バンダイナムコグループで、主に中学生〜大人を対象とした「ハイターゲット」のプラモデルなどを製造・販売するBANDAI SPIRITS(バンダイスピリッツ)。2018年の会社設立以来、着実な成長を続ける、その裏にある「魂を込めた商品づくり」やファンを得る仕掛け、今後のIP(知的財産)コンテンツの展開について、榊原博社長に聞いた。聞き手=藤麻 迪(雑誌『経済界』2026年7月号より)
榊原 博 BANDAI SPIRITSのプロフィール
さかきばら・ひろし 1964年1月15日生まれ。東京都出身。88年、日本大学経済学部卒業、バンダイ入社。Bandai Namco Taiwan社長、BANDAI SPIRITS取締役を経て、2023年より現職。
「魂を込めた商品づくり」で顧客の心をつかむ
── BANDAI SPIRITS(以下、バンダイスピリッツ)が、バンダイナムコグループの企業として2018年に立ち上がった理由を教えてください。
榊原 バンダイはお子さまをターゲットにした、おもちゃを製造・販売する事業からスタートしています。
これに対し、バンダイスピリッツは世界のハイターゲット市場で事業成長することを目的に、18年に設立しました。
例えば、現在、バンダイスピリッツが販売している『一番くじ(キャラクターくじ)』の購買層は10代後半から30代、それも女性が多くなっています。そういったさまざまなターゲット層に対応するべく、それぞれを専門的に扱うチームで企画・開発を行う必要があります。一番くじだけでなく、プラモデルやフィギュアもさまざまな層のお客さまが購入されています。
こうした背景から、お子さまだけでなく幅広いターゲット層にも力を入れるべきという考えの下、バンダイから独立する形でバンダイスピリッツが設立されました。
── アニメを含めた現在の市場環境をどのように見ていますか。
榊原 視聴環境の変化により、以前に比べると現在は幅広い層で、アニメに触れる機会が増えています。25年の邦画興行収入も、トップ5のうち3作品はアニメで、1作品はアニメの実写版でした。それだけ、アニメがカルチャーとして定着したと感じます。
また、世界的にも同様の傾向が見られます。作品としてのアニメはもちろん、グッズを扱うわれわれも、市場拡大の可能性を感じています。
── 事業領域でいえば「プラモデル」、「フィギュア・ロボット」、「キャラクターくじ」、「アミューズメント景品」の4つを展開していますが、特に伸びが大きい領域はありますか。
榊原 バンダイスピリッツではさまざまなキャラクターの商品を製造・販売しており、各カテゴリーを横断して楽しんでくださるお客さまも多く、プラモデルを筆頭に各領域とも堅調に伸びている状況です。
プラモデル事業で培ったものづくりの技術をベースに、新しい取り組みとして、26年に『ポケモン』を題材とした『プラコロ』と、『ガンダム』を題材とした『GUNDAM ASSEMBLE(ガンダムアッセンブル)』というテーブルトップゲーム(卓上ゲーム)の新ブランドを立ち上げます。欧米では卓上ゲームの文化が根付いており、日本でもアニメ作品を題材に、テーブルトップゲームを普及させたいと思っています。
── 各事業が堅調とのことですが、時代に合わせて変えていることなどもあるのでしょうか。
榊原 新しいカテゴリーへのチャレンジは常に続けながらも、ものづくりにおいてのこだわりは譲らなかったことが良かったのではないかと考えています。
最近では、円安や米国の関税などといった課題も生じていますが、ものづくりにおいては妥協せず、お客さまにとっての「想像以上のもの」を提供できるように努めています。
社内では、ものづくりに妥協せず、社名通り「魂を込めた商品づくりをしよう」と呼びかけています。
重さ8キログラムの「究極のガンプラ」
── そうしたこだわりの商品を教えてください。
榊原 ガンプラ(ガンダムのプラモデル)の『PG UNLEASHED 1/60 νガンダム』を今年1月末に発売しました。これは、「究極のガンプラ」です。パーツ点数が1300以上、ランナー(パーツの枠)が80枚を超え、箱込みの重さで8キログラムある、プラモデルとしての究極を実現したものです。技術面では、1枚のランナーに複数色の成形ができる多色成形機を使っています。これは、特許を取得している独自の技術です。
また、バンダイナムコグループとして25年12月、東京の新宿に「ONE PIECE BASE SHOP」を開設しました。こちらでONE PIECEのフィギュアを販売していますが、単にキャラクターのフィギュアを作るのではなく、お客さまにより喜んでいただきたいとの想いから、例えば新しくNBAの6チームとコラボレーションした商品など、企画・制作を行っています。
── 25年には、静岡で新工場・ミュージアムが竣工しました。
榊原 ガンダムのプラモデルについて、協力会社との連携などで生産拡大を図っています。そうした中、生産力強化と安定生産のために、既存工場に隣接した土地を購入し、新工場を設立しました。今年の夏頃に本格稼働予定です。
また、併設するミュージアムでは、来場者がプラモデザイナーになれるという体験ができます。それと同時に、どのようにプラモデルのパーツがプラスチックからできあがるのか、商品が形づくられていくのか、多色成形機をはじめとした独自技術などと併せて紹介するものです。
ミュージアムを設けた背景に、プラモデルに触れ、知ってもらう機会を提供したいという想いがあります。私たちは「体験価値」と呼んでいるのですが、子どもの頃にプラモデルを作ったことで、大人になってからまた作ってみようと購入されるケースがあります。それと同様に、お子さまの来場者にものづくりの体験価値を感じていただき、「将来、ここで働いてみたい」と思ってもらえれば非常にうれしいです。
── それと同時に、静岡のプラモデル製造協力企業との資本業務提携も進めていますね。
榊原 今、申し上げたつくり手の確保の他、人材を含めた将来的なものづくりの基盤を構築し、付加価値の高い商品を提供できるよう取り組んでいくことが、資本業務提携の目的です。従来は、成形、金型製造、パッキングなどの各工程で作業場所がバラバラだったのですが、効率的な生産ができるようになりました。
新工場においても、協力企業との連携でより生産効率を上げていく他、輸送経路の最適化による環境負荷の軽減も行っていきます。
全世界のお客さまに適切な時に商品を届ける
── ウェブ経由で購入する人が増えていると思いますが、ウェブと実店舗の販売比率は将来どのようになると考えていますか。
榊原 私たちの立場としては実店舗もECも伸ばします。高額な商品も増えてきており、実店舗で現物を見て買いたいというお客さまもいらっしゃるので実店舗は必要です。一方で、先ほどの究極のガンプラは、重さが8キログラムもあります。それを持って電車に乗り家へ帰るのは大変だから配送してほしい、というお客さまはECを選ぶケースもあり、どちらも重要だと考えています。
── 現在、目標としていることは何でしょうか。
榊原 ガンダムをはじめさまざまな日本のIP(知的財産)が世界に広がるとともに、私たちの商品も同じく世界に広めていきたいです。ただし、決してグローバルな市場だけを重視しているのではなく、むしろ、ここ数年は日本国内の市場が非常に伸びており、日本市場はさらに拡大の可能性があると思っています。
今は視聴環境が変化し、コンテンツが世界同時配信される時代です。そうなると、全世界のお客さまが欲しいと思うタイミングで商品を提供することが重要になりますので、適切なタイミングで商品をお届けするように努めています。
── 長期的な目標はありますか。
榊原 私たちのミッションは、お客さまの想像を超える商品・サービスを提供し続けることです。
常にお客さまに期待されるようなメーカーになることが、未来を見据えた目標です。
©創通・サンライズ