまつわる取り組みです。週刊少年マガジン本誌でのカラーページで主人公の潔が公式発表に先駆けて、実際のユニホームを着ているという先行発表を行いました。現実のサッカーと連動することで大変思い出深い企画となりました。

 他の作品では、『炎炎ノ消防隊』のリズムゲームアプリも良い思い出です。この作品は主人公の森羅日下部がキック中心の戦闘スタイルで、その動きはブレイクダンスを参考にしていて音楽との相性がとてもいいのです。それで、17年に作品のプロモーションとしてゲームを制作したのですが、アクションや音楽のカッコ良さもあり、そこを起点にして良い形で広まっていったと思います。

 また、僕が担当を外れた後の話ですが、『七つの大罪』のスマホゲーム(『七つの大罪 ~光と闇の交戦(グランドクロス)~』)はとても良い成功例になりました。講談社の歴史の中でもゲーム化による利益は最大規模だと思います。

── こうした他ビジネスへの展開により、原作側にはどのようにお金が支払われるのでしょうか。

土屋 プロジェクトや関わる会社によって多少の違いはあるかもしれないですが、ゲームの場合、基本的に作家さんとライツを管理する出版社に使用料が入ります。その上で、課金などによりさらに売り上げが発生する際はロイヤリティが製作委員会に入り、その委員会への出資比率によって各社に分配され、原作側にもお金が支払われる形になります。アニメや映画、グッズも大枠はそのようなスキームになっています。

── 今後の目標を教えてください。

土屋 ユニクロさんのTシャツの「UT」は全世界で発売されるものすごい企画で、担当作品とコラボさせていただくことが夢だったのですが、5月に「ブルーロックUT」の世界発売が決まり、叶ったのです。もう1つの目標は、師匠と言える先輩編集者に示された「担当作品の累計発行部数1億部」を目指したいと思っています。現在は運に恵まれて約8500万部まで来ているのですが、ここからがまだまだ遠くて……。

 それとこれは編集部としての目標でもありますが、世界的な作品、キャラクターを作りたいです。漫画発で、例えばミッキーマウスのような誰でも知っているモノ・存在を生み出したいですね。世界という観点では、連載漫画を時差なく楽しめる環境も整えたいと思っています。日本で発売されるタイミングで、サイマルで全世界に正規品を届けて、その対価を作家さんにしっかりと還元する仕組みを地球規模で整備することも、できるだけ早く実現したいです。

ブルーロック
高橋文哉さん主演の実写映画『ブルーロック』は8/7から東宝系にて公開される
©︎金城宗幸・ノ村優介/講談社 ©︎CK WORKS
ブルーロック
『ブルーロック』とコラボレーションしたUTは全国のユニクロ店頭・オンラインで発売中 ©︎金城宗幸・ノ村優介/講談社